宮沢のお兄さんの墓の前で俺は気持ちを伝え、半ば強引に有紀寧とキスをした。
普段は静かな場所で、周りがそれぞれ絶叫している。

だが、次の日から宮沢の気持ちも確かめずにキスをしてしまった後ろめたさに、
彼女に逢うことが出来なかった。

 

そんな日々が一週間続いた放課後、珍しく最後までいた春原が元気よく叫ぶ。

「さあって!
今日も有紀寧ちゃんの所に行って、お茶でももらおうかな!!」

クソッ!
春原には不幸こそが一番似合ってるのに!!

「春原・・・
幸せなおまえの為に、ラグビー部の奴らにおまえ名義で悪口を言っておいた。
感謝しろ」

「あんた、なんばすっとー!?」

「気にするな。
人生、楽あれば苦もある。
幸福の後には必ず不幸が訪れるものさ」

最近の鬱憤(うっぷん)をこうして紛らわせている。
春原をイジメたり、イジったり、杏に辞書をぶつけさせたり、その他色々」

「あんた、口に出してるよー!!
最近のことは、全部あんたの企みだったのかー!!」

「ああ、すまん。
ワザとだ」

「普通に、無茶苦茶ひどいっすねー!!」

 

ガラッ!!

 

『ここに春原はいるかー!!』

 

「ひー!!
ホントに呼んでるよ、この人!!」

「ここにいたか!!
人のことを散々言いやがって、こいつ!!
ツラ、貸しやがれ!!」

「ちょっ、違うって!
まずは話しを・・・って、うわああああああぁぁぁぁぁぁぁ」

いつも通り、情けなく連れて行かれる春原。
骨は灰にしてやるから安心しろ(あんた、ホントにひどいっすねー!! byへたれ)
さて、帰るか・・・

 

ハア・・・
何故こういう時に限って、杏に捕まってしまうんだろう。
ったく、こっちは悩みに振り回されているってのに・・・

「岡崎」

「ん?」

カバンをぶら下げ、人気のないはずの廊下を歩いていると後ろから名前を呼ばれた。
後ろへ振り向く前に・・・

 

ガバッ!

 

「ングッ!?」

いきなり口を塞がれ、側の教室に連れ込まれた。
一瞬だったから抵抗も出来なかった。
状況に気づき、暴れる前に向こうから手を離した。
慌てて距離をとり、相手を伺う。

「あんた・・・」

「すまなかった、手荒いマネしてよ。
俺はこの良い子ちゃんの生徒じゃないからな。
見つかるわけにはいかないんだよ」

その相手は資料室の窓から入ってくるあの男だった。
言葉は軽いが、眼は鋭く俺を睨みつけている。

「俺がどうしてこんな無茶なことをしたか分かってるよな?」

「・・・宮沢か。
あいつ、どうしている?」

「そりゃ、落ち込んでいるさ。
俺たちに隠そうとしているがバレバレだ」

「そうか・・・」

やっぱり、俺は最低な行動をしてしまったらしい。
当然だ、宮沢の気持ちを確かめずにそんなことをしてしまえば。
あいつは俺に兄のような感じだったのだろう。
それを俺は壊してしまった・・・

「オイ、何一人落ち込んでるんだよ。
まさか、おまえにキスされたのがショックで落ち込んでいると思っているのか?」

「?
そうじゃないのか?」

他に落ち込む理由があるのか?

「・・・・・・
本当なら一発ぶん殴ってやりてぇ所だが、ゆき姉が望んでいるのはそうじゃねぇからな。
着いて来い」

「ちょっ・・・!!」

俺の手を掴んでから、空き教室を出てズンズン歩いていく。
こいつは教師は元より学生に出会うのもマズイのに堂々と進む。
それは自分のことより、宮沢の方が大切だという気持ちの表れ。
俺のはできない強さ・・・

 

 

着いた先は予想通り、資料室。
・・・宮沢がいる場所。

「何だよ・・・
今すぐ宮沢に謝って来いってことか?」

「いい加減腐るのはやめろ。
どうして自分で勝手に行動して、勝手に傷付いて、勝手に落ち込んでいるんだよ」

「っ!!」

言葉が出なかった。
確かにその通りだったから・・・

「とりあえず、ドアの隙間から覗いてみろ。
いいか、そっとだぞ」

「?」

「もし・・・
それを見ても気持ちが変わらなかったら、ゆきねぇには悪いが俺たちは一歩も近づけさせねぇ」

「・・・・・・」

正直言って覗き見なんて気が進まなかったが、ここはするしかなそうだ。
心の中で宮沢に謝りながら、気づかれないようにドアを開け、部屋を除く。
すると・・・

「・・・・・・っ!」

確かに宮沢はいた。
窓から外を見ているから、こっちからは背中しか見えない。
でも、その背中から感じる雰囲気が違う。
いつも通りのほんわかとしたものでもなく、まして落ち込んだようでもない。
あれは・・・

 

静かにドアから離れ、男の側に戻る。
さすがに廊下のままでマズイので、隣の空き教室に入る。

「で、どうだった、ゆきねぇを見て?
それでも、自分勝手に思っているようなら・・・」

「いや・・・
そんな考えは宮沢を見た途端、消えちまったよ。
いや、なおさら情けなくなっちまった」

「それだけ分かれば上等だ。
見たら分かれるが、ゆきねぇは落ち込んでいるはいるが理由は違う。
言ってみな、ゆきねぇはどうだった?」

「・・・寂しそうだった」

そう・・・
これが今の宮沢を見たときの印象だった。

「そうだ。
墓参りの次の日、ゆきねぇはソワソワしていた。
決しておまえが言うような落ち込んでもなければ、嫌がってもいなかった。
ただ、恥ずかしそうに休み時間や昼休みのチャイムが鳴るたびに、入り口の方を見ていてたよ。
俺たちも初めはおまえをぶん殴って、祝ってやろうと思ったさ。
でもよ、その日はおまえは来なかった。
そりゃ、そうだろう。
資料室を埋めるくらいに俺の仲間たちが待ち構えているんだ。
あの馬鹿でさえ、回れ右だ」

「・・・・・・」(汗

行かなくてよかったと、ちょっと思ってしまった。

「それでゆきねぇは、すまなそうに大勢で来ないでくれとと言ってきた。
相談して俺だけ放課後に来るようにした。
だがよ、岡崎はいつまで経っても来ない。
それに比例するように、ゆきねぇも笑顔が無くなってきた。
本人は気づかれない様にしていたがな。
一度、俺は窓からそっと覗いたことがあった。
すると、イスに座って笑顔の欠片も無くとても寂しそうだったよ。
俺が窓から入ると、一転笑顔で出迎えてくれた。
その日もおまえは来なくて下校時間になった。
片づけを手伝って、窓から帰ったフリをしてもう一度覗いた。
・・・泣いていたよ。
岡崎が使っていたコップを抱きしめてな・・・」

「っ!!」

泣いていた?
宮沢が・・・?

「本当なら自分から会いに行きたかったんだろう。
だが、ゆきねぇとおまえは学園の表面的に知り合いすらもないらしいな。
それでゆきねぇがいきなりおまえの教室に訪ねてきたら、迷惑が掛かると思って我慢していたよ。
この一週間、見ていられなかったぜ。
だから、こうして無理矢理引っ張ってきたのさ。
勝手にな」

「・・・・・・」

言葉も出なかった。
俺が一人相撲している間、宮沢がそんなに苦しんでいたとは・・・

「ゆきねぇが甘えられるのはおまえしかいねぇ。
俺たちでは駄目だった。
・・・行って来い。
そして、明日からゆきねぇの笑顔を見せてくれ」

「・・・・・・ああ。
色々迷惑を掛けたな」

「勘違いするな。
ゆきねぇの為さ。
それにおまえとの仲をまだ認めちゃいねぇよ。
認めてほしけりゃ、ゆきねぇを幸せにしろ。
それだけだ」

「分かった」

「俺はこのまま帰る。
・・・明日、楽しみにしているぜ」

「任せておきな」

力強く答え、教室を出て隣の資料室へ向かう。
もう俺の中には不安はない。
ただ宮沢を安心させ、笑顔が見たいだけだった・・・

 

 

ガラララ・・・

 

「よお・・・」

「・・・・・・いらっしゃいませ」

知り合った頃とに何度も着た時のように入る。
宮沢も一瞬遅れたが、同じような対応をしてくれる。

「驚かないんだな?」

「ええ。
ちょっと願掛けしましたから」

「願掛け?」

「それは後でお話しします。
今は・・・」

お互いに一歩一歩近づいき、
手も届く範囲で止まる。

「宮沢・・・俺は・・・・・」

「朋也さん、先に私から言わせてください」

「しかし・・・」

「お願いします。
どうしても先に言わせてください。
それに、お答えしなくてはいけないことがありますし」

「・・・わかった」

ここまで言われたら、頷くしかない。

「朋也さん・・・
初めて貴方と出会ってから、毎日が楽しくて幸せでした。
休み時間になる度に、いつ来てくれるかドキドキするほどに。
時々、授業中に来たこともありましたね。
他の方々には申し訳ないのですが、朋也さんと一緒にいる時が一番心が躍りました。
それから膝を貸していただいてから兄のように安らぎと、それ以上にある想いが膨らみ続けました」

懐かしそうに、そして想いを込めた言葉を俺に伝えてくれる

「そんな時に、墓参りでのキス・・・
兄を含め、皆さんの前で気が動転して落ち着きませんでした。
家に帰って、改めて思い出してみて始めて気づいたんです。
私は兄の面影を重ねていたのではなく、岡崎朋也さんという方に想いを寄せていたと・・・
次の日、資料室でどういう風に朋也さんにお話ししようか・・・
どうやって想いを伝えようか・・・考えていました。
ですが・・・
朋也さんは来てくれませんでした。
一日、2日、3日・・・
そして一週間が経ちました」

「・・・すまなかった。
俺一人勝手に決め付けて・・・」

「いえ、謝ることはありませんよ。
この一週間、考えさせられましたから」

「考え?」

どういう意味だ?

「朋也さんへの想いには気づきましたが、どれほど大きいのかと確認させられました。
朋也さんのいない毎日・・・
それがどれほど辛く、寂しいものか・・・」

「それは俺も一緒だった」

「そうですか。
少し嬉しいです」

だからこそ、あそこまで腐っていたんだろう。
もう少し、度胸があれば直接宮沢に会って確かめれたのだろうが・・・

「だから・・・
朋也さん・・・
貴方へ伝えたいことがあります。
私は貴方が好きです。
キスは怒るどころか嬉しかったです。
兄の面影を重ねているわけではありません。
貴方自身が好きなんです。
わ、私と付き合ってください!!」

「・・・俺も宮沢が好きだ。
離れて嫌ほど痛感した。
行動が先になってしまったが、俺の方こそ付き合ってくれ」

「はい!!」

お互いに抱きしめ、もう一度キスを交わす。
占いどおり、ちゃんと眼を瞑って。

宮沢・・・いや、有紀寧。
今度は離さないからな・・・

 

 

有紀寧・ハッピーエンド!!

 

「ところで、願掛けって?」

「お呪いに、想い人が自分の下へ来てくれるというのをやってみました」

・・・俺の行動も、あの男も全てはお呪いの手のひらで踊っていただけかもしれない(汗

 


某お嬢様後継者、有紀寧嬢でございます。
設定似すぎです(弟の次は兄・お嬢様・その他もろもろ)
もう『あははー』が聞こえてきそうです(笑
彼女のSSはキスで終わってしまったので、どういう流れにするか悩みました。
いまだ有紀寧が自分に兄の面影を感じているかもしれないと思う朋也。
兄ではないのに甘えられ、誰より彼の側が安らぐ有紀寧。
ちょっと今回は朋也が周りに流されるという、杏ルート並にへたれになってもらいました。
どうやら、智代SSがコメディならおまけSSはシリアスに。
おまけSSがコメディなら、智代SSがシリアスになる傾向があるようです(笑