オレ事、白銀武は前から練っていた計画をついに発動させた。

「月詠さん、一つお願いがあるんですけど・・・」

「はい?
何でございましょう?」

今、リビングにはオレと月詠さんしかいない。
・・・と言っても深い意味ではなく、ゲーム(バルジャーノンではなく落ちもの系)に付き合ってもらっていただけだけど。

「あの・・・」

冥夜は入浴中で、純夏は自分の部屋に戻っている。
3バカは見張り役として、風呂場の前で陣を敷いている。

「・・・?
何か言い難いことですか?」

「ま、まあ・・・そうかもしれません」(汗

今がチャンスだが、事は慎重にいかなくてはならない。
時間もないし、この人を説得(懐柔)するのは並大抵な事では無理だという事はよくわかっている。

「冥夜様の事ですか?」

「い、いいえ・・・
冥夜という事じゃなくて誰もいない方がいいんですけど・・・」

「まあ!
お気持ちは大変嬉しゅうございますが、武様には冥夜様がいらっしゃるではありませんか」

「・・・あえて言いますが、そんな意味ではありませんし冥夜ともそんな関係になっていません!」

「冗談です。
ですが、冥夜さまを蔑ろにするようなお引き受けできませんよ」

やはり、この人は冥夜を第一に考えているから予想は出来ている。
ここからが正念場だ。

「無論、何もタダで聞いてもらおうと思っていませんよ。
それなりにお礼も考えています」

「お礼・・・ですか?」

そう。
これが月詠さんに対する切り札。
本当はすぐに出すものではないが、月詠さんを相手に有利に持っていく事は出来ない。
だから、切り札を出して一気に了承してもらう作戦だ。
その切り札とは・・・

「はい。
もし、了承してくれたら『尊人の一日(24時間)フリー権』を差し上げます!!」

 

ドッカーン!!

 

「っ!!」

これにはさすがの月詠さんも息を呑んだ。
オレと冥夜の誕生日に見た月詠さんの○ョタ好きは目の辺りにしている(ちょっと月詠さんのイメージが崩れたが)
それからというのも、尊人は野生の勘を働かせて月詠さんに近付こうともしない。
これは効くはずだ(ちなみに尊人には了承なし)

「・・・武様。
そのような事で私が冥夜様を裏切るとお考えですか?」

「はい」(即答

「・・・・・・」

いつもの穏やかな笑みを浮かべ、見た目は動揺を感じない。
だが、背中に回していた右手が逆側からはみ出している。
それだけなら何も感じないが手を『ワキワキ』と動かしている(汗
その行動にどういう意味が込められているかはわからないが、身体は正直だ(笑

「さて、どうします?
何なら、もう一日増やしてもかまいませんよ?」

尊人は嫌がるだろうが会わせてしまえばこっちの勝ちだ。
月詠さんが逃がすはずがないからな。
尊人、オレの野望の為に犠牲になってくれ。

「・・・わかりました。
他ならず武様のためです。
お引き受けしましょう」

「ありがとうございます!!」

よっしゃ!!
何か了承してもらった事より、月詠さんに勝ったという事の方が嬉しいぜ!!

「それで私は何をすればよろしいのでしょうか?
チェーンロックの強化から鑑様をご両親の所(オーストラリア)へ送り届けるまで、たくさんございますよ」

「何気に純夏を追い出す関連しか聞こえないのは気のせいですか?」

「それは武様のお考えすぎですわ」

おおっと、そういえば本題を話していなかったな。
フッフッフッ、ついに夢が叶うぜ!!
一度味わってしまったら忘れられないあの瞬間!!
それを死ぬほど味わうのだ!!

「実は・・・」


 


2003 age 『マブラヴ・エクストラ』

「夜の密会」


 

約束を取り交してから数日が経ち、皆が寝静まった頃についに決行した。

「モグモグ、ゴックン!!
月詠さん、おかわり!!」

「は、はい、かしこまいりました」(汗

うーん!
これだよ、これ!!
やっぱり旨いぜ!!

「お待たせいたしました。
私製の『プディング』でございます」

「待ってましたー!!」

もうお分かりだと思うが改めて言うと、
オレが頼んだお願いとは・・・

『月詠さんが作ったプリン(月詠さんから言えばプディング)を一人だけで死ぬほど食いたい!!』

・・・以上!!
何だよ、文句あるか?
そのセリフを言う前に一度でもいいから、このプリンを食ってみろ!!
それで言えたら、貴様は人間ではない!!(断言
それほど旨いんだよ、月詠さんが作ったプリンはよー(しみじみ

「ハア・・・
武様が冥夜様までご内密にするほどの事ですから、どれ程のことかと思えば・・・」(苦笑

「オレにとっては夢に出るほどだったんスよ!!
それにラクロスの優勝パーティの時だって、純夏に盗られて(『取』ではなく)ちゃんと食えなかったんだから!!」

必死に食いながら(ちゃんと味わってるぞ)、答える。
クソッ!
思い出しただけで腹が立つ!!
純夏とは決着をつけないといけないな。

「あ、あの・・・」

「ん?」

月詠さんらしくない小さな声で呼ばれ顔を上げる。
すると、少し俯きながら顔を赤くしてモジモジしていた。
・・・?

「あの・・・、そこまでプディングがお好きなのですか?」

「うーん・・・
正確に言えば『月詠さんが作ったプリン』がだけどね」

これを食ってしまったら、市販のプリンなんて泥と一緒だぜ!
そう答えると、何故かなおさら俯いてしまった。
なぜだ?

「それでは、武様は私の料理が気に入っていただいたという事ですか?」

「モチロン!!
良いお嫁さんになるぜ!!」

「っ!!」

いかん、あまりの旨さに妙なテンションになってしまった。
仮にも年上(推測ではそんなに離れていないと予想)に言うセリフじゃないな。

「月詠さん」

「は、ははははははははっ、はい!?」

謝ろうとして声をかけると、かなりドモリながらガバっと顔を上げる月詠さん(汗
しかも、頬といわず顔全体(耳まで)真っ赤になっている。
真っ赤さでいえば、料理対決の時の尊人がキャンプ(としか言いようがない)をしていた時以上だ。
風邪か?

「大丈夫ですか?
顔が赤いようですけど?」

「い、いいえ、何でもございませんわ!
それより、おかわりをお持ちしてきますので、し、少々お待ちください!!」

「へっ?
あ、あの・・・」

「失礼します!!」

ダッと駆け込むように台所に消えていく月詠さん。
あの人には珍しいぐらいに動揺していたな。
怒っているようには見えなかったし・・・
まっ、いいか。
残りを食べてしまおう。

ちなみに、取ってくる筈なのにかなり時間が過ぎてから戻ってきた。
その時には月詠さんも普段のとおりになっていたので、特に追求しなかった。

 

 

それからしばらく経って、さっきから気になっていた事をぶつけた。

「月詠さん、何でイスに座らずに俺の後ろに立ってるの?
一緒に食べましょうよ」

「その気持ちは大変嬉しゅうございますが、
私は武様の給しをしていますのでお気になさらないでくださいませ」

さすが冥夜専属のメイドさん&教育係。
そこの辺りのプライドは高いな。

「別にいいよ。
冥夜もいない事だし、もっとフレンドリーに行きましょうよ」

「フレンドリー・・・にですか?」

「そうそう。
オレは根っからの庶民だし、堅苦しいのは苦手なんだよ。
ほらほら、月詠さんの分も用意するから座ってて」

台所にあるプリンがどう置いてあるか解らないけど簡単に取れるだろう。
そう考えながら立ち上がろうとすると、月詠さんに慌てて止められた。

「わ、わかりましたから、武様は座ったままでいてください!
私もご一緒にさせていただきますから!!」

「わ、わかりました」(汗

今度はピューッと駆け出して再び台所に飛び込んでいく。
そんなにオレの用意に不安があるのだろうか?

 

一緒に食べてながら(オレはガツガツと月詠さんはチビチビと)会話しながら盛り上がっていた。

「クスクス。
武様は学園でそのような事をしていらっしゃるのですか?」

「ええ。
その後に、まりもちゃんから大目玉っすよ」

「それはそうでしょう」

おかわりを持ってきた月詠さんが何か考えるように感じ、
何か思いついたのか余裕の笑みを浮かべた。

「武様、失礼ですがそのスプーンをお貸しくださいませ」

「えっ?
オレが使っているスプーンを・・・ですか?」

「はい」

「わかりました、どうぞ」

疑問に思うなという方が無理だが、首を傾げながら素直に持っていたスプーンを渡す。
どうすんだべ?(何故か田舎弁)

「はい、アーンしてください」

「なっ!!」

何を思ったのか、月詠さんがおかわりのプリンを掬ってオレの口元まで持ってきた。
しかも、落とさないように左手を添えてですよ!!
どうしますか、隊長!?(隊長って誰だ)

「武様、お口をお開けください。
乙女にいつまでこのような恥ずかしい事をさせたままでいさせるおつもりですか?」

「あ、すみません」

やっぱり、月詠さんも恥ずかしいのか?
いや、この表情は明らかにからかっている!!
いくら月詠さんでもあっさりと負ける訳には行かない!

「つ、月詠さん、それはさすがに恥かしいですよ。
それに『乙女』はちょっと・・・」

さすがに乙女はかなり厳しいと思う。
だが、月詠さんからは意外な答えが返ってきた。

「あら、私は正真正銘『乙女』でございますよ」

「へっ?」

い、今、何と・・・?

「ですから、私はまことに残念な事に未だ『乙女』のままでございます」

「し、失礼しました!!」

ひ、ひえー・・・
ま、まさか・・・ね。

「武様」

「は、はい!」

思わず立ち上がって敬礼までしてしまう(汗

「それでいつになったら食べていただけるのでしょうか?」

ニッコリと微笑む月詠さんに何故か恐怖を感じる。
こ、これは、降伏しかあるまい・・・

「はい、アーンしてください♪」

「・・・ラジャー」(泣

 

この後、食べきるまで『アーン』で食べさせてもらった。
そのプリンの味は様々な意味で甘かった・・・

 

 

後日も時々、月詠さんと夜の密会を続け手料理を堪能している。

「武様ー、ご用意が出来ました」

「はーい、今行きます」

文句あるか?

 

 

 

追伸1
食べすぎで体重が増えてしまい、純夏にバレかけてしまった(汗

 

追伸2
月詠さんは『尊人を一日(24時間)フリー権』を何故か放棄してしまい、
その分のツケがオレの所に周ってくる(泣

 

追伸3
月詠さんたっての希望で『真那さん』と呼び方を変えた。
それが新たな騒動に発展するのは言うまでもない。

 

 

終わりでございます