ネリネは、あれからも歌い続けている。
鎮魂歌(レクリエム)ではなく、彼女の中にいるリコリスと共に空へ届けとばかりに大きく、優しい歌を。
その歌に惹かれ、魔界の住民がわざわざ聴きに来るほどに(しかも魔王のおじさんが招待したらしい)

もちろん、学園生活も楽しんだ。

10月には体育祭・・・
11月は文化祭・・・
12月にクリスマス・・・
1月に正月・・・
2月にバレンタイン・・・
3月にホワイトデー・・・

そしてオレ達も三年になり、
皆また同じクラス(2人のおじさんの差し金)で楽しくやっている。

そんな中、ある日に進路相談の話しが出た時、
ある不安と考えが浮かんだ・・・

 

「・・・というわけなんです」

「フム・・・」

日曜日、その事を魔王のおじさんに相談にってもらう為にネリネの屋敷に向かった。
幸い、ネリネは最近目覚めた料理に凝り始め、買い物に出て行っている。
ラウンジに通してもらい、紅茶を用意してもらっているおじさんに全てを話した。

「要するに・・・
稟ちゃんは魔法を使えるようになりたいわけだね?」

「はい」

おじさんに向かい合うように座っている。
高校卒業後は付属大学(亜沙先輩達も入学している)を希望している。
そして、そこからはネリネと共に生きていく。
魔界のプリンセスでもある彼女は魔界に戻らなくてはいけないだろう。
その時はもちろんオレも着いていく。
だが・・・

「オレは所詮、人間です。
ろくな魔力もありませんし、使えません。
だから、少しでもいいんです!
オレに魔法を教えてください」

魔界に行けば、当たり前の事だが魔族がいる。
そこにオレは魔王候補(というより決定)となっている。
学園の男達の嫉妬と憎しみでああなのだから、
魔界はそれこそオレを殺すくらいワケはないだろう。

「でもね、稟ちゃん。
キツイ言い方になるけど、人間と魔族のキャパシティは桁違い。
君が死にものぐらいで身に着けてもたかが知れている。
それに私やネリネが、君が考えている事は絶対にさせないよ」

「だからこそ、お願いしているんです。
ネリネとは支えあいたい。
こんなつまらない事でネリネに心配をしてもらったり、
おじさんに迷惑を掛けたくないんです」

これでもかってくらいに頭を下げる。

「これは自分で解決したいんです。
無駄かもしれません。
でも、やらなくて後悔はしたくないんです」

頭を下げたまま、ジッと待つ。
数分・・・もしかしたら数秒かもしれない間、無言が続いた。
その沈黙を破ったのは・・・

「フフ、フフフフフ・・・」

おじさんの笑い声だった。

「あ、あの・・・」

「フフ・・・
ご、ゴメンね、稟ちゃん。
決して君をバカにして笑っているんじゃないよ」

「はあ・・・」

たぶん、今のオレはとても間抜けな顔をしていると思う。
そんな事にも気にも留めず、おじさんは理由を話してくれる。

「稟ちゃんがあまりにも稟ちゃんらしくてね。
私も少し悪ノリをしてしまって、試すような事をしてすまなかった」

「試す・・・?」

どういう事だ?

「うん、そう。
まあ、そのお詫びにいい事を教えてあげよう」

「良い事?」

「その前に・・・
ネリネちゃん、そこにいるんだろう?
入ってきなさい」

「えっ?」

その言葉に疑問を持つ前に、
ドアが開いてそこから・・・

「ネリネ!」

「すみません、稟さま」

申し訳なさそうな表情なネリネに全て聞かれていた事が分かる。
ど、どうしよう?

「ネリネちゃんもいつまでも立っていないで、座ったらどうだい」

「・・・はい、失礼します」

一言断って、オレの隣に座る。
まずい・・・
あきられたか、もしかしたら愛想を尽かしたかもしれない。

「ネリネちゃん、今の話を聞いてどう思ったかな?」

直球!?
オレはさっきまで以上に不安を抱えて、答えを待つ。
そして、彼女は言った・・・

「お父様の言うとおりだと思います。
稟さまは稟さまですから。
ご自分が傷ついても他の皆様を優先し、
悲しんでいる人を放っておかない、昔からの稟さまです。
そんな人だからこそ、私も『リコリス』も恋をし愛しているんです」

「ネリネ・・・」

その言葉にどれほど安心しただろう。
その笑顔が今ほど嬉しい事はどうしてだろう。

「稟さま・・・」

彼女はそっと両手を伸ばしてオレの頭を抱きしめる。
トクントクンとネリネの胸から聞こえる鼓動に、
恥ずかしさ以上にその温もりを離したくなかった。

「ですが稟さま。
もっと、ネリネの事を信じてください。
悩みがあれば私に話してください。
私にとって稟さまが全てです。
ですから・・・」

「うん、わかったよ。
ゴメン」

「はい、許してあげます」

こんな一途に想ってくれるネリネをこんなに不安を感じさせていた事に謝りながら、
新たな決意を胸にする。
そんな良い雰囲気は・・・

「うんうん、ネリネちゃんも良い子に育ったね。
パパは嬉しいよ!!」

号泣に男泣き・・・いや、親泣きしているおじさんの声で消え去った。
慌ててネリネから離れる。

「あっ・・・」

ネリネさん・・・
そこでそんな寂しそうな顔をしないでくれ(汗

「ゴメンね、ネリネちゃん。
本当はパパも野暮な真似はしたくなかったんだけど、
話しが終わってないからね。
この後にいくらでも稟ちゃんに甘えておいで」

「お、お父様」(恥

「お、おじさん!
そ、それで!?」

オレの方がこれ以上耐えられなくて、強引に話を戻す。

「もうちょっと親子のスキンシップをしたかったのだが、稟ちゃんがそういうなら仕方がない。
それじゃ話を戻すけど・・・
稟ちゃん、まずは魔力球をだしてくれないかい?」

「魔力球ですか?」

おそらく、今のオレの実力を見るためだろうな。
でも、最近やってもいないし呆きられないだろうか?
そんな事にならないよう全力で・・・

「稟様、半分くらいの魔力でいいですよ」

「へっ、半分?」

それじゃ、魔力球が出来るかどうか・・・

「そうだよ、稟ちゃん。
それ以上は危険だからね」

危険?
どういう意味だ?

「ものは試しでやってみなさい」

「はあ」

「頑張ってください、稟様」

半分くらいじゃ、あまり頑張れないけどね。
取り合えず言われたとおり、右手の手の平の上に魔力を集中する。
せいぜい、弱弱しい小さなものだと想像していたが・・・

 

バチバチバチバチ・・・!!

 

ネリネが体育館を吹っ飛ばした並の魔力球が生まれた(汗

「なっ!?」

「フム・・・
思ったとおりだね。
ねえ、ネリネちゃん」

「あ、あの・・・・・・」(照

魔力片手にあたふたしているオレに、ものすっごく笑顔なおじさんと何故か照れているネリネという、
おかしな光景が繰り広げられた(汗

 

それから何とか落ち着き(よくパニックで暴走しなかったな)、
新たに入れてくれた紅茶を一口啜って口を開く。

「で、どういう訳なんです?
オレはこんな魔力なんて持っていなかった。
それが何にもしていないのに急にこれほど・・・」

「急かすのは良くないよ、稟ちゃん。
紳士たるもの大らかに生きなくちゃ」

実の娘にスクール水着やメイド服を着させるあなたに言われたくありません。

「まあ、原因だけでいえばネリネちゃんだよ」

「ネリネが?」

思わずネリネを見ると真っ赤っ赤になっている。
内心、首を傾げながら紅茶をもう一口。

「稟ちゃん、ネリネちゃんを抱いただろ?」

「ブーッ!!」

な、何突然言いますか、この人は!!
ネリネもなおさら小さくなっているし!!

「そ、それがどういう関係があるんですか!?」

「大いに関係あるよ。
ネリネちゃんは、その行為中に稟ちゃんに魔力を流していたんだろうね」

「魔力を・・・?」

「おそらく無意識だろうね。
知っての通り、ネリネちゃんの魔力は膨大。
そこに一番深い繋がりになっている時に流れちゃったんだろうね」

「ネリネ・・・
そうなのか?」

「・・・はい。
私も最近気づいたのですが・・・」

なら、その分ネリネの魔力が弱まっているんじゃあ・・・

「本当に稟ちゃんは顔に出やすいね。
何を考えているなんて魔法を使わなくても分かるよ」

グサッときましたよ、おじさん(泣

「心配しなくても大丈夫。
無意識だからね、一晩眠ると回復するぐらいだよ」

そうか・・・
よかった・・・

「もう一つ言っておくけど、稟ちゃんのキャパシティは人間の中では飛びぬけている事も幸いしたよ。
だからこそ、ネリネちゃんの魔力を受け止められたというのもある」

「へえ・・・」

運が良かったのかよくわからないな。

「・・・そんな現実的な理由より、
リコリスが稟ちゃんの中へ行きたがっていると考えたほうがロマンチックだね」

「そうですね」

オレの中にもリコリスが・・・
そっと自分の胸に手を当てる。

「ちなみに、今の稟ちゃんのキャパシティの量を考えるとネリネちゃんとは数10・・・」

「お父様!!」

何か危険な発言をかまそうとしるおじさんの口を、
ネリネが慌てて塞ぐ。

「モガモガ(離してくれないかな、ネリネちゃん)」

「2度と言わないですか?」

「モガ(ウンウン)」

何故か通じ合っている親子の会話(汗
ネリネも手を戻して座りなおす。

「だから、稟ちゃんが強くなりたかったらネリネちゃんを沢山抱いてくれたらいい」

「お、おじさん!!」

アンタ、親だろ!!
なに進めているんだよ!!

「そして、ついでに孫を抱かせてくれないかい?
稟ちゃんとネリネちゃんの子供なら、きっと可愛いだろうね」

「おじさん!!
アンタおかしいよ!!」

ゼエゼエと息切れしてしまう。

「おお、そうか。
すまなかったね、稟ちゃん」

よ、ようやくわかってくれたか、一人の親よ。

「そんな口実で子供が生まれたらいけないよね。
魔力なんて2の次・3の次でいいから、孫を優先的にしてくれたまえ」

ぜんっぜん、わかってないよ!!
こうなったら・・・

「ネリネ、オマエから言ってやれ!!」

「は、はい、お父様・・・」

さすがに実の娘に言われたら、理解するだろう。

「孫は男の子と女の子、どちらがいいですか?」

こっちもわかってねー!!(泣

「そうだね・・・
ネリネちゃんにリコリス・プリムラと女の子が多いからね・・・
この辺りで男の子がいいねぇ」

ナチョラルに会話を進めるなよ!!

「どうしましたか、稟さま?」

「おやおや・・・
どうしたんだい、稟ちゃん?」

もういいです(泣

だれか、この天然親子を何とかしてくれ・・・

 

 

それからオレの魔力は上がるに上がって(何も聞かないでくれ)、
大学卒業時には魔族だろうが怖いものなしになった。
魔界に行っても、何故かオレに被害や嫌がらせは起こきなかった。
その理由はオレが気づかれない所で・・・
『魔界のプリンセスが婚約者(オレ)を侮辱している輩に人誅を下してる』と、
結婚目前に聞かされた。

 

 

ネリネ・パッピーエンド!

 


人間界の常識に疎い魔界のお姫様にして、
大人しい性格だけど稟に危害を加える者には攻撃魔法の制裁を与える一途な子(笑
やっぱり体育館の破壊イベント(?)が笑えました。
害虫呼ばわりに『稟さまを侮辱する者に掲げる太陽の光はありません!』ですよ。
その稟にはスカートの中を見られても、ジッとしている健気さ。
いいですね。
ネリネに関らずキャラ全体に言える事なんですが、キャラにストーリーが着いていっていません。
ぶっちゃけて言えば、短いですしCGも少ないです。
ネリネとリコリスが融合する場面や、Hイベントが一つだけでいいから他のイベントのCGがほしかったです。
『SHUFFLE!』の中では一番なネリネのSSですが、
何故かシリアス7割コメディ3割、オリジナル設定(魔力云々)まで作っちゃいました(汗
当初は、ALLコメディの予定だったのにおかしいな(汗
その分、思うが侭に書いたので満足です。
最後に魔王のおじさんも気に入っています。
好きなセリフは『パパ、いらないのかい!?』
爆笑しましたよ。