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『 晶子の枕 』
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「無い………な」
俺は絆創膏や包帯、正○丸の瓶を退かして目的の物を探す。
「あれ? どうしたのゆっくん?」
晶子の声色から、俺が怪我以外で薬箱を物色するというのは、かなり珍しい光景という事がわかる。
まぁ……目的の物がすぐに見つけだせないのだから。
「ああ、耳掻きを探してるんだが……みつからん」
「耳掃除?」
「……それ以外で耳掻きなんて使わないと思うが」
そこまで言ってから俺は『ハッ』と気付いたのと、晶子に服の袖を掴まれたのとは、
それほど時間差は無かった……つまり、同時という事だ。
「くぅっ!(晶子……なんて反射神経なんだ)」
………
……
…
そして結局は………。
「ゆっくん、気持ちいいかな?」
「ああ……」
色々とな……特にフトモモとかが……
「………………」
「よいしょ……っと」
少し晶子の足が動く……すると、ふわっ、と石鹸の香りが僅かに漂ってくる。
風呂上りだしな………。
「うふふっ♪」
「ん……どうした?」
「私達さ、まるで新婚さんになったみたいだね♪」
あえて言葉にするならば、晶子が『ポッ』なら、俺は『ボンッ』だった……。
晶子の『甘々モード(仮)』には慣れてきているつもりだったが、今の状況だと反則だ。
あまりにも可愛すぎる………。
「 (でも、いいかもな……) 」
そんな事を考えている俺の首筋を晶子の空いている方の手がそっと撫でてきた……
何故か、子供をあやすような手付きだった気がしてしまって、無性に悔しかった。
「ゆっくん……」
「ん?」
「もう、ゆっくんったら、さっきからずっとだんまりか生返事ばかりだよ〜」
「いや、そう言われてもだな……」
下手に何か言おうものなら……とんでもない事を言ってしまいそうだからな。
「…………」
例えば、晶子が俺をそう想ってくれている以上に……俺が晶子を……
「何を言えばいいんだ?」
「(もう〜鈍感!)そうだね……今、ゆっくんは何を考えてるの?」
「そんなの……晶子の事くらいしか考えられないだろう?」
はっ!? お、俺は何を喋っているんだーー!
「も、もう〜、ゆっくんったら〜♪」
晶子はそう言い、ペシペシと俺の肩を叩いてくる。
晶子……どうか手元が狂って鼓膜が破れんようにしてくれ……マジで…。
しかし、そう考えたのが単なる誤魔化しでしかないのは自分でもよく分かっている。
「それじゃあ、もう一つ聞いてもいいかな?」
「何なりと……」
と、耳掻きが抜かれる……。
「今、ゆっくんは誰を想っているの?」
そう、耳元で悪戯っぽく呟いて……
「……秘密だ」
この状況で、わざわざ聞く必要はないだろう?
そんなに俺に言わせたいのか?
…………なんだか、春日に似てきてないか?
「さっきと同じ事を言ってくれるだけでいいのになぁ〜♪」
「あのな〜……」
俺は耳掻きを抜かれている事をいい事に、素早く身を起こす。
「きゃっ」
「もう、終わったよな?」
そのまま立ち上がろうとした時、晶子が甘えるように首筋に抱きついていた。
「ゆっくん♪」
「どうした?」
そして晶子が俺の耳元で囁くように言った。
「まだ片方が残ってるんだよ♪」
………
……
…
俺の敗北確定だった。
FIN
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後書き
う〜む……雪之丞のセリフは楽だ。
『………』と『うむ』と『ふむ』だけでも何とかなりそうだし(笑)。