朋也と正式に付き合って、
今は椋も自然に接する事ができて一ヶ月・・・

「朋也、今度の休み暇よね?
暇なんでしょ?
だから休みはあたしに付き合いなさいよ」

昼休み・・・
いつものように中庭で朋也と椋でお弁当を食べながら、
朝から考えていた事を『自然に』切り出した。
それなのに・・・

「「・・・・・・」」

どうして2人ともそんな顔してるのよ?

「お、お姉ちゃん?」(汗

「ん?
なに、椋?」

笑顔で椋に振り向いて、続きを諭す。
短い髪のお陰で梅雨でもそれほど気にする必要が無くなったけど、
私の彼氏は長い髪が好きなようで元の長さまで努力中。

「え、えっと・・・
う〜(困
朋也くん、タッチ」

「お、俺かよ!」

何よ、そんなに言いにくいことなの?

「杏・・・
おまえは予定を聞いているのか、決め付けているのかどっちだ?」

「もちろん決まっているじゃない。
決め付けてるの」

「「・・・・・・」」

だから何で黙るのよ?
どうせ朋也も日曜日はウチ・・・は嫌っているから、
陽平の所でダラダラしているんでしょ。

「なあ、椋・・・
こんな姉をもって大変だな?」

「そ、それでも優しい所もあるんですよ?」

「それは『多少』認めるが、
それ以上になんというか・・・ゴーイング・マイウェイ?」

「言い残す事はないかしら、朋也?」

咄嗟に右手に辞典を握りしめ(どこから出てきたかは内緒)、
朋也にロックオン。

「ま、待て待て!!
わかった、わかった!!
付き合うから振りかぶるな!!」

「初めっからそう言えばよかったのよ、まったく」

苦笑いの椋と、今だブツブツと呟いてる朋也を尻目に
会心の出来のだし焼きを一口。
うん、我ながら良い出来!

「それで、その休みは何をしたいんだ?」

「我が家にご招待」

「へ?」

「お姉ちゃん?」

どうして、椋まで驚くのよ?
椋は嫌だったかな・・・

「その休みには両親ともいないし、
一度くらいいいじゃない?
最近ボタンにも会ってないでしょ」

「俺に聞かれてもな・・・
いいのか?」

「あたしから誘っているんだからね。
でも、変なことしたら眼を抉り取るから」

「爽やかな顔で物騒なことを言うな!」

朋也の言葉を無視して、椋に視線で問う。

「わたしもいいよ。
朋也くんなら大丈夫だし」

「よし、けってーい!」

パチンと指を鳴らす。
よしよし、第一段階クリアーっと。

「椋・・・
杏の奴、何か企んでいないか?」

「さ、さあ・・・」

別に企んでなんかいないわよ。
ちょっと・・・その・・・恋人みたいなことをしてみたいだけ・・・
わー!
思っているだけでも恥ずかしい!
こんな事言えるわけないじゃない!!

 

この計画の発端は、やっぱり両親が今度の日曜日に留守をすると聞いたとき。
一ヶ月の間、もちろん朋也とデートしたけど、どちらかというと本当に『遊びに行く』に近い。
あたしだって乙女(文句ある!?)なんだから、2人だけの恋人との過ごし方に憧れがあるのよ。
朋也は陽平の部屋が第2の私室だから、そんなことはできないし・・・
仮にも陽平の部屋だし(仮にもじゃなくて僕の部屋なんですけどねー!!)、
何処かの叫びを無視して、あの場所で、も、もしかしたらの初体験を済ませたくないし(恥
だからこのチャンスを生かすために計画を立てたのよ。

その日の夜に、ちょっと心苦しかったけど椋に事情を話して協力を頼む。
椋も快く承諾してくれてたわ。
準備は万端。
いつでもきなさい、朋也!!

 

 

あっという間に日曜日。
準備(といってもお昼ご飯を用意したくらい)も済んで、椋と2人(あとボタンも)揃って朋也を待っている。
もうそろそろ来ていいくらいの時間。
もし遅れたら・・・
フフ(邪笑

約束の5分前に・・・

 

ピンポーン

 

あっ・・・
やっと来たわね。
迎えに行こうと腰を上げようとすると・・・

「ぷひー!」

「あっ、ボタン!」

我が家のマスコットのボタンがピューンと出て行った。
どうしてボタンがあれほど朋也に懐いているワケは分からないけど、
嫌われるよりはいいかな?
と考えながら、あたしも玄関へ向かう。

「この家は客を畜生が出迎えるのか?」

「いきなりな挨拶じゃない」

玄関で立っている朋也の下に、ボタンが『プヒプヒ♪』とご機嫌な様子でクルクル周っている。

「杏、もう一つ訊いていいか?」

「なによ?
変なことだったら承知しないわよ」

「変な・・・ことかも知れないが、とりあえず訊いてくれ」

「はあ・・・いいけど」

神妙な朋也の顔に、辞典をしまう。

「玄関のドアノブは開いていたか?」

「何よ、その質問?」

疑問を疑問で聞き返す。
何が言いたいのかわからない・・・

「いいから、どうだ?」

「そりゃあ・・・
朋也が来ると分かっていたから鍵こそは掛かってないけど、
ドアノブはさすがに閉めるわよ」

「・・・・・・」(汗

「だからどうしたって言うのよ!」

いい加減、キレる一歩手前でようやく朋也も口を開いた。

「ボタンが玄関のドアを『開けて』くれたんだが・・・」(汗

・・・・・・

「いらっしゃい、朋也♪
奥で涼も待ってるわ」

清清しい笑顔で朋也を向かえ、
ラウンジへ戻る。

「ちょっ、待っ・・・杏!」

聞こえない聞こえない。
あたしは何も聞こえない・・・

 

「いらっしゃい、朋也くん・・・
どうしたの、何か疲れた顔してるけど?」

「ちょっと・・・畜生の神秘についてね」(汗

「神秘・・・ですか?」

「気にしないで、椋。
こいつの頭がおかしいだけだから」

「俺が!?
俺がおかしいのか!?」

世の中には知らない方がいいこともあるのよ。

「それよりお昼ご飯、用意出来てるから少し待っててね」

「・・・用意できているのに少し待つのか?
矛盾しているな」

「あ、あんたねぇ」(怒

「冗談だよ。
よし、ボタン!
ご主人様の準備が終わるまで遊ぶか?」

「ぷぴ〜!」

朋也の言葉にボタンは全身で嬉しさを表現する。
でも、ボタンに何かあったら承知しないからね。

「杏、そんな眼光で無言で睨むな。
小さい子供なら絶対トラウマになるぞ」

「うっさい!!
椋、手伝って!!」

「う、うん」

椋を連れて台所へいって、最後の仕上げに取り掛かる。
ちなみに椋は手伝ってと言ったけど、実際は食器を出してもらうくらい。
椋も今はそこそこ料理が出来るようになったけど、今日はあたしが朋也に作ってあげたいから・・・

 

「それじゃ、いただきます」

「「いただきます」」

それほど時間は掛からず準備ができて、いつもの掛け声と共にお昼ご飯を食べる。

「・・・・・・(ジー」

「・・・・・・」(汗

でもあたしはどうしても朋也から目が離せない。
いつものお弁当とはまた違った別の料理(暖かいものやスープなど)に、
朋也が美味しいと言ってくれるかどうかドキドキしている。

「杏・・・
そんな穴が開く位に睨むな」

「睨んでないわよ。
気にしないで食べなさいよ」

「あ、あの〜」(困

椋はあたしと朋也の間に挟まれて困っている。
ごめんね、椋。
これもあたしが見守っているのに中々食べない朋也が悪いの。

「じ、じゃあ、食べるぞ」

「ど、どうぞ」

「・・・」(こく)

朋也の緊張が移ったのか、あたしも緊張感が増す。
大丈夫、大丈夫。
味付けもばっちりだし、失敗もない・・・はず。
しっかりしろ、あたし!

「・・・」(パク

「「・・・・・・」」

ドキドキドキ(言葉も出ないくらい緊張しているあたしと、何故か椋)

「・・・うまいぞ」

「そ、そう?」

「ああ。
嘘言ってどうする」

「よ、よかった〜」

「ほっ・・・」

力が抜けきってテーブルに突っ伏したいけど、
料理が乗っかっているから盛大な溜息を一つ。

「でもよ・・・
いつも食ってんだから、わかってるだろ?」

「うるさいわね。
さっさと食べなさい!」

フンだ!
乙女心もわからない鈍感男には分からないわよ!!
八つ当たり気味にあたしもご飯を食べる。

「コホッコホッ!」

「落ち着いて食えよ」(汗

「お姉ちゃん、大丈夫?」

ムセた(泣

 

昼食が終わって、あたしは朋也を部屋に誘った。
椋は気を利かせてくれて、2人っきりだ。

「いいこと?
入るのはいいけど、もし妙な行動をしたら舌引っこ抜くからね!」

「閻魔大王か、おまえは・・・
もうちょっと言い方が柔らかくならないか?」

「別にいいじゃない。
意味は一緒なんだから」

「一緒って・・・」(汗

本当は朋也を信用しているから、そんな最低なことはしないとわかっているけど、
忠告は忘れない。
それに、私室に男の子を入れるなんて初めてだから料理の時とは別の緊張が生まれる。

「さ、さあ、どうぞ」

「お、おう」

朋也もちょっとオドオドしながら入ってくる。
あたしの部屋に入った朋也の初めの言葉は・・・

「ボタン?」

「へっ、ボタン?」

部屋の真ん中にクッションの上で幸せそうにスピスピ寝ている。
ボタンもお昼ご飯はしっかり食べて(皆が緊張している中パクパクと)、
先にラウンジを出ていたかと思えば・・・

「ボタンって、杏の部屋で寝泊りしてるのか?」

「前にも言ったことがあると思うけど、
時々ボタンを抱いて寝ている時もあるわ」

ボタンを起こさないように抱き上げて、クッションに座って膝に乗せてあげる。
朋也も正面に座って、落ち着くときょろきょろと周り(あたしの部屋)を見回す。

「朋也・・・
そんなに見回さないでよ。
マナー違反よ」

「おっ、悪い」

やっぱり恥ずかしくて内心ドキドキしながら、ボタンを撫でる。

「杏の部屋ってシンプルだな」

「シンプル・・・ね」

確かに自分でもそう思う。
ベットと勉強机、タンスが一つ。
ステレオコンボもあるけど、ポスターも貼ってないしシンプルといえばシンプル。

「朋也はこういう部屋は嫌い?」

もし嫌いといわれたら、おそらく模様替えするだろう。
朋也の言葉一つに敏感な自分に溜息をつきながら答えを待つ。

「杏らしくていいんじゃないか?
俺もこういう部屋の方が落ち着くし」

「でも、陽平の部屋は散らかり放題だけど?」

「あいつはアレでいいんだよ。
逆に綺麗な春原の部屋なんて想像もつかん」

「それは言えてるわ」

朋也と揃って笑う。
今頃、春原クシャミしていないかしら・・・

 

久しぶりに落ち着いての朋也との時間は楽しかった。
ううん、楽しかったというより安心する。
あたしの性格上、外で思いっきり遊ぶタイプだけど、
たまにはこういう時間もいいと思う。

「こういうゆっくり出来るのもいいな。
第一、金が掛からない」

「あら・・・
それなら、お昼ご飯代請求しようかしら?」

「・・・・・・」

「冗談よ。
よかったわね。
彼女が可愛くて、優しくて、その上料理もできて
この三国一の幸せもの!!」

言っておいてなんだけど、三国ってどこなのかしら?

「へいへい。
もう好きに言ってくれ」

「ならもっと言ってあげる」

「何だよ?」

 

この一ヶ月、楽しかったし幸せだった。
心の底からもずっと朋也と一緒に居たいと思う。
だから・・・

「好きよ、朋也。
嫉妬するほどに、憎たらしいくらいに。
そして、愛しいほど」

「・・・素直に受け取っていいか分からない告白だな」

「受け取りなさいよ」

もう誰にも渡さない。
椋だって。
絶対あたしはコイツを離さない。
その代わり、あんたもあたしを離さないで・・・
朋也・・・

 

 

杏・ハッピーエンド!

 


付き合いやすく、人気者(一部○○の噂)だけど、朋也と春原には啖呵をきる杏です(笑
優しい分妹の椋に朋也への気持ちを諦めようとしたけど、諦めきれなかった想いに振り回され・・・
最後には朋也の本当の気持ちを聞くために髪を切る・・・
キャラ個人としては智代の次なんですが・・・
如何せん、ストーリーがついていってない。
他のキャラのストーリーと比べて、感動がない。
その原因の一つが朋也の優柔不断と頑張りがない。
朋也が散々悩んだだけのストーリーな気がします(汗
もったいないですね。
SSは智代の内容が長く・濃かった分、杏はほのぼのになりました。
場面は多くし、内容を短くしましたがSSS(ショートサイドストーリー)では良く出来たと思います。
何気にボタンが進化していますが・・・(笑