「なあ、冬華。
1つ聞いていいか?」
「だ、大体わかるけど言ってみて」
クリスマス大戦(命名俺)のしばらく後、
いつも通り、ひよこ館は営業している。
お客さんに愛され、従業員も愛しているひよこ館は今日も嬉しい悲鳴を上げている。
・・・某ウェイトレスの猫みたいな悲鳴もあるが(汗
そんな中かって知ったるなんとやら、冬華と亜里咲ちゃんがやってきた。
それはいい・・・
だが、その後ろに『ある人』がいたのはビックリした。
とりあえず亜里咲ちゃんと『ある人』は席に案内して、
冬華の首根っこを掴み端に連れて行く。
「なぜ、『あの人』が来る・・・のは別に構わない。
誰であろうともケーキを食べに来てくれる人はお客様だ」
「さすが翔一!
話がわかる!!」
不安そうな顔な冬華だったが、
俺の言葉で笑顔になる。
正直、からかいたい気持ちもあるが今はそれ所じゃない。
チラッとその『摩訶不思議』な場面を見て、溜息を1つ。
「でも・・・」
「・・・でも?」
一旦言葉を切り、大きく息を吸って思っている事を出す!
「何で、修一郎さんがひよこ館に来るんだよ!?
しかも、周りのお客さんと溶け込んでいるし!!」(絶叫!
「わたしに聞かれても知らないわよー!!」 (絶叫・ヴァージョンU!!
冬華のお父さん――修一郎さんがミオにケーキを注文している光景に混乱する俺。
一体どうなってるんだよー!!
2003 はじゃまソフト 『パティシエなにゃんこ』
「これからは・・・」
(冬華SS)
そんなやり取りの間に、注文を聞き終えたミオが戻ってくる。
うんうん、最初に比べウェイトレスがさまになってきたな。
お兄ちゃんは嬉しいぞ!
「ショーイチ!
苺のショートケーキとシュークリーム、後ね紅茶でダー・・・リンだって!」
ダー・・・リン?
何だ、それ?
そんなモノ、メニューにあったか?
待て待て、ミオの事だ。
何かあるに違いない(断言
考えろ、考えるんだ、翔一!
ダー・・・リンだろ。
『・・・』を消すと。
おお!
謎は全て解けた!(某少年探偵風
「ついにミオにもダーリンと呼ぶ男が出来たか!」
「へっ?」
ミオの頭の上に?が浮かんでいるように見えるが、
これは照れているに違いない。
「相手は誰だ?
ミオみたいな子供でドジなヤツを好きになるヤツなんて、
中々いないぞ!
これはもう離さずにしっかり喰らいつけ!
おい、冬華!
今日はお赤飯だぞ!!」
「・・・翔一、解っててボケるのはやめなさい。
寒いから」
「むう!
ミオは子供でも、ドジでもないもん!」
「ぐはっ!」
冬華のツッコミとミオの抗議(攻撃あり)にハートに傷がついた。
そんな俺を放っておいて、かなでが出てくる。
「ミオちゃん、ダージリンだね?」
「うん、それ!」
「ほら、いつまでもふざけてないで仕事しなさいよ」
「へいへい。
冬華は何にする?」
「そうねぇ・・・
レアチ―ズケーキお願い」
「了解」
「ああ!
それはミオのだもん!!」
確かにいつまでもそうしているわけにもいかないから、
注文のケーキを出す。
そんな中、プンプンしていたミオが1つの疑問を出した。
「ねえ、ダーリンって何?」
「「「えっ?」」」
全員、ミオの方を向く。
元猫(魔法少女)のミオなら知らなくても不思議ではない。
どう説明しようか考えている時、ミオに忍び寄る一つの影。
「それはねぇ〜、ミオちゃん」
「にゃっ!?」
後ろから抱きつくのはひよこ館のもう一人のウェイトレス・愚妹の茉理だ。
おお、ミオも驚いているな。
「ま、まちゅり!?」
「いい?
ダーリンっていうのは、冬華さんにとってお兄ちゃんの事よ!」
「「なっ!?」」
「ショーイチ?」
な、なんという例えを持ってくるんだ、こいつは!
「ぐふふ。
あら〜・・・
どうしたのかしら、お兄ちゃん、お義姉さん?」
ボムッ!!
「あ、あうあう・・・」
「ふ、冬華!
立て、傷は浅いぞ!!」
『お義姉さん』という言葉で顔中真っ赤にして固まってる冬華。
最近、からかう事が多くなってきたな。
「あのー、紅茶出来たんだけど」(汗
かなでが何か言っているようだが無視!
コイツにはガツンと言ってやらなくては!!
「おい、茉理!」
「何よー。
ミオちゃんに教えている所なんだから邪魔しないでよ」
「あの・・・紅茶」
「冬華をからかうことを出来るのは俺だけだ!
しっしっ!!」
「っ!?」(ボムッ!
「うわー、独占欲が強い男ね」
「あの・・・」
コ、コイツ!
「そうか、なら決着を付けるか?」
「受けて立つわ。
このモップ捌きの餌食にしてあげる」
「しょ、翔一!?」
「ミオもするー!」
「・・・」
フッフッフッ・・・
今宵(昼前です)の斬鉄剣(モップ)は血に飢えているぜ。
「いざ・・・」
「尋常に・・・」
「「勝・・・!!」」
一歩を踏み込もうとしたその瞬間!
「あなた達、いい加減に仕事をしなさい!!」
「「「は、はい!!」」」
騒がしい俺達を見に来たみちるさんの一声(怒声)で収まり、
茉理も仕事に散った。
みちるさん、あなたが大将だぜ!
「お待たせいたしました。
ショートケーキとシュークリーム、ダージリンでございます」
「おお、ありがとう」
「・・・(ペコ」
修一郎さんにショートケーキ、亜里咲ちゃんはシュークリーム。
紅茶も2人に配る。
「それでは、失礼いたします」
頭を下げて、その場を去ろうするが・・・
「ちょっと、翔一。
わたしのケーキは?」
かなりお立腹な冬華が文句を言う。
まあ、お盆にケーキ(冬華の分)を乗せたまま去ろうとするのだから、
止めたくなる気持ちもわかる。
「冗談だよ、ほら」
「ありがとう」
本当、こいつはケーキを食べる時は嬉しそうな笑顔になるな。
「相変わらず、仲が良いな。
君達は」
「お、お父様!!」
今日はビックリしてばかりの冬華。
「翔一君も話しがあるから、出来たら付き合ってほしいのだが。
仕事は大丈夫かい?」
「・・・ええ、大丈夫です」
クルッと店の中を見回して、
人手が足りている事を確認して返事をする。
「そうか。
立ったままではなんだから座りなさい」
「では、失礼します」
一言断りを入れてから、イスに座る。
隣りに冬華。
俺の正面に修一郎さん。
修一郎さんの隣りに亜里咲ちゃん。
という図だ。
「話しの前にケーキを頂いてかまわないかい?」
「もちろんですよ。
ここはケーキ屋ですから」
「フフ・・・
では、頂こうか」
ショコラのオーナーが試食か・・・
みちるさんではなく、俺が作ったケーキだ。
色々な意味で緊張する。
冬華も自分のケーキには目もくれずに修一郎さんを見ている。
ちなみに亜里咲ちゃんは先にモクモクとシュークリームを食べている(汗
「ふむ・・・」
ゆっくり味を確かめながら食べる修一郎さん。
手の平に汗が出てきたよ。
飲み込むとフォークを置き、紅茶をひと口すする。
「ど、どうですか?」
「お、お父様・・・」
耐えがたい緊張が襲うが、
冬華の前では無様な姿を見せるわけにはいかない。
修一郎さんに感想を聞く。
「まだ荒削りの所もあるが、
それ以上に美味しく食べてもらおうという気持ちが詰まっている。
充分だ」
「そ、そうですか」
「やったよ、翔一!」
その答えに気が抜けてしまう。
冬華も嬉しそうに俺の腕に抱きついてくる。
「ハハ・・・
すまない、緊張させてしまったようだね。
今日は偵察じゃないから安心してくれたまえ」
「は、はあ・・・」
「お父様、なら初めからおっしゃって下さい」
「すまんすまん。
ほら、冬華も食べなさい」
「は、はい」
俺も飲み物を茉理に頼み、
ケーキが食べ終わるまで修一郎さんと笑顔で話し合った。
その中で・・・
「ひよこ館を妨害する前にこのケーキを食べていれば、
もっと早く、冬華の気持ちがわかったのだが・・・」
その言葉がひどく心に残った。
「さて、本題だが・・・」
「はい」
ケーキも食べ終わり、
俺が全員分のコーヒーを配り、
再び座るとついに始まった。
「君に1つ聞きたいことがある」
「何でしょう?」
冬華、ひよこ館、皆、色々な事が頭に思い浮かぶ。
しかし、修一郎さんが聞きたいことは違った。
「翔一君はこれからどうするんだい?」
「これから・・・ですか?」
「そうだ。
これからだ」
これからのこと・・・
「君がひよこ館に来た理由は知っている。
矢口が・・・失礼、ひよこ館のオーナーが倒れたから店長代理を引き受けたと」
「その通りですが・・・」
「だが、君はまだ学生だ。
今は休学扱いらしいが、いずれ戻らなくてはいけないだろう?」
「っ!」
「はい・・・」
冬華が驚きを隠せず、俺は俯きながら返事をする。
「それに、オーナーが戻ってきた時も決断が迫られるだろう」
修一郎さんの言葉一つ一つが、現実を突き出す。
いつかは決断をしなくてはいけなかった。
大学の元の生活か、ひよこ館・・・いや、冬華のどちらを取るか。
「出来れば答えを聞かせてもらえないか?」
「俺は・・・」
チラッと冬華を見ると、不安な顔で見守っている。
亜里咲ちゃんも邪魔しないように静かにしている。
「俺の答えは・・・」
「「「・・・・・・」」」
ひよこ館に来て、今までの事を思い浮かべて1つの結論が出た。
「・・・大学に戻ります」
「しょっ・・・!?」
「冬華は黙ってなさい」
立ち上がろうとする冬華が修一郎さんが止めてくれる。
「それで本当に良いのかい?」
「ええ。
やっぱり、中途半端にやめる事は出来ませんから。
でも・・・」
「でも?」
一息ついて、隣りに座っている泣きそうな冬華を抱きしめる。
「しょ、翔一?」
「卒業したら、俺は必ず戻ってきます。
ひよこ館の事もありますが、何より冬華が好きですから。
必ず・・・戻ってきます」
「なるほど・・・冬華」
「はい・・・」
「翔一君はそう言っているが、おまえはどうなんだい?」
「わたしは・・・」
抱きしめていた手を離し、答えを待つ。
頼む、俺を信じてくれ。
「・・・わたしは待ちます。
離れ離れになるのは辛いけど、わたしも翔一の事が大好きですから。
だから、信じて待ちます」
その答えを聞いて、ケーキの試食以上の緊張が抜ける。
こんなに緊張したのは、クリスマス以来だな。
「冬華がそう言うなら私は何も言わない。
・・・翔一君」
「はい」
「冬華を頼む」
「・・・はい!!」
「お父様!!」
ついに修一郎さんに認められた。
色んな事があったけど、冬華を好きになってよかった。
この後、会話を盗み聞きしていた茉理が冷やかしてきた事は言うまでもない(汗
「・・・やっとお父様に認められたわね」
「ああ・・・
でも、いきなりあんな話を聞かれるなんて思わなかったぞ」
夜、冬華が家に泊まると言い出し、
ベットで俺の腕を抱きかかえるように寝転がっている(パジャマ着ているぞ
「わたしもこんな事になるなんて思わなかったわ。
お父様も何も言わなかったし」
「要するに俺は試されたってわけか」
「まあ、いいじゃない。
認めてくれたんだから」
「そうだな」
それ以降、お互いに無言になってしまう。
こいつは表面上はいつも通りだが、寂しさを隠す事が出来ないようだ。
「ゴメンな、ワガママなヤツで」
「いいのよ。
翔一が決めた事なんだから、しっかりする!」
「痛っ」
チョップを喰らってしまった。
「・・・正直言えば寂しいよ。
でも、電話も出来るし休みに会えるじゃない」
「・・・そうだな」
向こうに帰ったら、電話代が怖いな。
「いつ戻るの?」
「親父が退院したらだ。
もう少しひよこ館にいるさ」
「よかった」
俺の胸の上に乗っかり、笑顔を出す。
その可愛さにキスをする。
「んっ・・・」
ただ、唇を合わすだけの軽いキス。
「はあ・・・」
そっと離すと冬華は溜まった溜息を出す。
そして・・・
「んっ」
今度は冬華からキスをする。
「・・・翔一」
「・・・何だ?」
「・・・愛して。
忘れられないくらい愛して」
「わかった」
俺たちの夜はまだ終わらない・・・
次の日、朝一番に茉理に一言・・・
「お兄ちゃん、自分の部屋でなにするのは勝手だけど声が大きいわよ」
「ぐはっ!」
「ええ!?」
効きました(汗
冬華・ハッピーエンド
『パティシエなにゃんこ』の一番のお気に入りの冬華です。
いいですね、この娘は。
営業妨害でも微笑ましく、お約束も忘れない(笑
ケーキが好きなのに、嫌いになってしまいそうな葛藤。
クリスマスの対決の最後に、ショコラのケーキを勧めるシーン。
言う事なし!
彼女に幸せが訪れる事を・・・