私にとって大切なものなどなかった

いいえ、必要としなかった

10年前・・・

大量の魔物が村を襲った時に、
兄さんが私を残して戦いに行った

残された私も魔物に襲われてしまった

心の底から私は兄さんに助けを求めた・・・

でも・・・

兄さんは助けに来てくれなかった・・・

もう駄目だと思った時、クライブ様に助けてられた

助けられた私には、何もなかった

兄さんに・・・

信じる者に・・・

見捨てられたから・・・

それからの私はクライブ様のしもべになり、
ラヴィス教団の為に世界を滅ぼす事に手を貸した

いけない事だとはわかっていた…

でも見捨てられた私には、何もない世界に何も思わなかったから…

唯一あるのは、クライブ様に対する恩だけだったのだから…

そんな生き方を10年間続けてきた

 


2001 F&C 『時の森の物語 〜TEAR〜』

「本当の心」


 

 

ある時、気まぐれに街に向かった

いえ、もしかしたらこれは運命だったのかもしれない…

目についた大木を眺めていると1人の男性が近づいてきた

 

「……何しているんだ」

 

これが、レクスとの最初の出会いだった…

 

 

 

この時の私は、関心がなかったのだから何も語らずに去った

でも、心のどこかで彼に惹かれていたのだろう…

自分の気付かないうちに…

そうでなければ何も求めない私が、何度もあの場所に行かなかっただろう

私の名前まで言ってしまったのだから…

 

 

 

クライブ様の指示が多くなってきたので、あの場所に行く事が出来なかった

指示をこなしている間、微かに寂しいと心の中で思っていた

でも彼とは意外なところで再会した…

国の裏で操ろうとして利用していた宰相のオクソンが、
正体がばれた事を聞き、クライブ様の命令で協力をしに王城に行ったのだが…

 

彼は…

敵だったのだ…

 

彼を殺さなくてはいけないのだが、心が反発していた

彼に攻撃が出来ない私にできたのは、
オクソンに力を与えてる事が精一杯だった

それを見届けると魔法で去ったが、彼は勝利するとわかっていた…

 

 

 

それから私は、もう1度彼と出会ってしまった

敵同士として…

 

「エオーテ! キミはなぜ、ラヴィス教団に手をかしているんだ!!」

 

彼は悲痛な声で叫んだ

しかし、止める事は出来なかった

 

 

 

何もないと思っていた…

見捨てられたと思っていた…

でも、それは違っていた…

エルク旧跡の中で、彼と戦おうとした時

 

「………あっ……」

 

私は彼が兄さんの首飾りがあるのに気が付いた…

 

「うっ、ううっ……うあああっ!」

 

なぜ貴方がそれを持っているの…?

 

「ヴァレントさんは、ずっと、ずっと……キミを探していたんだぞっ!」

 

私を見捨てた兄さんが…

ずっと私を探してくれていたの?

それじゃ、私は…

 

 

 

クライブ様に命令され彼の前から去ったけど、
彼の事が頭から・・・

いいえ、心の中から離れなかった

ついに私は教団を抜け出す決意をした

でも、クライブ様は許さなかった

全ての力を出して、心の中でずっと貴方の名前を呼びつづけて、
気が付けばあの木の前で倒れていた

私、このまま死ぬのかな…

 

「お、おいっ! どうしたんだっ!」

 

この声は…

 

「気が付いたか!?」

「レク…ス…」

 

貴方に言いたいことが…

謝りたい事が・・・

 

「…ご、ごめん……さな…い……」

 

そして私は…貴方を…

 

 

 

暖かい…

気持ちいい…

近くに貴方がいるのがわかる…

 

……

 

な、何これ…

く、苦しい…

苦しいよ…

これって…

クライブ様の呪い…

でもこれは今までしてきた事の罪…

このまま死んで償う事しかできないかもしれない…

 

……

 

いや、まだ彼に伝えていない

私の想い…

生きたい

彼と一緒に…

 

 

 

あれ…

体が軽くなっていく

苦しさもない

目を開けると朝日が眩しい

ここは…

呆然とした頭を振って部屋を出ると

 

「あっ…」

 

レクス…

今、目の前で貴方がいる

本当はこのまま貴方に抱き付きたかった

でも、今は心の整理が先だった

貴方を起こさずに家を出る

 

一人になって考えると、罪悪感が全身を覆う

私がしてきた事は決して許される事ではない

自分の命でも償いに足りないかもしれない

それでも…

私は…

生きていたい

彼と一緒に…

私は死ぬべきなのか、それとも生きて良いのだろうか…

気が付くと彼の家の前にある、あの木の前に立っていた

ふと人の気配がして振り向くと…

 

「レクス…」

 

彼が立っていた

 

「エオーテ……、ここにいたんだ。随分と探したよ」

 

優しい声で聞いてくる貴方…

その優しさに彼の胸に飛び込んだ

 

「私は…私は、取り返しのつかない事をしてしまった」

 

どんなに償っても許されない罪を…

 

「あの時のキミはちゃんと物事を考える事状態じゃなかった」

 

優しく言ってくれるけど…

 

「だから……だから許される事なの?」

 

それだけでは決して許されない…

 

「だけど、罪は償う事はできる。それは決して簡単な事ではないけどな」

 

でも…

 

「その事を悔やみ、涙する心を持っているエオーテならきっと……」

 

……

 

「大丈夫だよ」

 

……なら1つだけお願いを叶えてください

 

「今だけは………その事を……忘れさせて………」

「レクス………私を……抱いて………ください……」

 

一生で一度のわがまま…

 

「……後悔……しないか?」

「…はい……」

 

するはずがない

私は貴方を愛しているのだから…

 

そして私達は結ばれました…

 

 

 

「レクス、ありがとう……私、これで何か吹っ切れたような気がします」

 

それ以上に嬉しさが全身を包んでいきます

 

「ほんとうに…ありがとう…」

 

これが私の本当の気持ち………

 

「あっ、笑顔…」

「俺、エオーテの笑った顔初めて見た気がする。
……うん。エオーテは笑っていた方がいいよ 」

 

それは貴方がそばにいるから…

私を愛してくれたから……

だから…

 

「…あの、これからもずっと一緒にいてくれませんか」

 

今の私の本当の願い…

 

「エオーテがいいのなら」

 

私は生きて罪を償っていいのですね…

貴方の側で…

私は…

エオーテは…

貴方を…

心の底から愛しています……

 

 

 

それからも貴方は戦場に行ってしまう

出て行く前に私は貴方に約束をしてもらいます

 

「必ず帰ってきてください」

 

その約束に貴方は笑顔で…

 

「ああ、帰ってくる」

 

と、言ってくれます

その約束がある限り、私は待ちます

たとえクライブ様と決着を付ける事でも…

この国を救うかどうかのつらい戦場でも・・・

何年でも…

そして貴方は約束を守ってくれます

 

「ただいま」

 

その言葉に無事に帰ってきてくれた嬉しさを込めて、
私も返事を返します

 

「おかえりなさい」

 

END

 

 

 

おまけ

 

世の中が平和になって私はレクスと暮らしています

少しずつ罪を償いながら…

でも…

 

「エオーテーーーーー!! お兄ちゃんはゆるさんぞぉぉぉーーー」

 

うるさいです、シスコン兄さん

私にはもうレクスしかいないのです

そっちこそいい人を見つけてください

それだけなく、ブラコンのお姫様もちょっかいをかけてきます

このままでは静かに暮らせませんね

レクスも疲れてるようですし…

 

……

 

決めました、最後の手段です

では、さっそく実行です

ふふ

 

 

 

「ごちそうさま」

「おそまつさまです」

 

夕食を食べ終わってお茶を飲んでます

 

「相変わらずおいしいね」

「……ありがとう」

 

愛する人に料理を作ってあげて、「おいしい」と言ってくれる

これが女の幸せというのですね

 

「あれ…」

 

そろそろですね

 

「な、なにかすごく眠くなってきたけど…」

「疲れが出たのでしょう。 お休みになられたら?」

「そうするよ…」

 

そう言ってそのまま寝てしまう…

計画通りです

あとは…

 

ごそごそ…

 

準備OKです。

この家とは短い間でしたね…

それじゃ行きましょうか

と、手紙を置いていくのを忘れていました

……

これでよし

レクス…

幸せになりましょうね…

 

 

〜次の日〜

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ…、エェェオォォォォォォォォォテェェェェェェェ!!」

「おにいちゃー−―−―−―−―−―ん!!!」

風邪の噂でレクスの家の前で男女が絶叫していたそうです

あ、そうそう

手紙の内容は

 

「2人で幸せになります。さようなら
                   エオーテ 」

 

くす

 

 

本当に終わり

 


あとがき

どうも、siroといいます。
時の森の物語SS第2段、エオーテです。
シリアスで攻めてみました。
少し苦労しましたが、何とかできました。
前回のリースティアと違ってストーリーを追ってみました。
でも最後はギャグ+ハッピー。
これが私の基本です。