ミオの魔法により、
猫にされてから色々な出来事があった。

皆が俺を心配してくれているのにただ見ることしか出来ない時間・・・
ミオは魔法を解く方法を探してくれているとはいえ、
もう人間に戻れないかもしれない絶望感・・・

そんな孤独と情けなさを支えてくれたのは、
ショコラの店長・冬華の付き人の亜里咲ちゃんだった。

彼女と閉店後の夜・・・
猫の姿の俺でひよこ館を眺めた後、ふとショコラの方を見ると亜里咲ちゃんがいた。
もちろん、こんな時間に?と疑問を感じることもあったが、
それ以上に俺・・・『矢口翔一』だと気付いてくれた事の方が驚いた。

亜里咲ちゃんに抱きかかえられながらの会話の瞬間(とき)が支えになった。

それからだろう・・・
俺が亜里咲ちゃんに惹かれはじめたのは・・・

 

結局、ミオが魔法を使えなくなった代償もあったが、
人間に戻ることができた。

人間の姿で久しぶりに会った冬華は、
亜里咲ちゃんにライバル宣言し、3人仲良く楽しい日々が続いた。

そして、クリスマスイブ・・・


2003 はじゃまソフト 『パティシエなにゃんこ』

「願い」
(亜里咲SS)


 

「亜里咲ちゃん、寒くないかい?」

「はい、大丈夫です」

雪が降る中――ホワイトクリスマスに俺と亜里咲ちゃんは、
街をゆっくり歩いている。

ケーキ屋に取って、
クリスマスイブは大事な日である。
亜里咲ちゃんとクリスマスの日はゆっくりしたいと言う気持ちもあるが、
そんな時に休む訳にはいかない。

せめて閉店後の日付が変わるまでの少ない時間だけでもと思い、
2人だけで側にいる。

もちろん冬華を蔑ろにしているわけじゃない。
今頃は・・・

「今頃、冬華は修一郎さんと仲良くやっているかな・・・」

「もちろんです。
冬華さまはこの時をずっと待っていましたから。
これも翔一さんのおかげです」

「よしてくれ。
冬華が頑張っただけで、俺はちょっと背中を押しただけだよ」

「フフ、そう言う事にして置きましょう」

人間に戻った俺は、
支えてくれた亜里咲ちゃんと俺を捜すのに結構無理をした冬華にお礼がしたかった。
物やお金じゃない、本当の力になってやりたかった。
そこで考えたのは亜里咲ちゃんに聞いた冬華と修一郎さんとの仲だ。
今の俺には冬華の孤独と苦しみが良くわかる。
だから、お礼とかではなく純粋にそうしたかった。
その努力は何とか実を結び、
あの修一郎さんにとってはひよこ館とショコラの仲は変わらないが、
娘の為に時間を作ってくれるほど理解してくれた。

「それにしても、亜里咲ちゃんと冬華ってケーキが作るのうまいな」

「そ、そんな・・・
翔一さんには敵いませんよ」(照

クリスマスケーキは冬華曰く『思い出のケーキ』を作りたいと言い、
2人だけで作っていたのだ。
もちろん、ショコラの技術に興味があった俺とみちるさんは作業を見ていた。
その腕前とコンビネーションは正直驚愕した。
これなら厨房で任せられるくらいの腕前だ。

「謙遜しなくてもいいよ。
これでもパティシエ見習だからね、嘘はつかないよ。
茉理より良いケーキを作れているんじゃないかな」

「・・・・・・」(照

ちなみに今日は亜里咲ちゃんとだが、
明日(クリスマス当日)は冬華に付き合わされる予定だ。

『いい、亜里咲。
今日は翔一さんを貸してあげるけど、明日はわたしなんだからね!』

ビシッと指を差して言ってくれました(汗
モノ扱いはひどいんじゃない?

おっと、そろそろ時間が無くなってきたな。

「亜里咲ちゃん、後少しだけしか時間が無いけどどうする?
せっかくのクリスマスイブに歩いているばかりじゃ・・・」

「・・・公園に行きたいです」

「公園?」

「・・・ダメですか?」

ああ・・・
そんな悲しそうな目で見ないでくれ。

「い、いいよ、行こうか」

「はい!」

控えめな笑顔でも充分、嬉しさ伝わる。
冷たくなった手を暖めるように繋ぎながら公園を目指す。

 

 

「・・・綺麗ですね」

「うん。
でも、さすがに寒いね」

「クスッ・・・
冬ですから」

夜の公園・・・
噴水と雪で幻想的な光景だ。

「思っていた通り、誰もいないね」

「そうですね」

冬で雪が降っている事もあり、人っ子一人もいない。
それでも寂しさを感じないのは亜里咲ちゃんがいてくれるからだろう。

「なら、今は俺と亜里咲ちゃんの貸切だ」

「まあ・・・」

本来はベンチなどに座ったりする所だが、
お考えの通り、雪が積もっているため座る事ができない。
仕方なく、噴水の手前で立っている。

「ねえ、亜里咲ちゃん。
1ついいかな?」

「はい?」

丁度と言うわけではないが、
前々から考えていた事を話すチャンスだ。

「クリスマスプレゼントは渡したけど、
他に何か無いかな?」

「え・・・?」

「確かに冬華と修一郎さん仲良くなって、もちろん亜里咲ちゃんも喜んでいると思う。
でも、一番喜んでいるのは冬華だ。
だから今度は、亜里咲ちゃんの為に一番喜ぶ事をしてあげたい。
ダメかな?」

「っ!」

俺の言葉を聞いて手で口を隠すように塞いで、目を大きく開ける。

「あ、亜里咲ちゃん?」

そのまま反応が無いから余計なお世話だったかなと不安になり、
声を掛けると・・・

ヒック・・・

「亜里咲ちゃん、どうしたの!?」

・・・涙を流していた。

「亜里咲ちゃん、ゴメン!
やっぱり俺なんかじゃ、余計なお世話だったかな?」

「そんな事ありません!!」

普段の彼女からは信じられないような大声を出して、
抱きついてきた。

「嬉しいんです。
そこまでわたしの事を大切に想っていただいて・・・」

「・・・」

「昔からわたしには何も出来なかった。
冬華さまが苦しんでいるのにただ見ているだけ・・・
貴方の時もそう・・・
猫になっている時にはただ話し相手になっていただけ・・・
それどころか貴方とミオさんに嘘を付いて迷惑をかけてしまった。
そんなわたしを・・・」

「亜里咲ちゃん・・・」

亜里咲ちゃんの不安を取り除くように優しく抱きしめて、
ゆっくり話し掛ける。

「何も出来なかった事なんて無いよ。
冬華は亜里咲ちゃんが側にいてくれるだけで助けられたと思うよ。
俺だってそうさ・・・
ミオがいなくなって自暴自棄になっていた俺を救ってくれたじゃないか。
ただ話し相手なってと言うけど、俺にとっては凄く嬉しかったし本当に感謝している」

「翔一さん・・・」

「だから、自分をそう責めないで。
その方が俺は悲しいよ」

「でも・・・」

「少しずつでいい・・・
少しずつでいいから自分を好きになってみてごらん。
そうすればきっとそんな考えは消えるよ」

「・・・・・・」

「ね?」

ヒック・・・はい・・・

背中を軽く擦ってから、手を離して涙をそっと拭う。
その顔には今まで見たことがないくらいの笑顔が浮かんでいた・・・

 

「それで、何かお願い事は無いかな?」

涙も止まり、落ち着いてきた頃にもう一度聞く。

「それじゃあ、1つだけいいですか?」

「もちろん、何でも言っていいよ」

亜里咲ちゃんのお願い事か・・・
なんだろうな・・・

「ずっと一緒にいてください・・・
側にいてください・・・
わたしと翔一さんと冬華さまの3人で・・・
どれだけ時が流れても、何があっても・・・
ずっと、ずっと3人で・・・」

それは願いと言うより純粋な想いだった。

「これがわたしの唯一の願いです。
・・・叶えてくれますか?」

「ああ、もちろん。
いつまでも俺と亜里咲ちゃん、冬華の3人で・・・」

「あ、ありがとうございます・・・」

「指切りしようか?」

「クスッ
はい」

お互いに小指を出して繋ぎ合う。

 

クリスマスが終わる直前、1つの約束が生まれた。

破られることのない永遠の約束が・・・

 

 

亜里咲・ハッピーエンド

 


サブキャラにするには勿体無さ過ぎるほどいいキャラの亜里咲です。
彼女は自分が何かを望めば迷惑がかかるという自己暗鬼になっていました。
けど、翔一に出会ってから少しずつ変わっていきました。
ああ、なぜメインキャラではないのだろう・・・(泣
後、亜里咲が怒ってどうなるか見たかったです(笑