【『切ない』ということ】 P6 (涼X拓)

「・・・オレ、夢、見てて…多分、その時に・・・」
「・・・・ひでぇ。」
啓介はハッキリとそう言った。途端に拓海は泣きそうな顔をする。
「お前・・・ソレは酷ぇよ。」
アニキがキレんのも当然だ。
「何でですか?」
「何でって……お前なー、ホレたヤツの腕の中で他のヤツの名前出すかよ、普通。」
 啓介は呆れた。無邪気もココまでくると立派な凶器だ。
「だって、渉さんは・・・別にそんなんじゃ・・・」
 最後の方の声はごにょごにょと小さくて啓介には聞こえなかったが、拓海が何を言いたいかは解った。

「?ワタルって?」
秋名のヤツじゃねーよな?
聞き覚えのない名に、啓介は視線で『誰だ?』と拓海に尋ねた。
「・・・埼玉の走り屋で・・・それで、バトルしてる時の夢、見てたから・・・」
「・・・で、何て呼んだんだよ?」
「・・・そんなん、寝てたからよく覚えてないですケド・・・」
 うーん、と拓海は考え込んだ。
涼介の起こされたあの時、どの辺を夢見ていただろうか?
「・・・『渉さん、ダメ…』って言ってたかなぁ?」
厳密には違うが、なかなかの記憶力である。
 それを聞いた途端、啓介は頬杖をついていた手からズルリと顔を落とした。
「・・・マジか?それ・・・」
 啓介は信じられない物を見るような、驚いたような顔で拓海に目を向けた。
「・・・そう言われても・・・まぁ・・・多分。」
「あーもー…お前、何で、んなこと言ったんだよ?」
 啓介の問いの意味が解らなくて、拓海は首を傾げた。
「・・・バトルの夢見て、何でそんな悩ましいセリフが出んのかって聞いてんだよ。」
「なっ悩ましいって・・そんな・・・。ただ、あの人の走り、スゲー危ないから、ダメだって言ってただけっすよ?」
 一体どこが悩ましいのだと拓海は少し怒りだした。
───啓介に怒っても、仕方ないのだが。

 啓介は絶句した。開いてる口も塞がらなかった。
そして・・・次に思いっきり脱力した。
・・・こんだけ騒がせといて、ただの勘違いオチかよ?
勘弁してくれと、誰にともなく言いたい気分だった。
拓海は相変わらず解っていないようで、そんな啓介をポヤンとした顔で眺めていた。

 1・2・3のノリで、啓介は立ち直った。
そして、がしっと拓海の肩を掴んだ。
イキナリ肩を掴まれて、拓海はキョトンとした顔をした。
「・・・ところで、お前はどうなんだ?」
 拓海の顔をまっすぐ見つめて啓介はそう言った。
「何がですか?」
「アニキに抱かれんの・・・イヤなのか?」
 イキナリ啓介は核心を突いた。
拓海の顔が真っ赤に染まる。
「なっ・・・んな事、訊かれても・・・解んないですよ・・・オレ。」
「でも、いつまでも逃げてらんねーだろ?アレでもアニキは若い男なんだぜ?
お前はイマイチそこんとこが解ってねぇよ。」
 何で自分がこんな話をしなければならないのだろうか・・・世の中、とっても理不尽だと思いながら、啓介は拓海に話していた。

「・・・でもオレ、もう涼介さんに嫌われちゃっただろうし・・・」
 啓介の言葉に、ふと涼介の姿を思い浮かべて、拓海は悲しそうにそう呟いた。
自分で言って、自分のその言葉に傷ついていた。
───変わってしまった涼介に、どうすることもできなかった自分を、拓海は深く後悔していた。

 やっぱりダメなのかもしれない……自分なんかじゃ子供すぎて、あの人の側には居られないかもしれない───それは、いつだっていつだって、ずっと拓海の心に引っかかっていた想いだった。
 ずっと見て見ぬ振りをしていた自分を拓海は知っていた。でも・・・それでも、涼介の側に居たかったのだ。

「・・・」
 ・・・ダメだ、こりゃ。───啓介は心で呟いた。
やはり、拓海はどこか感覚がズレている。
何処をどーしたら、そういう結論に達したのやら……啓介には理解できなかった。
・・・後はもう、本人同士で解決してもらおう。
───啓介はそう、心に決めた。

 ふぅ、と啓介は大きく溜息をついた。
そして、沈んでしまった拓海の頭を撫でてやると、
「んじゃ、アニキに訊いてみな?」
あっけらかんとそう言った。
「んでもって、アニキに好きだってちゃんと言ってやれ。な?」
 まるで、言い聞かすようにそう言う啓介に、拓海は首を傾げた。
「だから・・・ったく。鈍いなぁ。お前は。・・・言われなきゃ解んねぇ事だってあんだろーが!お前だってアニキの気持ち、全然わかってねーし。」
「・・・りょーすけさんの・・・気持ち?」
 呆然と呟く拓海に、ふんふんと啓介は頷いた。
「とにかく、ちゃんとアニキと話して、んでもって、もしイヤじゃねーんなら1度抱かれてみろよ。ソレで解る気持ちっつーのもあるんだゼ?」
 何ともまぁ、あっさりと啓介はトンデモナイ事を言った。
そのセリフに、拓海の顔がまた真っ赤に染まる。
「照れてる場合じゃねーだろ?・・・カップル崩壊の危機まっただ中なんだぞ?お前は?!」
 一生懸命に啓介は言い募った。ココまで言えば鈍いコイツにも解んだろう。
拓海はポカンとして、そしてぷっと小さく吹き出した。
啓介のその言い方が、何だかおかしかった。
───それは、さっき涼介と離れてから、拓海が初めて見せた笑顔だった。

 不覚にも、啓介は一瞬その笑顔に見とれてしまった。
「啓介さんは・・・ホントにイイ人ですね。」
自分のために、こんなに一生懸命言ってくれているのだと、拓海には解っていた。
その啓介の気持ちが、何だかとっても嬉しかった。

 ・・・ちくしょーやっぱ可愛いー、コイツ。オレ、惜しいことしてんなぁ…
啓介はそんなことを思って、ほんの少し溜息をついて・・・
「ばーか、今頃気づいたんか。お前は…」
あたりまえだろーが・・・
そんな風に言って、拓海に笑顔を返したのだった。

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