【終わらない夜】 P1 (啓X拓) …裏に移動してまいりました(爆)
『……ん…タバ…コ…?』
独特なその香りに誘われるように、拓海の意識はゆっくりと浮上した。
でも、体中どこもかしこも気怠くて、指1本動かせない。動きたくない・・・。
拓海は、しばらくそのまま、動かずに五感を解放して周りの気配だけを感じていた。
───初めに感じ取ったのは、煙草の香り。
次に、隣から伝わってくる人肌の温かさ。フーッと息を吐き出す音。
・・・そして、汗とコロンが混じっている、自分以外の誰かの匂い。
『ああ…そっ…か…』
言葉ではなく頭の中でぼんやりと呟いて、拓海は自分の現在の状況を認識した。
さっきまでずっと・・・抱き合っていたのだ。隣にいる、この人と。
トクン、トクンと、緩やかな自分の心臓の音が不意に耳に届いて、拓海の意識がまた浮上していく。
『…変なの。さっきまで…あんなに…』
ちょっと前までバクバクと、いつ壊れるだろうと思うほど音を立ててた心臓が、今はとても静かにゆっくりと脈打っている。
隣から伝わってくる温もりの中にたゆとうように微睡んでいた拓海は、その取り留めのない疑問に引っ張られるように意識を覚醒させた。
閉じていた両の瞼を、ゆっくりと開いていく。
半分くらい開いたところで、寝そべる自分の隣に座る啓介の姿を認識した。
キレイに筋肉のついた腕や肩、精悍という言葉がぴったりな男らしい横顔。
色を抜いて立たせている髪は、今はやや乱れている。犯人はきっと自分だろう。
彼の輝きの中心とも言うべき、印象深いキツイ瞳は閉じられていて、何時ものように美味しそうに煙草をフカしている。
啓介の手にある煙草からユラユラと燻っている紫煙を、ジーッと目で追いながら拓海は又ぼんやりと考え始めた。
『あんまし好きじゃなかったのになー…煙草の匂い…』
慣れてはいるけど・・・それでも好きとは言い難い。
でも、この香りを嗅ぐとドコか安心する。それは多分、父親が何時も吸っているからだろう。
───煙草の香り。
好きではないハズのその香りが、いつのまにか、当たり前になってしまっていた。
この香りの隣に在ることが、当たり前で・・・それが幸せだと感じているなんて。
いつの間にか、そうなっていた。一体何時からか自分でも判らないくて、拓海は首を傾げた。・・・ホントに、一体いつ頃から、だったのだろうか?
『こんなに…この人のコト、好きになったのって……』
まるで見えない魔力に操られるように、どんどん惹かれていったような気がする。
気がついたら自分でもどーしようもないほど、好きになってしまっていたのだ。
「ぅ…ん…」
微かな声と共に拓海はゆっくりと重い瞼を瞬いた。
「ん?…何だ。もう起きたのか?」
その微かな声で拓海が目覚めたコトに気がついて、啓介は拓海の顔を覗き込む。
汗で少し張り付いた拓海の前髪を指先でひょいと上げて、視線を和らげて拓海の瞳を見つめた。
「拓海?」
そして、何も言わずボーッとしたままの拓海の名を呼ぶ。
いつもより優しい啓介の声に、拓海はまた、自分の思考の世界へと意識を飛ばした。
初めて聞いた啓介の声は、こんな風じゃなかった。
何だか自分とはソリが合わない人だなぁと、正直思ったのだ。
───身の内に太陽でも飼っているような、激しい人。
それが、第一印象だった。
真っ直ぐに何かを追い求め、自分にもソレを求めてくる。
苦手なタイプだと思ったハズなのに・・・。
「拓海?…おい、どーした?拓海・・・おいって!」
ドコか慌てたように、啓介は拓海の体を揺さぶった。
目を開いて自分の方を見てるケド、拓海の意識はどこか遠くへ行ったままだ。
視線を合わせようとしても全然合わなくて、啓介は何も言わない拓海にちょっと焦ってしまった。
まあ、拓海がボーッとしてるのは何時ものコトだけど、この場面では珍しい。
いつもなら目覚めた直後は何やら恥ずかしいらしく、啓介に背を向けて一通り一人で照れているのだ。
「え?」
声を出して目をパチパチと瞬いて、拓海はようやく視線を啓介と合わせてきた。
拓海の瞳の中に自分の姿を認めて、啓介はホッと息をつく。
「え?……じゃねーよ。ったく、お前、ドコ見てんだよ。」
心配させんなという言葉の代わりに、啓介は拓海の頭を軽く小突いた。その後、腕をゆっくり伸ばして、横たわる躯を毛布の上からふわりと抱きしめる。さっきまでキツク抱いてた体を、今度は真綿でくるむように優しく囲んだ。
ちゅっと眉間に口づけると、拓海はネコのように目を細めて瞑ってしまった。
「んっ…」
「何だ?…まだ寝ぼけてんのか?」
クスクス微笑いながら、啓介は顔のあちこちに何度もキスを落とす。
時々、ちゅっと音を立てて、軽くその滑らかな肌を吸いながら。
こんな真似を、されるがままになってる拓海なんて珍しいコトこの上ない。
2度と無いかもしれないチャンスを逃すほど、啓介はヌケ作ではないのである。
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