【泣きたい夜に抱きしめて】 P9 (啓X拓)

 しばらくの間、2人はクスクス笑い合いながら、先程までの熱い口づけとは違う小さなキスの応酬を楽しんだ。
その後、拓海はいつもの定位置である啓介の胸の近くに顔を置いて、身体を休めていた。トクントクンと聞こえる鼓動が、まるで子守歌のように眠りを誘う。この位置は拓海のお気に入りなのである。

「拓海…」
 啓介が静かな声で拓海を呼んだ。
その声に、拓海は啓介の顔を見上げて、何?と視線で促した。
さっきまでの情事で、拓海の声はまだ掠れている。いくら啓介相手でも、余り聞かれたくない声なのだ。

「今日さ、ダチがさ───死んじまったんだ・・・」
 ぽつりと、啓介は言った。
その声には何の感情も含まれてはいなかったが、だからこそ、ズキンと胸を打たれた。
「啓介さん・・・」
 一気に表情を曇られて心配そうに自分を呼ぶ拓海に、啓介は微笑しながらそっと額にキスを落とす。
「・・・んな顔すんなって。・・・俺は平気だから。」
 そんな嘘を言って唇を離すと、代わりに何度も拓海の前髪から頬の辺りを撫でながら言葉を続けた。
「・・・そいつな、車とか乗らねぇけど、何か気があってさ。高校ん時からずっとツルんでたんだ。ちょっとさ、兄貴みてーに理屈っぽいトコあったけど・・・すげー・・・イイ奴だった。」
 微苦笑を浮かべながら、淡々と語る啓介に、拓海はぎゅっと唇を噛みしめて頬の辺りを上下する啓介の手を握りしめた。
 啓介は泣き言1つ言わないけれど、その人の事がどれほど大切だったか、痛いほど伝わってくる。きっと、自分にとってのイツキの様に、啓介にとっては気を許せる大事な友達だったのだろう。

「……バカ。お前が泣くこたぁねーだろ?」
 拓海に握りしめられた手に、熱い何かが触れて、ソレが何かに気づいた啓介は苦笑しながらそう言った。
「泣いてません。」
「じゃ、コレは?」
 拓海に捕らえられている手の親指で啓介がその涙を拭うと、拓海は握りしめているその手を離した。自由になった手を自分の口元へ持ってきて、啓介は拓海の涙に濡れた指をペロリと嘗める。少し、しょっぱい味にクスリと笑った。
 拓海の事だから、ただの水です、とでも言うのだろうか?
 
「………啓介さんが泣けないから・・・代わりに俺のトコから出たんです。」
 悔しまぎれの言い訳を呟いて、拓海はギュッと啓介に抱きついて顔を隠してしまった。
「・・・そっか・・・サンキューな。拓海。」
 不器用な、でも精一杯の拓海の優しさから零れる涙が、嬉しいと思う。そして、愛おしいと思う。
 言い訳だと解っていたけど、啓介は礼だけ言って、腕の中に隠れてしまった身体を抱き返した。強く強く───。

・・・こいつがいて、よかったなんて、ホントに今更なんだけどなー。

 そんな事を思いながら拓海の温もりを味わっていると、ふと、胸の奥で燻っていた痛みが消えてる事に啓介は気づいた。

「すげーな、お前は・・・」
「?」
 ポツリと呟かれた啓介のセリフの意味が解らなくて拓海は顔を上げようとしたが、啓介の強い腕にそれは阻まれる。
仕方なく、促されるままに、もう1度柔らかい音を刻む広い胸へと顔を収めた。
「ホントに、すげぇ。・・・何か、魔法使いみてぇ・・・」
 あんなに消えなかった胸の痛みが、いつの間にか消えている。
もちろん、辛い気持ちが無くなったワケじゃない。でも胸の痛みは、不思議ともう感じなくなっていた。代わりに、温かい何かがソコに宿っている気さえする。
 そう、拓海はこうなのだ。すごく懐が大きい男とでも言えばいいのか。
落ち込んでる自分に、ただ黙って温もりだけを与え慰めてくれた。
こんな事……出来るのはきっとコイツだけだ。

「啓介さん?」
 一体何を言ってるのだろうと首を傾げて、もぞもぞと自分の腕の中から顔を上げた拓海に、啓介は目を閉じずにキスをした。
「!……んっ…」
 啓介の視線に捕らえられたまま、拓海も目を瞑るタイミングを失ってそのキスを受け止める。
 整った啓介の顔が見たこともないほど間近にあって、静かだった拓海の胸はまたドキドキと激しい音を立て始めた。
「・・・拓海・・・」
 甘く掠れた声で愛おしい名を呼んで、啓介はそのままディープキスに巻き込んでしまう。
「んぁ……けぃ…っ…ぅん……」
 今度こそ、拓海はギュッと目をつぶった。そのまま、啓介に与えられる熱さに流されていく。

「拓海・・・───もう1度、イイか?」
「・・・」
「こんな時に・・・ダメか。・・・ヤなヤツだな、俺。」
 友人の死んだ時くらい、慎むべきだろう。
もう1回・・・シテしまったけれど。
 苦笑して、啓介は前言を撤回しようとした。すると・・・
「いいんじゃないですか・・・別に。啓介さんは生きてるんだから。」
 それとも、泣きたいなら、胸貸しましょうか?
そう言って、拓海は自分から啓介の頭を引き寄せた。
こんな事したら、ドキドキしてる自分の鼓動を啓介に聞かれてしまうだろうけど。

 啓介は笑って、引き寄せられるまま、拓海の首筋に顔を埋めた。
「バカ言ってんなヨ。……オレが泣くかよ。」
 それも、お前の前でなんて・・・。
バカらしい見栄だと解っていても、拓海の前ではいつだって超カッコイイ男でいたいのだ。
 言いながら、啓介は再び拓海を自分の下に組み敷いた。
そのまま、甘い吐息を零す唇に口づけて・・・。

───2人はまた、互いに溺れるかのように、甘い波へと意識を奪われていったのであった。

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