【藤原拓海の正体】 (涼X拓?)

(SCENE 1)

「たっだいまー」
一見いーかげんそーな遊び人に見える彼だが(啓介ファンの方、ゴメンなさい。)やはり育ちは良いので、家に帰ると自然と挨拶をするクセがついている。
「あー、ハラへったー・・・っと、アレ?」
誰もいないんかな?と思いつつドカドカとリビングへ向かった高橋啓介はソファに座ってる兄、涼介を見つけた。
いつもなら、イヤミなくらい絵に描いたようなさわやかさで「おかえり」と声をかけてくるのに、めずらしーな?と首をひねりつつ啓介は兄に話しかける。

「なんだよ、アニキ居たんかよ。なー、ハラ減ったよ、俺。何か食いに行かねーか・・っと・・・あれ?・・アニキ?」
 べらべらと話しかけていた啓介だが、やっと涼介から何の反応も無い事に気づき、もしかして寝てんのかな?と、ヒョイと兄の顔を覗き込んだ。
 瞬間、啓介は訝しげな顔をした。兄は起きていた。起きてはいたのだが、めずらしくぼーっと、ドコを見てるのか焦点のあってないような目をして座っているのだ。
あの涼介が・・・・?!

 コレには啓介も驚いた。我が兄ながらこんな顔は初めて見た。
「ア・・アニキ?おい。どーしたんだよ。アニキ?」
コレは一体何事?!とばかりに慌てて涼介を揺さぶる啓介の耳に、ボソリとした涼介の呟きが届いた。

「・・・・高校生・・・」
「はぁ?」
 意味不明である。高校生がどうしたというのだろう?
 いつも完璧で冷静沈着な兄のただならぬ様子に、啓介は益々、眉を寄せた。
「・・・高校生・・・だったんだ・・・アイツ・・・」
「・・・?アイツってダレヨ?」
 反射的に啓介は訊き返していた。ホントにこんな兄はめずらしい。
「アイツ・・・藤原・・・たくみ」
「・・・・・・・」
 未だ呆然としている涼介の呟きに啓介は絶句した。
名前を聞いても一瞬、理解できなかった。

 ・・・フジワラ・・・タクミ・・・
 啓介の脳裏に涼介の声が蘇り、続いてこの夏、秋名で遭ったハチロク乗りのとんでもなくバカっ速いガキの姿が浮かんでくる。
「えぇ───?!フ・・・フジワラって、あの秋名のハチロクぅー!!」
 耳元で大声で叫ぶ啓介の声に、やっと普段の自分を取り戻したのか
「うるさいぞ。啓介。」
 涼介は耳を押さえて、弟の顔を自分の側から押しのけた。
「ワ・・・悪ィ。・・・で・・でも、あのハチロクが高校生ってホントなのかよ。アニキ・・・」
 信じられないって顔で啓介は涼介に確認する。聞くまでもなく本当だと分かってはいるが、聞かずにはいられないのだ。

 何しろ、あのハチロクは速い。メチャクチャ速かった。
とても、高校生の走りだなんて、信じられない。しかし、そういえば確かに外見はそれぐらいにしか見えなかった。
 幼げでボーっとした小さな顔、白くて細い腕が白いTシャツの袖からのびていて、飾り気の無いジーンズとスニーカーを履いていた、いかにも少年ってカンジの藤原拓海を啓介は思い出していた。

 そんな啓介の様子に逆に立ち直ったのか、フッっと普段通りの笑みを浮かべると
「俺も・・・今日、会って驚いた。若いとは思っていたが、まさか高校生だったとはな・・・。」
苦笑する涼介に
「オレ・・・まだ信じらんねーよ、アニキ・・・」
今度は啓介が呆然と呟く番だった。

「・・・で、藤原と会ったってドコでよ?」
 自分ばっかズルイぜ。アニキ。
啓介は拗ねたような口調で涼介に尋ねた。こーなったら、根ほり葉ほり尋いちゃうもんね、と言わんばかりである。
「ん・・?ああ。今日、用事でS市のほうを通ったんだが、S高の近くでちょうどマラソン中のアイツを見かけたんだ。・・・体操服着て一生懸命走ってた。」
その時の事を思い出したのか、クスッと涼介の顔に笑みが浮かぶ。
「流石の俺も自分の目を疑ったよ。」
小さく肩をすくめながら、涼介は苦笑した。

 その時の拓海は、ドコをどう見ても普通の高校生で、とてもあのハチロクのドライバーとは思えなかった。表情も大違いだ。
でも、あれがきっと、普段のアイツなのだろう───
 涼介は未だ、あの新鮮な驚きに酔っている自分を自覚していた。
知らずに、その顔には笑みが浮かんでしまう程だ。

(SCENE 2)

「さて、書類も届けたし、疲れたな。どこかでコーヒーでも飲むか。」
FCで町を流しながら、涼介は一人ごちた。
「・・・そういえば、アイツの家はこの辺だったハズだが・・・」
 ふと、思い出した、いつの間にか自分の心の中に住み着いている少年を思い浮かべる。

 秋名のハチロクこと藤原拓海──────
この夏、秋名の峠に現れた、群馬最速と呼ばれる自分達兄弟をブッちぎった正体不明のダウンヒラー。

 遭ってすぐ興味を惹かれて、データ収集を試みたがコレが全く集まらない。
判った事といえば、「藤原豆腐店」の店の場所とTEL番号くらいだ。
本人は『自分は走り屋じゃない』と言っていたらしいが、どうやら本当の事らしい。・・・少なくとも、夜に峠に集まる普通の走り屋ではない。
判らないとなると余計に知りたいと思う。人間とはそういうモノだ。

 自分もその辺りのミーハーなギャラリーと大して変わらないな、と、らしくない自分を思って涼介は苦笑してしまう。

・・・そんな風に、拓海の事ばかりを考えていたからだろうか?
ふと、すれ違った景色の中に『彼』が居たような気がして、急ブレーキをかけた。
思いがけない姿をしていた・・・様な気がする。

 一方、拓海の方も、いきなり近くで鋭いブレーキ音が響き、反射的にそちらに目を向けた。見ると、近くを走っているクラスメートたちも皆、そちらに目を向けている。
「・・・?アレ、何かどっかで見た車だな?」
 相変わらず、ボケボケしている拓海であった。・・・が、現れたドライバーを見てすぐにあっと目をむいた。
「・・・・りょ・・・りょーすけさん?」

涼介は名前のごとく涼しい顔をしていた。だが、内心は驚きで声も出なかったのだ。
『・・・目がこぼれ落ちそうだな』
頭のどこかで、驚いている拓海の表情をそんな風に感じていた。
マジマジと彼の姿を眺めてしまう。───体操服?そんなバカな・・・

 自分を凝視して、何も言わない涼介に、拓海はとまどってしまう。
コトンと首を傾げながら、どうしようかと涼介の顔を覗き込んでいた。
周りのクラスメートたちも、何だ何だと遠巻きに自分たちを眺めている様だ。

「あ・・・悪い。久しぶりだな、藤原。」
 すぐにとまどっている拓海に気づいた涼介が、軽く笑いながら挨拶をする。
やっと、涼介から反応があった事に安心したように、拓海は小さな笑みを返した。

「おーい、拓海。知り合いか?俺ら、先に行っとくな?」
 クラスメートの一人が声をかける。コクンとうなずいて、拓海は小さく手を振った。
 その仕草が何とも可愛らしい。
「ホントに悪かったな。まさかこんなところで会えるとは思ってなかったから、
つい声をかけてしまって・・・マラソン中・・・なんだろ?」
 馬鹿な事を尋ねている。そんな事は見れば判るのに。
らしくなく動揺している自分に涼介は驚いていた。
「いえ、イイんです。どーせ、イツキなんてまだ後ろの方だし。
もう冬はマラソンばっかでヤなんですよ・・・・」
 唇をとがらせて、拗ねた子供のようにそんなことを言う。いつも自分の前ではやけに緊張した様子なのだが、今は全然、自然体だ。
その様子に、涼介は何故かとても嬉しくて、フッと優しい笑みを浮かべて拓海を見つめていた。

「・・・ところで、涼介さんはこんなトコで何を・・・」
その笑みに顔を赤らめながら、拓海は涼介が何故、こんな所にいるのか尋ねようとしたのだが・・・
「こら───!!藤原!何やってる。ちゃんと走れよー!」
 校門の方から教師の怒鳴り声が響いてきた。
「あっ・・・・ヤベぇ・・・」
 驚いてそちらを振り返った拓海の肩を、涼介はそっと押し出した。
「え?」
「ホントに悪かったな。行ってくれ、藤原。」
「え?でも、何か用があったんじゃ・・・?」
 ワタワタと、教師と涼介の方を何度も見比べるような拓海に、涼介はふわりを笑いかける。
ポンと軽くその頭に手を置いて撫でてやると、拓海はコトンとまた首を傾げた。
 何だか、ホントに子猫のような仕草で、可愛い。
「いいから、行ってくれ。その代わり、また会おうな?」
 優しい眼差しと笑顔で拓海の目を見つめながら言う涼介に、拓海も小さく笑いかける。
頬を少し紅くして「はい。・・・それじゃ」と小さく返事をすると、小走りで涼介の側を離れていった。

(SCENE 3)
 あの時の藤原もまるで別人だったが、自分も思いっきり別人だったな。
苦笑しながら、涼介はそんなことを思っていた。誰かにあんなに優しく出来る自分がいたなんて、自分でも信じられない。
 らしくなかった自分を啓介や史浩あたりが見ていたなら、さぞかし驚いた事だろう。

「アーニキ、やーらしー」
 少し、座った眼差しでそんな事を言う弟に、ズルッと涼介は体制を崩した。
「何だ、啓介、いきなり・・・・」
「だーって、話してる途中でいきなり思い出し笑いなんかしちゃってさー。
どーせ、アイツの体操服姿とやらを思い出してたんだろ?」
 ちぇっと啓介は舌打ちした。どうやら自分も見てみたかったらしい。
「まーな。可愛かったぞ。アレは・・・」
 あまりにも図星な弟の言葉に涼介はまた苦笑する。気づかない内に自分はまた、夢の世界の住人になっていたらしい。

「・・・どっかの危ないオヤジみてーなセリフだぞ、ソレ・・・」
 らしくない兄の様子に啓介は呆れた。どうやら、完全にユーレイパンダに憑かれてしまったらしい。そういう自分も兄の事は言えないのだが・・・。
「なぁなぁ、アニキ。俺も見てーよー。次は写真撮ってきてくれよ。」
「バカな事、言ってんな。」
 そんなマネ出来るか!と笑いながら答えるが、写真もいいかも・・・と頭のどこかで思っている自分はかなり重症だな?と涼介は自覚していた。

End.

・・・・何コレ。終わったのコレで(T_T)・・・ま、いっか。←なんて私らしいセリフ。



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