そのセリフに、ユウリは困った表情を返したが、人間関係なんて、誰かに強制できるような事柄ではない。
ましてや、目の前に立つ下級生は真剣そのものである。
「・・・うん、わかったよ。オスカー。余計な事を言ってしまたみたいでゴメンね。でも、くれぐれも、その距離を誤らないように注意して。」
”うわぁ、ユウリ!何言っちゃってんだよ、君は!
・・・それじゃあ、この先、アシュレイ…ていうより君に関わる気満々な彼に、その許可を与えたも同然なんだけど・・・って、分かってないんだろうなぁ、やっぱり。なんたってユウリだもんなぁ・・・。”
既に2人に存在を忘れられているケストナーは、はぁ…と溜息とともに肩を落とした。
返されたその言葉に呆れた表情を浮かべ、困ったような苦笑をしてから、オスカーはユウリに返答した。
「・・・それはどう考えても、俺が貴方に言いたいセリフなんだと思いますけど?フォーダム?」
その言葉にケストナーは大いに頷いたが、当の本人は「え?そう?・・・なんで?」としきりに首を傾げている。
”あの男が貴方にちょっかい出してる時に邪魔する気は満々だけど、それ以外であんなヤバい奴に近づく気なんか、サラサラないし・・・”
目の前でぐるぐる考えてる上級生は、噂通りかなりニブいらしくどうやら自分の考えは、さっぱり分かって貰えていないらしい。
”・・・まぁ、いいか。俺は押しかけ騎士ってトコか?・・・上等!”
誰が何と言おうと、もう決めた。
ベルジュのような絶対の存在に、なれなくたっていい。
俺は俺のやり方で、この人を護る壁のひとつくらいにはなってみせる。
”セイヤーズみたいに位置をはかってばかりいたら、逆に引かれてしまうだけだ。この人の場合、押して押して押しまくるくらいでちょうど良い。”
どうやらタイプ的にオニールと同じ戦法を選んだ下級生の瞳は決意にランランと輝いている。
対するユウリは、やはりさっぱり分かっていないまま、まぁいいか、と呑気なものだ。
そんな2人の様子を問答無用で見てしまったケストナーは、大いに冷汗をかいていた。
”・・・コレってやっぱり、僕がベルジュに報告しなきゃなんないのか?
・・・おいおい、マジ?それって凄い貧乏くじな気が・・・。ベルジュはユウリの事になると、ちょっとアレだからなぁ〜。
・・・うー、ったく、そういうのは、僕のいないとこでやってくれよぉ〜!!”
今日はなんて幸せな1日だと先ほどまで浸っていたのに、オセロのように一気にひっくり返ってしまった己の不運を盛大に嘆きながらケストナーはとりあえず現状の打破を試みることにした。
”・・・やっぱりココは、三十六計、逃げるが勝ち!…だな。”
「ユウリ!そろそろ行かないと、音合わせの時間まで無くなってしまうよ。」
音合わせなんて、他のメンバーが喜んでやってくれてるだろうが、この際、理由は何でもイイ。
ケストナーはいかにもタイムリミットだと告げるように、焦った声でユウリを誘った。
「あ!ゴメン、ケストナー!すっかり話し込んじゃって…」
「いいから早く!行くよ、ほら。」
「うん。…じゃ、オスカー。僕はこれで」
言いながら走りだそうとしたユウリの手を、オスカーはとっさに掴まえた。
「…あ!すみません。・・その、今日の演奏、俺、応援してますから。頑張って下さいね」
月並なセリフしか言えないのが残念と思いつつ、応援する。
「あれ、オスカーも聴きにきてくれるんだ?」
「・・・どういう意味でしょうか、それは…」
どういう意味も何も、ひとつしか意味はないが、あえて恨めしげに尋ねてみる。
「え?・・・えっと、ゴメンね。でも、あんまりクラッシックには興味なさそうだなぁって思ってたから」
そのセリフはまさにその通りなので返す言葉もないが、かったるい音楽に興味はなくとも、貴方にはあるんです、と声を大にして言いたいところだった。
「まぁ、いいや。有り難う、オスカー。拙いながらも頑張るつもりだから、楽しんで貰えると嬉しい。」
にっこりと邪気のない笑みをユウリ・フォーダムに向けられて、不機嫌を保てる人間は恐らくいないだろう。
”・・・・・・今の、どう見てもトドメ刺してたよなぁ…”
すっかりユウリに魅入っている下級生を眺めながら、ケストナーは溜息をついた。
”なにげにユウリって…罪深いというか何というか……”
この出来事をシモンにどう報告すべきか、頭を悩ませながら、ケストナーはアリスの兎よろしく走り出したユウリの後を追いかけていった。
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