ユウリ・フォーダムという人間と、少しでも接すれば誰にだってわかる。
コリン・アシュレイと彼との間に、噂されてるような艶めいた関係など、一切あるはずがない、と。
それほどに、ユウリ・フォーダムという人間には、スレたところがなく、むしろ、いつだって、聖職者が顔負けな程の清らかさを纏っている。
それなのに、アシュレイという危険で胡散臭い人物に対して、彼は常に一定の距離を保ち続けていながらも、決して相手を突き放したりはしていない。
あれほど理不尽な目に遭わされてなお、何故、その距離とやらを保とうとするのだろうか?
「え?」
自分の疑問を、咄嗟に理解できなかったのか、疑問符を飛ばしてきたユウリの両肩を、オスカーはこれまでにない力を込めて掴みながら、胸にわき上がるもどかしさに促されるように、口調を強めて言い直した。
「貴方は?・・・俺に、あの危険な男に関わるなという貴方の方こそ、どうなんですか?フォーダム!」
自分だって心配なのだという伝わらない想いを精一杯込めて、オスカーは黒曜石のごとく輝くユウリの瞳を真摯に見つめながら、詰め寄った。
さっきの彼の言葉は、正直言って胸に堪えた。
なんだか、寂しさとも悔しさともつかないような気持ちで胸が詰まって、言葉で言い表すのが難しい。
まるで、自分はいいからお前だけでも逃げろ…なんて、映画の中でよくあるような、そんなセリフを言われたも同然だった。
つまり、あの男に関わるなというこの人自身は、もう既に、あの男と関わり続ける覚悟を決めてしまっていて、自分はそこから突き放されてしまったような気がしたのだ。
多分、その勘は当たっていたのだろう。
目の前に立つ、嘘のつけない上級生は、憂いを秘めた澄んだ瞳をスッと伏せて、何故か首元に手を置き、そこでギュッと拳を握りしめる。
───まるで、その場所に、あの男につけられた見えない鎖か何かが、在るかのように・・・。
そのいたいけな姿は、例えるならば、邪悪な悪魔に捧げられた、力弱き無垢なる生贄であるかのようで、庇護欲をそそられるには充分だった。
思わず、このまま掴んだ細い肩を引き寄せ抱きしめたい、という衝動が胸の裡に生まれたことを、オスカーは否定できない。
もちろん、そんな暴挙に及んで、この先1年、自分までシモン・ド・ベルジュの脳裏にあるという噂のブラックリストに名を連ねるようになっては割に合わないので、何とか堪えたのだが・・・。
「僕も一応・・・適度な距離くらいは、保ってるつもり・・・なんだけど・・・な」
ポツリと言われたその言葉は、自分でも出来ている自信がないのだろう。
不安にまみれて、力のない一言だった。
だがまぁ、一応、あの男に関わることで、周囲に、特に親友であるあのシモン・ド・ベルジュにどれほど心配を掛けているかは、この人も自覚しているからこそ出た、セリフなんだと思う。
なのに何故、そこまで分かっていながら、あの危険極まりない迷惑男と、関わり続けるのだろうか?
もちろん、この人がノーと言っても、あの男がそれを許さない可能性は充分に考えられる。
だが、しかし、それだけであるとは、とても思えない。
先程の、『距離を保つ』という言い方からも、在る程度の間を保ちつつ、でもあの男を切り離せない何かが、この人の側にもあるのだ、きっと・・・。
そして、あの悪魔のようなと称される男は、それを知っていて、弱みにつけ込むが如く奸計を巡らせて、この人を捕らえて余裕にほくそ笑んでいるに違いない。
───なんて卑怯なっ!
そのことを想像して、オスカーは瞬時に、強く眉を顰めた。
詳しい事情など知らない。
だがしかし、計算高く罠を張り巡らせて、この人を己のものにしようと画策するような真似は、決して許せることじゃない。
いまだに魔王と恐れらている、コリン・アシュレイという存在に、オスカーは改めて、怒りの炎を胸の中で燃え上がらせた。
”噂にはきいてたけど、とんでもない男だ、まったく。ベルジュがあんな風にあからさまに警戒してみせるのも当然だ!”
危険だと知りながら、何故、関わり続けるのか───理由を知りたい。
その強い思いがオスカーの中で更に強まったが、問いつめたところで、その答えを今ここで得ることは出来ないだろう。
だったら、ここで自分がすべきことは、ただ一つだけだ。
意を決したとばかりに表情を改めたオスカーは、ユウリに詰め寄った。
「俺は、あんな男の言葉に唯々諾と従うなんて絶対にゴメンです!・・・もちろん、フォーダムの気遣いには、とても感謝していますけど。・・・だから、俺は貴方を見習う事に決めましたから。」
「「はぁ?」」
ユウリとケストナーの疑問符が、同時に飛び交ったが、既にユウリオンリービジョンになっているオスカーはそれを気にせず、堂々とユウリに向かって宣言した。
「貴方が、あの男と適度な距離を保つというなら、俺もそうします!
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