幸せの定義(新キャラ(笑)&ユウリ) P1
 
 さやさやと、心地よい秋の風にそよがれながらも、ユウリはなかば連行される囚人のごとく重い溜息をつきながら、呼びにきてくれたケストナーと共に学生会館への道を歩いていた。

「なぁ、ユウリ。僕としては、君が憂鬱になる気持ちも分からないではないんだけど、こんな天気に恵まれた麗らかな昼下がりに、その溜息の嵐はないんじゃないかい?」
「・・・えっ?な…何?」
 両手の平を空へ向けて、肩を竦めながら、横に立つユウリに声をかけたケストナーは、少し遅れたタイミングで慌てて自分を振り返る友人の様子に苦笑した。

 どうやら彼は、物思いに耽る余り、大きな溜息を大盤振る舞いしている自分に気づいていないらしい。

 それも、仕方がないだろう。
 自分のように、音楽家を目指す者にとっては、舞台の上で大勢の前で演奏できることは、名誉であり、歓びでもある。
 だが、ユウリは子供の頃に手習いした程度で、親しい友人達に聞いてもらうならともかく、とても大勢の前で披露できるようなものではないし、したくもないと、頑なに今回の舞台を拒否していた。

 なのに、結局、その懸命な拒否も、あの手この手で退けられてしまい、今回のミニコンサートに参加、しかも最後のトリを務めることになってしまったのだ。
 これがもし自分の立場だったら、それこそ仮病でも使って逃げ出したくなるかもしれない。

 それを考えると、気は進まなくとも、逃げだそうともしないあたり、普段はシモンを始めとする仲間達に護られ、支えられてばかりいるように見えるユウリだが、芯はとても強くて度胸がある、と、ケストナーは感心していた。

 意気揚々と喜び勇んで演奏するならばともかく、大勢の前で弾きたくないというユウリが、今現在、憂鬱な気分になるのは、よくわかる。
 ・・・が、窓の外に洩れ聞こえてくる音に興味を惹かれて、是非、自分達も聴きたいと集まった者達に気持ちは、それ以上によくわかる。

”・・・本人がまーったく、これっぽっちもその事実に気づいてないってトコが、ちょっと驚きだけど・・・。”
 純粋培養もここまでくれば、いっそ見事だ、と、思わずにはいられない。

 とてもユウリ本人には面と向かって言えない感想を思い浮かべながら、ケストナーは雑念を払うべく、ブンブンと顔を振った。
 とにかく、今更余計なことを考えても始まらないので、ケストナーはユウリを元気づけるために声を掛けることにした。

「だから、その溜息だよ、タ・メ・イ・キ!何だか、こっちまで落ち込みそうな気分になる。」
「・・・うん、ゴメンね。ケストナー。」
 しゅうん、と言わんばかりに、ユウリが目を伏せたので、ケストナーはしまった逆効果だ、とばかりに慌てて言い直した。
「誤解しないでくれよ?ユウリ。別に責めてるわけじゃないんだ。ただ、折角、あんなに素晴らしい楽器を手にするのに、そんな落ち込んだ気分で演奏するってのは、勿体ないなぁって思うのさ。知ってると思うけど、グァルネリは同じく名器と謳われるストラディバリウスよりも現存してる数が少ないからね。それこそ、一生に一度、お目にかかれる機会があるか、ないかってくらい貴重な品だ。それを弾けるんだよ?楽しまないと損だよ、損!」
「それはそうだけど・・・でもねぇ、僕はやっぱり気が重いよ。大勢の前で弾いたことなんてないし・・・。」
 ユウリの言葉に、ふむ…とケストナーは考え込む。
「日本に居た頃に習ってたって言っていたけど、向こうではコンクールに参加しなかったのかい?」
 尋ねると、ユウリはフルフルと首を横に振った。
すると、サラサラな黒髪が、真珠のように柔らかな色に包まれている頬の横で同じように左右に揺られるのが何とも彼に似合っていて、ケストナーは微笑ましい気持ちでその様子を眺めた。
 なんというか、ユウリの仕草は、何でもないような仕草でも、無邪気で心和むような感じがする。

「ううん、してないよ。元々、家族で楽しむために習っていただけで、本腰をいれて頑張ってたわけじゃないし。多くても、せいぜい親戚の集まりなんかで披露した程度。」
 なるほど、如何にもユウリらしいと、ケストナーは納得した。
 その人の人となりを見れば、育った環境もおのずと想像できる。
 ユウリは至極ゆったりと、まるで箱庭にような環境で、優しい家族に愛され、いらぬ争いから避けられて育てられたに違いないと、常々思っていたのだ。

「そうか……じゃあ、緊張するのは仕方ないね。…でも、まぁ、皆だって君が素人だって知っているんだから、技巧がどうのなんてケチをつけるヤツはいないさ。(そんなことしたら後でシモンがどれだけ怒るか、馬鹿でも分かる…)
だから、ちょっと隠し芸を披露する程度の軽い気持ちで、明るくいこうよ。僕も一緒に頑張るからさ。な?」

 ニッコリ笑って励ましてくれるケストナーのそのセリフに感謝しながらも、ユウリは少し困ったように眉を寄せた。
「うん、有り難う。さっき、シモンも同じようなことを言ってくれたよ。・・・でも、ゴメンね?ケストナーまでつき合わせちゃって・・・。こんな大がかりなコンサートになるなら、シェークスピア寮の誰かと組みたかったんじゃないかい?」

 如何にも申し訳なさそうな目をしながら告げられたユウリのそのセリフに、ケストナーは目を瞠って驚きを示した。
 まさか自分がそんな風に思っていると思われていたなんて、とても意外だし、心外だ。
「どうして?」
「だって・・・それこそ、文化祭か何かの時にしかないような、貴重なチャンスなのに・・・」
 音楽科を目指して練習しているケストナーにとって、準プロ並の音楽家がゴロゴロいるシェークスピア寮の人達を一緒に演奏できることは、大きなプラスになるはずである。
 ただでさえ、シェークスピア寮ではなく、ヴィクトリア寮にいるケストナーには、その機会が少ないのに、それを奪ってしまったようで、ユウリは彼に対して、とても申し訳ないと思っていたのだ。

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・・・またしても、懲りずに新刊ネタ。我ながらチャレンジャー ←アホか
美味しい新キャラが出たので、頑張ってもらおうかと思ってます(笑)

この話とこの話の続編で、冬に同人誌を作ろうか、と検討中です。
長くなりそうなので、オフセット印刷で作りたいなぁと思ってます。
(ちなみに、続編の方は本用の書き下ろしになります。)

そこで、皆様にお願いがあります。
ただいまメールフォームで冬発行の本についてのアンケートをとらせていただいてます。
ご協力いただけると大感激、ついでに感想など貰えるとなお感激デス!(笑)
どうぞ、よろしくお願い申し上げます。 o(^o^)o

 

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