【メダルの行方】 (シモン×ユウリ) P5
 

「あれ?それは・・・」

 今日この日まで『折り紙』なるものを知らなかったシモンだが、今しがたユウリの手が生み出したそれの形には見覚えがあったのだ。
 西洋と東洋が違和感なく解け合っているユウリの部屋で、時々、小物の横に飾ってある、可愛らしい紙細工。
今の今まで、あれはああいう形で売られているものだと思っていたシモンが、いつか日本を訪れた時にはぜひ妹たちへのお土産に…と思っていた一品である。
「確か、『ツル』という鳥だったよね?」
「うん、そうだよ。日本でももう少なくなってしまった鳥だから、本物を見る機会はあまりないけどね」
 はい、できた…と言って、またひとつ生み出したその鳥を、今度は別の少女に手渡した。
 どうやらリクエストを受けて作っているらしいユウリだが、女の子のほとんどが、その鳥を求めたようである。
「ふぅん。・・・もしかしなくても、時々、君の部屋で見かけるアレも、お手製だったのかい?」
「え?…うん…まぁ・・・そう…」
 歯切れの悪い返事をしながら、ユウリは恥ずかしそうに俯いてしまった。

 恐らく、他の者がしたなら好感は抱かないだろうそんな俯く仕草も、ユウリの場合は『日本人らしい奥ゆかしさ』と受け止められる事が多く、もちろん、シモンもそう思う一人である。
 だが、しかし、顔が見えなくなるのは頂けないので、シモンはスッと手をユウリの頬へと伸ばし、俯き加減の顔を上げるように促しながら声をかけた。
「どうしてそこで照れるんだい?」
 シモンとしては事実を確認しようとしただけで、特に何かを言ったつもりはないので、ユウリのこの態度は納得がいかないものがある。
「ああ…えーと…あのね?折り紙っていうのは本当は女の子用の遊び道具なんだ。まぁ、子供の頃は学校行事とかで男の子が折ることもあるけれど、さすがにこの年で…ってのは、ちょっと恥ずかしいかなぁと・・・。でも、お菓子の箱とか包んでる千代紙を見ると、つい折っちゃうんだよねぇ?僕…」
 ふぅ…と溜息をついたユウリに、シモンは更に首を傾げた。
まあ、女子の遊戯ということで、ユウリが照れる理由は分かったが、又しても、分からない言葉が出てきてしまったからだ。
「『千代紙』?・・・それは『折り紙』とは違うものなのかい?」
「ううん。同じものだよ。『折り紙』の中でも、日本的な柄がたくさん描かれてるものを『千代紙』って呼んでいるんだ。綺麗で可愛いから、よく包装紙代わりにも使われるんだよ」
 ユウリのその言葉に、シモンは大きく頷いた。
 先程から、子供達が手にしている『ツル』を見ていて、どこか違うなと思っていたのだが、模様のせいだったらしい。
今日、ユウリが持ってきた『折り紙』は、すべて無地だから…だったのだ。
「そうか。じゃあ、お姉さんが送ってくれる差し入れの包装紙が、君の部屋によく置いてある『ツル』だというわけだね」
「そうだよ。昔から姉と一緒に綺麗な千代紙を見ると折っていたから、つい癖になっちゃってて…」
 恥ずかしげなユウリに、そんな必要はない…と、シモンは首を振った。
「全然、気にすることはないと思うよ。廃材をあんなに素敵なインテリアに仕上げるなんて、すばらしい事だ」
「そんな大げさな…」
「本音だよ。…それにしても、日本は遊び心まで繊細なんだね。こんな只の紙が、どうしてボンドもテープも使わずにそんな形になるのか、見ていてとても不思議な気分だよ」
 シモンのその言葉に、集まっていた子供達も揃って頷いてみせた。
どうやら、皆、同じ事を思っていたらしい。
「欧米でも紙で花や飾りを作って遊ぶ習慣はあるけれど、それとはまた、違った趣だよね。形もいろいろあって、とても楽しい」
「うん、そうだね。本当にたくさんあるよ。もっとも、僕もソラで作れるのは、鶴や箱みたいに簡単なものだけで、他はこうして本でも見ないと折れないんだけど」
 言いながら、ユウリは先ほどからチラチラ見ていた本をシモンに渡すと、出来上がった折り紙を待っていた少年に渡した。
「はい、お待たせ。船だよ。…うーん、これで最後かな?持っていない子は、いないかな?」
 渡された本をパラパラめくっていたシモンは、その視線を外して周りの子を見回しているユウリを見下ろした。

「あれ?ユウリ?僕にはないのかい?」
「え?」
「順番を待っていたんだけどな?」
 そのシモンの言葉に、ユウリは笑った。
「そうだったんだ?気づかなくてゴメンね。じゃあ、シモンはどれがいい?やっぱり鶴?」
「うーん、そうだね。この本の中で一番簡単なものはどれって聞いてもいいかい?」
「え?」
「せっかくだから、僕も作ってみたいな。教えてくれるだろう?」
 親切で大きな図解入りの本は、文字は読めずとも真似をして作れそうな感じだ。
さすがに子供達へのお土産だけあって、ユウリらしい配慮だと感心する。

「いいよ。・・・そうだ!どうせなら、皆で作ろうか?」
 そのユウリの言葉に、子供達が両手をあげて喜んだのは言うまでもない。
 

「じゃあ・・・そうだな。これはどうかな?」
 そう言って、ユウリが開いた頁には、何やら三角形を組み合わせたような図柄が描かれていたが、生憎、それが何なのかシモンには分からなかった。
「ユウリ。それは何?」
「紙飛行機だよ」
「紙飛行機?」
 飛行機とは随分違う形のそれに、ますます首を捻る。
「うん。実際に飛ばして遊ぶことも出来るよ。今日はさわやかな風も吹いてるし、いいと思うんだけど」
「へえ?飛ばせるんだ?…いいね、楽しそうだ」
 シモンがそう言うと、子供達も同意の大歓声を示して、早くも各々、折り紙を手にして待っている。
 出遅れたシモンが、同じく折り紙を手にして、急遽、ユウリ講師の折り紙教室が始まった。

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