シェラック ( Schellack )
ヴァイオリン製作・修理に用いるニスに含まれる樹脂類の中に「シェラック」というものがあります(厳密に言うと、シェラックは樹木から直接とれるものではなくラックカイガラ虫の分泌物なので、他の天然樹脂類と区別されます)。
最近この「シェラック」についていろいろ調べていたら、思いのほか日常生活の中で広く利用されている事を知りました。とても興味深かったので、少し「シェラック」について調べたことをまとめておきたいと思います。
「シェラック」は、インド、パキスタン、ネパール、タイ、ミャンマー、中国南部、台湾など、熱帯アジアに広く分布する体長約0.6〜0.7mmのラックカイガラ虫から採取される分泌物から作られます。
ラックカイガラ虫は特定の樹木に寄生し、その樹皮から樹液を吸って生活しているのですが、自らを守るために樹脂状物質を分泌します。
樹木の小枝に、このラックカイガラ虫の分泌物が付着したものを「スティックラック」というそうです。
「スティックラック」を粉砕し、中に混じっている虫の殻・糞・土などのゴミを取り除き、水洗いし粒状にしたものを「シードラック」、さらに、これを熱・アルコール・アルカリなどで薄膜などに精製・加工したものを「シェラック」といいます。
また、大型のボタン状に加工したものを「ボタンラック」というそうです。
ちなみに、「シェラック」という言葉は「シェル(分泌物が貝殻状という意)」と「ラック(昆虫がたくさんという意)」の組み合わせに由来しているそうです。
この「シェラック」をアルコール系溶剤に溶解して塗料化したものが「シェラックニス」です(シェラックニス自体はその塗膜の硬さから、単体でヴァイオリンに塗られる事は少ないです)。
通常「シェラックニス」は、溶解する「シェラック」の色素によって黄橙色〜赤褐色をしていますが、「シェラック」を漂白したものを用いた「白ラックニス」と呼ばれるものもあります。
「シェラックニス」の特徴として、「乾燥が速い」、「塗膜が硬い」こと、「耐水性・耐熱性・耐アルカリ性が低い」、それに対して「耐油性・粘着性・耐酸性は高い」ことなどがあげられます。
「シェラック」はこうした特性により、昔からいろいろな所で用いられてきた物のようです。
「シェラック」自体の歴史はかなり古く、紀元前2千年ころ中国で「シェラック」に含有する色素が染料に使用されたといわれます。
日本にはその中国から渡来し、奈良・正倉院北倉に「スティックラック」が「紫鉱」という名で約8kg残っているそうです。当時こちらは染料としてではなく、外用薬として使われていたとされています。
その後「シェラックニス」が日本で工業的に使用されたのは、明治10年頃から洋家具の塗装に使用されたのが最初といわれています。
それからは、石油化学の発達につれて合成樹脂万能の時代となったため、一時期「シェラック」の需要は減り続けていたそうです。
しかし、最近では染料やニスとしての塗料用途だけでなく、化粧品・医薬・食品など用途が広がってきているようです。
様々な用途で使われる「シェラック」ですが、今回いろいろと調べていく中で面白いと思ったものをいくつか紹介したいと思います。
まず、その「シェラック」の過去の最大利用用途といわれるもので、アナログ(LP・SP)レコード盤があります。これらには「シェラック」にカーボンブラックを混ぜたものが使われたそうです。
それから、「シェラック」のワックス分は、チョコボールやチューインガムのコーティングにも使われるそうです。「シェラック」でコーティングしてあると、手で触ってもベトつかず、その艶のある強い被膜のおかげで製品同士がくっつかないし、品質・風味を長く保つことができるのだそうです。
また、酸に強いという特性から、胃で溶けず腸で溶けるようにした医薬品(糖衣錠)のコーティングとしてもこの「シェラック」のワックス分が使われているそうです。
皆さんも思いがけないところで「シェラック」を口にしているかもしれないですね。
それ以外にも、ヘアマニキュアなどの化粧品、フルーツワックス・カーワックス、アルミフォィル表面のコーティングなど、日常生活のあらゆる所で利用されています。
ヴァイオリンのニスと言うと、未だに「秘密の〜」だとか「神秘の〜」というイメージをもたれることがあるみたいですが、その成分の一つがこんな身近な物にあると思えば、極端な特別感を抱かずに済むかもしれませんね。
<参考文献>木材塗装テクニック読本 / エクスナレッジ(発行)
アジア動物誌 / 渡辺弘之(薯)
etc.