「杢 -moku-」
始めに断っておきますが、今回ここに書いた「杢」に関する内容は、図も含めかなりの部分で「THE BEAUTY OF THE 'BURST」(現在は絶版?)という本を参考にしてまとめたものです。
この本はエレクトリック・ギターのレスポールの特集本(「杢」意外にも個人的に興味深い内容の多い本です)で、ヴァイオリンにしか興味の無い方には少し分かりにくい用語・内容も含むものでしたし、僕なりに「ヴァイオリンに当てはめたらこうかな?」というシミュレーション的意義(そのため、図中には板目の2枚板ヴァイオリンなど通常あり得ないものも出てきます。)もありましたので、勝手ながら手を加えさせていただきました。
ちなみに、実際のレスポールに使われるカエデ材は、ヴァイオリンに使われるカエデ材と原産地が異なるので全く別物であるという事実には、誤解の無いようにお願いします。
また、以下の内容を扱うことに関して不適切な点、その他お気付きの点などありましたらご連絡下さい。
それでは、スタート。
まずヴァイオリンの裏板を見ると、多くの場合中央部で接ぎ合わせてあるのが分かります。このことは「杢」を考える上で、とても重要だと思いますので、まずはそこから書いてみたいと思います。
木材を半分に製材して貼り合わせ一枚の板とするこの手法は、家具や楽器の世界では古くから使われるものです。本を開くような形であることから、ブック・マッチと言われます。

開いた面はもともと一枚の板だったので、同じ木目と杢を持っていて、これが左右対称に並べられるわけですから、その美的効果は高いものになります。
ちなみに、上の図を見ていただくと分かるように、ブック・マッチの場合、片側の面を仮にA面とすると、もう一方のB面は、A面を裏から見たものになります。こうしたものを並べた場合、光の当たる方向と見る角度によって、それぞれの面の色が違って見えます。
ヴァイオリンを始めとするアコースティック系の弦楽器では、ブック・マッチの手法が、強度や構造の安定、音質を重視して柾目の木取りと組み合わせて使われることが多いです。
次は木目と杢についてですが、ヴァイオリンにおいては少し区別されているので、最初にその違いについて少しふれておきます。
木の成長過程において、季節によってその成長の早さに違いがでて年輪ができます。「木目」は冬の成長の遅い部分、つまり色の濃い年輪部分が板材に製材されたときに表面に現れたものをさします。柾目の場合は規則的に並んだ縦縞のように、板目の場合は縞の流れた雲のような模様になります。
これに対して、「杢」は種々の原因により、木の繊維の方向に錯綜が生じたり、放射組織の配列や年輪の走り方などで、密度が局所的に変化することから起きるもので、木目と交叉する形で現れる立体的な模様のことを言います。(ただし、木材の世界では、面白い木目や色も装飾的な価値の高いものとして、「○○杢」という固有の呼び名とともにとても高額で取引されるそうです。ですから、厳密には木材の表面に現れる装飾的な模様全般を指すようです。)
実際には板の表面が平面であっても、光が繊維の方向によって乱反射する為に、見た目にはあたかも表面に凹凸があるようにも見えます。

木目と杢の現れ方には密接な関係があり、そのことがヴァイオリンにおいて、様々な杢のバリエーションができる要因になっています。
次は木取りという観点から木目と杢それぞれに関しての説明をすると共に、その相互関係についてです。
木目と杢の出方は製材時の木取り(切る方向や角度、位置)によって決定されます。ヴァイオリン用材を含め、板材の木取りには次の三種類があります。
@柾目(クォーター・カット)
A追柾目(ハーフ・スラブ・カット)
B板目(スラブ・カット)
@は木口(材の断面)から見て年輪が90°に立っているものを言います。表面には縦縞に近い直線の木目がでます。
Aは@とBの中間で、木口の年輪は斜めに通り、表面の木目は縦縞と雲状のものが混在します。
Bは@に対して、年輪が木口でほぼ横に寝ているものを言います。表面の木目は流れる雲のような模様がでます。
これら製材時の木取りの結果である木目と杢には、おおまかに次のような関係があります。
1.杢は柾目に強く出る。
2.その反対に、板目には出にくい。
3.柾目の杢はより直線的で動きが少ない。
ヴァイオリンの裏板は削り出しによって滑らかな隆起が形作られます。この隆起を作り出す為には、かなりの量の木が削り取られるわけです。
ここで興味深い点は、前述のブック・マッチとの関係です。ブック・マッチされた左右対称の杢(木目も含む)が美しいことは既に述べました。
確かに、平らな面の多い家具では、この左右対称の模様が損なわれずにそのまま出るのですが、ヴァイオリンのように曲面に削り出された面では、もとの正確なブック・マッチ面が中央部を残して削られなくなっていることになり、もとのブック・マッチ面から離れるほど木目と木の左右のバランスがくずれることになります。

この様に、ブック・マッチにして削りだした場合、板目傾向が強いほど木目と杢のパターンに影響が強く出て、左右は非対称になることが分かります。
ただし、板目に出る杢は波状に揺れる傾向が強くなり、それはそれで美観的には魅力的でもあります。
長々と、「杢」について書いてきましたが、あくまでこれは一番分かり易い部分での傾向を書いたに過ぎないかもしれません。図も少なからずデフォルメした部分がありますし・・・。
僕も「杢」についていくらか調べていて、いくつかの本を読んでみたものの、未だ詳しいことは分かっていません。
何かご存じの方がいましたら是非教えて下さい。