30のお題 No,08 「なくしたもの」





side  葵 豹馬



 定期検査を終えて部屋へ戻る。
 普段は気にもとめなくなったが、実は生来の物じゃない物をジッと見つめた。
 この戦いで、色々な物をなくした。 勿論、得た物もあるが … 。
 なくしたものの一つがコレ。 俺の両腕。
 肩から下は作り物。 見た目も何もかも、そんな風には見えねぇけどな。

 もう両腕が使えない      そう言われた時は絶望の闇が見えた。
 腕が使えないって事は、ジェットに乗れないという事。 勿論、バイクにも。
 バイクはともかく、ジェット … コン・バトラーには脳波操縦装置で乗るって手もあるが、負担が掛かりすぎるから、これ以上許可出来ないと言われた。
 万事休す … てか?

 「人体実験に近い物があるが … ソレで良いなら … 」
 おっちゃんの一言に飛びついた。
 俺は、こんな中途半端な所でジェットを降りたくなかった。
 こうなりゃ形振り構ってられねぇ。 何でもやってやるさ! 可能性があるなら。
 そうして得たのが、この腕。
 ホントに良くできてやがる。 定期検査が無けりゃ、忘れちまう程だ。
 薬品による壊死や拒絶反応とか、苦労もあったが、今じゃすっかり俺の腕。
 異常が無いかの確認と、今後の研究・改良、そして一般へ普及させる為のデータ集めを兼ねた定期検査は、苦痛じゃねぇが、自分の腕が作り物だと再認識させる。

 他のみんなも、色々なくしてるんだろうな。
 肉親の死、家や故郷をメチャクチャにされたり … 。
 俺だけじゃない、他のみんなも色々なくして … そして、もうなくしたくないと思ってるだろう。

 改めて決意する。 もう、なくさないように。
 グッと手を握り込む。
 この腕は、新たに得たものであり、俺の決意を象徴するもの。
 そして、かつて、なくしたもの … 。




* 作者の言い訳 *
 豹馬の腕は、邪悪なキャンベル星人を倒す為に得た、新たな武器でもあるような気がします。

by 忍 翔蘭





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