100のお題 No,087 「後は任せた!」





 リビングルームは、気まずい雰囲気だった。
 一時はブリザードが吹き荒れていたが、今は何とも言えないオーラで包まれていた。


 ちずるは、口を利いてくれない。 頬をふくらまし、明後日の方に顔を向け、接触拒否を全身で表している。
 別に豹馬は好きでこんな状態になっている訳ではないのだが、こうなってしまった以上、ちずるのこの態度は当然の事で、仕方ない事だろう。
 先程も、すさまじかった。 その怒りのオーラが、他の人間にも解る。 普段、その手の事には疎いという人間にまで、怒りのオーラが感じられる程だ。 それがどれ程のものか想像出来るだろう。

 「うふふ、豹馬様ぁ お休みっていつなんですか?」
 しっかり豹馬の隣に陣取っている少女。 何でもバトルチーム … 特に豹馬のファンだという。
 四ッ谷博士が不在なのを良い事に、何だかんだとコネクションの所員を口の巧さで丸め込んで “コネクション見学” という名目でコネクション内に入り込み、バトルチームを探し出して豹馬の隣をゲットしたのである。 今では、すっかり豹馬の “彼女” 気分。
 コレにちずるが怒らない訳がない。
 しかし、ちずるは豹馬から告白された訳ではなく、また告白した事もなく … “彼女” と呼べる位置には居ない。
 「仲間ならプライベートにクチバシつっこめるって訳じゃないでしょ? それに、 “恋人” じゃないんだし」
 少女は、そう言ってのけた。 確かにその通りなのだが … 。
 「決まった休みなんかねぇよ … 」
 最初は慕ってくれるのが嬉しかったが、見ず知らずの少女にココまでベタベタされては、流石に鬱陶しくなってくる。
 しかし、大作、小介の両名では、この少女の敵ではない。 一木兄妹は問題外。
 ちずるは、あの状態ではアテに出来ない。
 四ッ谷博士は不在。 残る十三も、護衛役で四ッ谷博士に同行していて、やはり不在。
 豹馬自身は、女の子に弱かった。 純粋に慕ってくれる少女に冷たくできなかった。
 「(     誰か何とかしてくれよ〜(T_T))」
 豹馬は内心、滂沱の涙を流していた。


 「帰ったで〜♪」
 出掛けていた十三が帰ってきた。
 明るくリビングルームに入ってきたが、その雰囲気に笑顔を凍り付かせた。
 「(     な、なんや? この何とも言えん雰囲気は … )」
 今すぐ回れ右して出て行きたいが、それも不自然で。 何か言おうと思っても言葉が出てこない。
 「(     チャ〜ンスッ( ̄ー ̄))」
 十三が帰ってきた事で、密かにほくそ笑んだ者が居た。 豹馬である。
 少女の話の内容からして、どうやら “ニヒル” な人や “クール” な人が好きなようだが、豹馬がそんな人間だと思いこんでいるようだ。
 世間一般には、バトルチームの詳細なプロフィールなど公開されていない。 名前、性別、年齢くらいしか公開されていない。
 そのせいで憶測が憶測を呼び、噂に尾ひれ背びれ、オマケに胸びれくらいまで付いて、勝手なバトルチーム像が地域ごと、人ごとに出来上がっているらしい。
 どこで、どう豹馬が “ニヒル” だとか “クール” だとか言う話になったのか、かなり疑問だが … 。
 「お帰り、十三。 護衛役、ご苦労さん」
 まずは十三に目をいかせようと十三に声をかける。
 「あ、ああ … 」
 辛うじて豹馬に対応して、その隣にいる少女に目が行く。
 「? … その娘、誰や?」
 「あの人が、5人目のバトルチームの人?」
 2人の注意がお互いに向いた。
 「ああ、浪花十三。 チーム最年長だ。 最年長だけにチームで一番沈着冷静なヤツでさ。 つい熱くなっちまう俺のストッパー役でもあるんだ」
 「 『つい熱くなる』 ?」
 豹馬がクールだと思っていた少女は、その言葉に反応する。
 「ああ。 俺ってカッとなりやすくてさ … 最近じゃ、大分マシになったけど。 やっぱり十三のようにクールになりきれなくてな〜(^_^;」
 少女が豹馬にはなっていたラブラブ(?)光線が薄らいだ。
 それに気づいたちずるが、少し冷静になり、豹馬の意図を理解した。
 「そうね〜。 やっぱり十三君ってクールな所が大人って雰囲気があるわよね」
 ちずるは豹馬に調子を合わせつつ立ち上がり、さり気なく十三を少女の方へ連れてくる。 豹馬とは逆隣に座らせた。
 狙い通り、少女の目は十三に向かい始めて、十三に色々質問を始める。
 少女から 「十三様」 等と呼ばれて、気をよくした十三は、少女の質問に “クールな大人” を装って答えていく。

 完全に少女の注意が豹馬から離れたのを確認し、豹馬は気配を殺して席を立った。
 ソロソロとリビングルームを出ようとする。 ちずるもそれに続く。
 その場の雰囲気に精神的に苦しい思いをしていた大作と小介も、更に続く。

 ふと、周りの気配が無くなったのに気づいた十三が、リビングルームの出入り口から、今まさに出て行こうとする豹馬達を見つけた。
 「何や? どないしたんや、みんな?」
 「十三 … 」
 「?」
 振り返った豹馬は、十三に向かってビシッと手を挙げた。
 「後は任せた!」
 言うやいなやリビングルームをダッシュで後にする。 他3人もそれに続いた。
 「お似合いよ〜、十三君っ」
 「頑張ってくんしゃい!」
 「失礼しますっ!」
 あっという間に居なくなった。
 「え? え?」
 今までの話の流を知らない十三は、皆が逃げていく訳が分からない。
 「十三様〜 あたしの方を見て下さいよぉ。 良いじゃないですか、他の人なんて」
 腕に絡み付いて、更なる自己アピールをする少女だった。


 「た、助かった … 」
 「一般人の立ち入りに関して、見直しをした方が良いですね」
 「賛成たい」
 「四ッ谷博士に相談しましょう」
 少女を十三に押しつけた任せた豹馬達は、その後、十三に大分文句を言われる事になる。 が、一般人のコネクション立ち入りに関して四ッ谷博士に相談したおかげで、豹馬と十三が再びあの少女に会う事はなかったという。




* 忍の言い訳 *
 噂の類は、恐ろしいですよね。 思っても見ない事が噂の世界で真実として受け取られてたりするし。
 プロフィールは公開しなくても、マスコミとかが色々調べるんでしょうけど、政府命令で一般公開はされないだろうなぁという事で。




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