100のお題 No,083 「頼りにしてるよ」





 チョットした事で自信をなくした。
 みんなに比べて、運動神経が鈍いし。
 自慢の頭脳も、パニックを起こすと使い物にならない。
 彼の様な運動神経が欲しい。
 彼の様な冷静さが欲しい。
 彼の様な剛胆さが欲しい。
 彼女の様な凛とした強さが欲しい。

 「何か、最近小介の様子がおかしくねぇ?」
 「あの一件以来やろ?」
 「自信なくしてるみたいよね」
 「小介しゃんのせいじゃなかと。 変に気にしすぎたい」
 前回の戦闘で、ミスした小介。 大したミスではなく、フォロー出来た。
 しかし、小介は随分そのミスを恥じた。 もっとちゃんとしていれば、もっと早く気付いていれば、そうすれば敵の撃破はもっと早かったはず。 そして、豹馬に怪我を負わせる事も … 。
 「別に、怪我ったって、大した怪我じゃなかったじゃねぇか … あんなの、いつもの事だろ?」
 「でも、合計五針縫ったわよ」
 頭と腕、それぞれ二針と三針縫った。 しかし、豹馬にとって大した怪我ではない。
 両腕を撃ち抜かれたり、胸を剣で刺されたりしてる豹馬である。 数針縫うくらいは、大怪我の部類に入らないのだ。
 しかし、小介にとっては … 縫う様な怪我は、結構な怪我なのだ。 それで落ち込んでいる。
 「ったく、しょうがねぇなぁ … 」
 豹馬は、ため息をついた。


 一人、シミュレーションルームに残ってシミュレーションを繰り返す小介。
 もう、大分訓練時間をオーバーしている。
 「お〜い、オーバーワークは駄目だぞ。 いざって時にどうするんだよ?」
 「豹馬さん … 」
 小介のシミュレーターに近づきつつ、豹馬はため息をついた。
 「まぁだ気にしてんのかよ? いい加減にしろよな〜。 他のみんなにも気ぃ使わせちまってんだぞ」
 「 … スミマセン … でも」
 小介はシミュレーターに座ったまま俯いた。
 皆が気を使っているのは解っていた。 しかし、小介は自分の気持ちを整理出来ずにいる。
 また、同じような事をしてしまったら … 。
 「あのなぁ、そんな事言ってたら、俺なんかどうするんだよ?! しょっちゅうだぞ、みんなに迷惑かけんのなんか」
 小介のかぶるヘルメットを外しつつ、豹馬は言った。 そのままシミュレーターに寄りかかって小介のヘルメットをもてあそぶ。
 「迷惑かけちまった事は、いつも悪いと思ってる。 反省もする。 戦闘後のミーティングで、戦闘中は気付かなかったミスなんてのもあったりしてさ。 『ああすれば良かったんだな〜』 なんて思うのしょっちゅうなんだぞ」
 「 …… 」
 豹馬の言葉を聞いてはいるのだろうが、依然小介は無言だった。
 「でもなぁ、それを引きずってたらいけねぇんだよ。 引きずる事が、次のミスに繋がっちうまんだからよ」
 「!」
 「 『悪かった』 、 『ミスだった』 と思うなら、逆に引きずるな。 引きずって同じミス繰り返す方が恥だぞ」
 豹馬の言葉が胸に突き刺さる。 確かにその通りだと解ってはいるが … 。
 「悪い所にちゃんと気付いて、反省したり修正したりするのはいい。 いや、しなきゃ困るんだけどよ。 引きずると、周りの人間も精神的に迷惑だし」
 「そうですか?」
 小介はようやく豹馬の方に顔を向け、言葉を発した。
 「当たり前だろ〜? ドヨヨ〜ンとしたオーラってか雰囲気まき散らしてるんだ、コッチの気分も滅入っちまうぜ … ま、俺も余り人の事言えねぇんだけどよ …
 自分にも身に覚えがあるので、余り強く言えない豹馬だが、根が常に前向きなので、ココまで長く引きずった事はなかった。
 自分が悩んだ事で、周りに不快な思いをさせていたとは気付かなかった小介は、他の人が不機嫌だったりして、嫌な雰囲気を醸し出していた時の事を思い出し、 「(    ああ、自分もあんな感じだったのか)」 と改めて反省した。
 「反省したら、気持ちは早く切り替えろよ! 自分の為にも良くないぜ。 いつまでもそんなんだと、コッチも不安になんだからよ。 小介の頭脳は、頼りにしてんだぜ」
 振り返った豹馬は二パッと笑いながら小介の頭をガシガシと撫でた。
 「 … 僕、頼りにされているんですか?」
 髪がボサボサになった状態で小介が聞き返してくる。 頭を撫でられた拍子に眼鏡もずれたらしい。 押し上げて定位置に直す。
 「ったりまえだろ! 俺だけじゃねぇぜ、みんなそうさ」
 明るい豹馬の笑顔が眩しい。
 小介は、悩んでいたのがバカらしくなってきた。
 豹馬の言う通りだ。 気持ちを切り替えよう。 これ以上皆に迷惑をかけない為には、そうするのが一番。
 「ありがとうございます!」
 小介が笑顔で返せば、豹馬も小介が気持ちの切り替えが出来た事を悟る。
 「よし。 じゃぁ、シミュレーターは終了! 茶ぁしに行こうぜ」
 「はいっ」
 豹馬からヘルメットを受け取った小介は、走り出す。
 豹馬は、弟を見る兄の様な気分で、そんな小介の姿を見ながら呟いた。 皆の気持ちを代表して。

 「頼りにしてるよ … 小さな天才くん」




* 忍の言い訳 *
 いや、小介みたいな子の方が、返って泥沼しそうだなと。




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