100のお題 No,082 「喝!」





 「聞いてやすか、四ッ谷博士!」
 「ん〜」
 「栄養が偏ると言っとるんですよっ!」
 「おお、新しいディスカウント店が出来たのか … 酒も安くなってるかの?」
 賢明に木兵衛が話しかけているのに、全く聞いていない四ッ谷博士だった。

 そもそも、四ッ谷博士の食事が軽すぎると言うのが、木兵衛の言い分。
 『もっとしっかり栄養のある物を取らないと、体が保たない』 と言いたい訳である。 “食” を任された木兵衛は、自分の責任を解っていた。
 それなのに、四ッ谷博士は酒浸り。 酒さえ有れば食事は余りいらないと言う感じである。
 何回も忠告しているのに、聞く耳持たない。
 南原コネクションの所長という、重要な役割を保つ四ッ谷博士が栄養失調で倒れでもしたら … それを四ッ谷博士は解っているのか解っていないのか … 。
 そして今日も、木兵衛の虚しい忠告は無視された。


 「と言う訳で、困ってるんでやすよ。 何とかなりやせんかねぇ?」
 昼食の時、バトルチームの面々に日頃の悩みを相談してみた。
 自分よりは四ッ谷博士に近い存在の彼らなら、何か良い方法を教えてくれるかも知れないと言う考えからだった。
 「いつもどんな風に言ってるですか?」
 「 “食” が、どんなに重要か、シッカリと説明してですな … 」
 「あ〜、自分の研究や対キャンベル星に関する事やコン・バトラーとかの事ならともかく、他の事となると、どーでもいーからなぁ、おっちゃんはぁ」
 「そやなぁ。 言うても無駄やろな」
 「そん前に、お酒の飲み過ぎば何とかせんと … 」
 「そうよね〜( ̄▽ ̄;」
 バトルチームの面々でさえ、少々諦め気味の様子。
 「しかし、木兵衛さんにまでこんな風に心配されては、ホントに四ッ谷博士の健康に不安を覚えます。 本腰を入れて、何とかしないといけないのでは?」
 「アルコール中毒でポックリとかいかれちまうと困るしな」
 皆は、何とかして四ッ谷博士のキチンとした食事を取らせる事を考え始めた。


 「おはようごぜぇます、四ッ谷博士。 お食事をお持ちしやした」
 「ああ、おはよう」
 翌朝、木兵衛が朝食を持って来た。 ご飯にみそ汁、焼き魚、煮物、漬け物といった和食の膳。
 「ささ、朝食は1日の基本。 シッカリと食べてくだせぇ」
 一般的には、普通の朝食。 しかし、今まで朝食をほんの少ししか食べていなかった四ッ谷博士にとっては多すぎる量。
 顔をしかめると、新聞に目をやり。
 「〜〜木兵衛さん、そんなにいらん。 トーストにしてくれ」
 「四ッ谷博士、またそんな事を。 キチンと食べてくだせぇ。 食事による栄養摂取は重要で … 」
 「いらんもんは、いらん」
 「 ……… 」
 木兵衛は、四ッ谷博士が新聞に目をやっている隙に、ソロソロと後退した。
 チラリとドアの方に目をやると頷く。 ドアは少し開けられており、その向こうには最終兵器が待っていた。


 「木兵衛さん?」
 木兵衛の返事がいつまで経ってもなく、和食膳が下げられる様子もないので、不思議に思って四ッ谷博士は振り返った。 しかし、そこには … 。
 「喝!」
 バシィッッッ!

 「?!?!!! げ、源さんっ?!」
 振り返った途端に大声の一喝。 そして竹刀を床にたたきつけた音。
 驚きまくった四ッ谷博士は、最初は訳が分からなかったが、よくよく見れば、木兵衛の代わりに堀部源造技師長が立っていた。
 「な、何で源さんがおるんじゃ? 木兵衛さん?!」
 「 『何で?』 じゃない! ワシは今日からしばらく、アンタの “見張り役” だ!」
 「み、 “見張り役” ???」
 仁王立ちで四ッ谷博士を見下ろしていた堀部技師長は、迫力満点で四ッ谷博士に詰め寄った。 そんな様子を木兵衛はニヤニヤしてみている。
 「アンタがまともな食事をしないと、木兵衛さんと豹馬達から嘆願されてな。 アンタにちゃんと食事をさせるのがワシの使命だ」

 木兵衛とバトルチームの面々は考えた。
 なんだかんだ言って、最終的には四ッ谷博士に彼らは敵わないのだ。
 四ッ谷博士より立場が上の人間は、コネクションに存在しない。 彼がコネクションの所長、最高責任者なのだから。
 しかし、立場が上の人間は居なくても、精神的に立場が上になれる人間はいた。 それが彼、堀部技師長である。
 昔気質の堀部技師長は、立場が上の人間であっても、間違っているとなればガンガン言ってくる。 おそらく、相手が日本国首相やアメリカ大統領であろうとも、そうだろう。 彼らは、そこに目を付けた。
 そんな所は豹馬も同様なのだが、相手が一般人や、コネクションの職員ならともかく、豹馬同様、修羅場をくぐり抜けてきた四ッ谷博士相手では、貫禄が足りなかった。

 堀部技師長は、豹馬と木兵衛から事の次第を聞き 「四ッ谷博士にキチンと食事を取らせる為に協力してくれ」 と頼まれたのだ。
 食事の責任者である木兵衛と、バトルチームの中でも一番のお気に入りである豹馬にダブルで頭を下げられた堀部技師長としては、一肌脱がざるを得ない。
 と言う訳で、竹刀片手に四ッ谷博士の部屋へ木兵衛共々やって来たのだ。

 「木兵衛さんや豹馬達が、どんなにアンタの体を気遣っているか、解っとるのか?! 食事は体の資本なんだっ、キッチリ取らんかっ! いい年して変な我が儘を言ってるんじゃないっ」
 「し、しかし源さん … 」
 「しかしもへったくれもあるかっ! ほれっ、サッサと食べるっ!!」
 ビシィッと竹刀を鼻先に向けられ、慌てて茶碗と箸を手に持つ。
 「喝っ! 『いただきます』 が先だろう?!」
 「は、はいっ」
 茶碗と箸をワタワタと元の位置に置いて両手を合わせて 「いただきます」 。 その後、ご飯を掻き込む。
 「喝ッ! ゆっくり良くかんで食べんかぁ!」
 再び竹刀が床に振り落とされ、バシィッッッと音を立てる。 危うく、ご飯を喉に詰まらせそうになった四ッ谷博士だったが、みそ汁で難を逃れる。


 その後、更に 「姿勢が悪い」 だの、 「同じ物ばかり食べずにまんべんなく食べろ」 だの散々注意を受けながら完食。 食後のお茶が運ばれてきて、ようやく堀部技師長から解放された。
 「当分の間、見張りに来るからな」
 そんな言葉を残して堀部技師長は去って行った。
 「 …… 勘弁してくれ … 」
 満腹ではあるけれど、食事をした気がしない四ッ谷博士であった。


 しばらくの間続いた堀部技師長の見張りは、一ヶ月経った所で、一端終了になった。
 が、 「また我が儘を言うようなら来る」 というセリフに、この一ヶ月を振り返った四ッ谷博士は震え上がり、その後、見張りが無くても、ちゃんと食事を取るようになったという。




* 忍の言い訳 *
 朝食は一日の基本。
 食べない人も結構いるみたいだけど、駄目ですよ。
 キチンと食べましょう。




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