夕食も終わって、リビングでくつろいでいた時、同じ音が三回続いた。
「ぶぁっくしょんっっ!」
「何だぁ、三回も。 風邪か、小介?」
「エライ、盛大なクシャミやったな」
ティッシュを手にした所で、また出そうな気配。
「は … は … はっくじょいっっっ!」
「風邪ね」
「ですばい」
そう言われる横で、小介は今度こそティッシュで鼻をかんだ。
「薬飲んだのか? 早めに治さねぇと」
「 …… 」
分厚いレンズの向こうにある、可愛い瞳が泳いでいる。
「 … 飲んでないわね、薬」
「大丈夫ですよ」
指摘されたが、ちょっとムキになって薬を拒む。
「何言ってるの。 四回も連続してクシャミしてるじゃない」
「そーそー。 知ってるか? クシャミはなぁ 『一で褒められ、二で憎まれて、三惚れられて、四風邪ひく』 って言うんだぞ。 四回クシャミしたら、もう風邪に決定だ!」
ビシィッッ、と豹馬に指をさされて迫られた。
「これくらい、薬なんか飲まなくても … 」
「小介しゃん、オイ達は、常にベストコンディションば求められる立場たい。 早く治す為にも、薬飲んだ方が良かよ」
「そやそや。 何でもない時ならエエけどな。 ワイ等は、いつ出撃するか分からんのやさかい」
「薬の多用もいけないけど、体調が悪いのに全く飲まないのも問題よ」
姉のように慕う彼女にも諭される。 でも … 。
「お、丁度いい。 お〜い、ロペット。 風邪薬くれよ」
ちょうどリビングルームにやってきたロペットに豹馬が声をかけた。
「ドナタカ、風邪ヲヒカレタンデスカ?」
「ええ、小介君がね」
ロペットの 『実は四次元ポケットならぬ四次元腹か?!』 と噂の腹部から救急箱が出される。
「ソレハイケマセンネ。 早ク治シマショウ。 サ、ドウゾ」
救急箱から選別された風邪薬の箱。 ちずるがそれを受け取ると、ロペットは救急箱をしまった腹から、今度は水の入ったコップを出す。
「( 是非解体してみたい … )」
常々そう思う小介だが、今解体してしまうと、戦局を乗り切れないので、ぐっと我慢している。
「さ、小介く … あっ!」
小介は、ちずるがロペットの方を向いている隙に逃げ出していた。
「小介君!」
「コラッ、待たんかいっ!」
「小介ぇっ!」
コレが、豹馬か十三辺りなら追っ手から逃げ切れたかも知れないが、いかんせん小介では … 彼は、豹馬達とあまりにもリーチが違いすぎた。
「ヤダヤダヤダ!」
取り押さえられても、尚逃げようともがく。
「ひょっとして、薬が苦いから嫌なんか?」
「何だよ、いつもは大人ぶってるくせに、こんな時だけ子供かよ」
いつもの澄ました彼からは想像しづらい行動。 やっぱり、なんだかんだ言っても、子供なのだ。
「小介君、 “良薬は口に苦し” って言うでしょ。 苦い思いしているのは、この薬を飲む誰も同じよ。 それに、コネクションには基本的に子供が居ないから、お子様用シロップなんて無いのよ。 小介君は例外中の例外。 さぁ、観念しなさい!」
「ひぃぃぃ、勘弁して下さい〜(ToT)」
「駄目よ」
「注射の方がマシですぅ(ToT)」
「普通逆だろ … ( ̄▽ ̄)」
一部、妙なやり取りの中、大作はロペットに頼んである物を出して貰った。
「ほんなら、これ、使うてみんしゃい」
「? 何や、それ?」
「言ウナレバ、おぶらーとノ一種デス」
大作の手にあるのはゼリー飲料などが入っている様なアルミパックとおぼしきモノ。 それは可愛らしいぬいぐるみの絵柄のパッケージ。 そしてパッケージの真ん中に “薬がラクに飲めるゼリー状オブラート おくすり飲●たね いちご味” とある。
「「「 ……… 」」」
抑えられている小介、そして小介を抑える豹馬と十三は、目が点になっている。
「ああ、コレがあったわね」
医療関係に精通しているちずるは、すぐに分かった。
早速、ロペットの出した小皿にゼリーを出して、粉薬をそのゼリーで包み込む。
「小さい子供用に開発されたオブラートなのよ。 普通のオブラートだとゴワゴワして喉に引っかかって飲みづらいし。 失敗すると口の中でオブラートが破けたりして、オブラートで包んだ意味が無くなるのよね」
薬をゼリーで包み終わったちずるは、小介の所に小皿を持ってくる。
「でもコレはゼリー状だから、するっと飲めるの。 水無しで大丈夫。 それに、ゼリー自体に甘い味が付いているから小さい子供もお菓子感覚で飲めるわ。 最近は、飲み込む力の衰えたお年寄りなんかも使うのよ」
目の前に出された小皿に乗る、薬のゼリー包み(笑)をマジマジと見る豹馬、十三、小介。
「この間、小介しゃんと同じ、例外中の例外の知恵ちゃんが使っちょったのを見てたとよ。 じゃけん、薬の味を感じんと飲めるのは保証できるばい♪」
誠実な大作にそう言われ、ちずるにも 「大丈夫♪」 と促され、拘束を解かれた小介は腹をくくって杯を傾ける要領で小皿から直接ゼリーを飲み込んだ。
「 …… ホントだ … 全然苦みを感じませんでした」
薬も苦もなく飲めた喜びに、小介は満面の笑みを浮かべた。
「へぇ〜。 最近は、こんなのもあるんだ」
ゼリーのパッケージを手に豹馬が感心した。
「俺が、ガキの頃にも欲しかったぜ」
「全くやな〜」
直接薬を飲むか、普通のオブラート使用で苦い体験をしていたのだろう豹馬と十三は、ゼリーを手に昔を思い出している様だった。
「これからは、もう大丈夫です! 良薬、恐れるに足らず!」
キラリと眼鏡を光らせ、すっかり調子を取り戻した小介だった。
* 忍の言い訳 *
画期的ですよね。
最初に知った時には、ホント感心しました。
私は、普通のオブラートそのものも、使った事無いんだけどね(^▽^;
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