「 …… チッ」
嫌な夢を見た。
もう大丈夫なはずなのに … また不安になる。 どんなに太鼓判を押されて保証されても … 。
「 ……… 」
リビングルームで、やけに静かな豹馬を見て、話し合う十三、大作、ちずる、小介。
「ね? そうでしょ?」
「そやなぁ … 」
「よくよく考えてみれば、そうばい」
「時々ありますね」
ここ最近、何がキッカケなのか、たまに … そう、たまになのだが、豹馬が妙に静かになる時がある。
話しかければ、ことさら明るく振る舞うのだが、何か悩み事でもあるのだろうかと心配になる。
「けどなぁ … “悩み事がある” ちゅう柄でもないんやけどな」
「ばってん、腕の拒絶反応があった時も一人で悩んでたばい」
「迷惑かけまいと、僕達に内緒で一人で何とかしようとしてましたっけね」
「腕の件は、もう大丈夫だから、それで悩んでいるってコトはないと思うんだけど … 」
四人で、あれやこれやと原因を考えてみるが、なかなか思いつかない。
確かに十三の言う通り、クヨクヨと悩み込む様なタイプじゃなかった為に、豹馬が悩む様な事柄が思いつかない。
ふと、そんな中、豹馬が立ち上がり、無言のままリビングルームを出て行った。
「いつもと雰囲気が全然違いますよね … 」
「アカンなぁ … あないなんは」
「あの豹馬しゃんが、あそこまでになる原因ちゅうのは … 一体?」
「豹馬 … 」
更に不安が増したちずるは、豹馬に続いてリビングルームを出て行った。
ちずるは豹馬を捜して、あちこちで所員を捕まえては、豹馬の目撃情報を追った。
「豹馬さんですか? さっきトレーニングルームに入るトコ見ましたよ」
ちずるは、また一人、通路で捕まえた所員から豹馬の行き先を聞き出し、礼を言った後トレーニングルームへと向かった。
「今日のトレーニングメニューは終わってるのに、忘れ物とか?」
トレーニングルームへ辿り着いたちずるは、何となく、すんなりと入る事が出来ず、少しだけドアを開けて中を覗いてみた。
見えた光景は、既に汗をかき始めている豹馬の姿。
両手にダンベルを持ち、またトレーニングをしている。
「豹馬 … ?」
ちずるは疑問だった。
トレーニングは確かに必要だが、過度のトレーニングは身体を鍛えるどころか逆に身体を壊しかねない。 特に豹馬達の様に、まだこれからも成長していく少年少女世代は、注意が必要だ。
スポーツをやっている中高生が、練習のしすぎで体を壊し、若くして選手生命を落とすと言う事もあるのだ。
そのことに関しては、バトルチーム全員がレクチャーを受け理解し、提示されたメニューを守ってトレーニングをしていた。
「何で …… あ!」
ちずるは豹馬を見て、ある事に気付いた。
ダンベルの重さが左右で違うのである。 左の方が、若干重い物を使用している。
「( ま、まさか?!)」
ちずるはトレーニングルームへ飛び込んだ。
「豹馬!」
「! な、ちずる?!」
いきなりの来訪者に豹馬も驚いているが、次の瞬間、ちずるが発した言葉に表情がこわばった。
「豹馬、腕、またなの? また拒絶反応が出てるの?!」
以前出た拒絶反応。 使用頻度の少ない、利き腕ではない左の方に顕著に表れた。
今、豹馬が左の方に重いダンベルを使っている事で、より左を鍛えようとしている事が伺える。 そこから導き出した予想だった。
「出てねぇよ … 」
「でも … 」
多少青ざめたちずるに、豹馬はぶっきらぼうに返したが、このままでは、以前の二の舞だと、諦めて話し始めた。
「ホントに出てねぇ。 コレは、俺の気分 … ってか、気持ちの問題なんだ」
「気持ち?」
ダンベルを置き、バツが悪そうに話す。
「 … その、なんだ … 夢を見るんだ。 たまにさ。 また、拒絶反応が出ちまう夢 … 」
四ッ谷博士に太鼓判を押された。 「完全にお前の物だ」 と。 しかし、まだ未知数の多い人口細胞故に、心のどこかに残る不安。 それが夢として現れるのだろう。
「筋肉が衰えたりしたら、また出ちまったりしねぇかと不安になっちまうんだよな … ハハ、たかだか夢に情けねぇけど。 そうすると、何か、やらずにはいられなくてさぁ」
自分は既に安堵しきっていた。 もう、豹馬の腕は大丈夫と。
決して楽観出来なかったのに。 人工細胞を腐らせてしまう薬品だってあった。 その解毒薬もなかなか見つからなくて。 結局、キャンベル側を裏切った勝田博士が教えてくれたから事なきを得たが、他にも何か人工細胞に影響を及ぼす何かがあるかも知れない。
そんな事を考えれば、豹馬の不安も頷ける。
ちずるは、豹馬に歩み寄り、跪いて左腕を手に取った。 抱き込む様にして、頬を寄せる。
「 … ちずる?」
何も言わずに腕を抱き込むちずるに戸惑う豹馬だが、何となく温かい気持ちが流れ込んでくる様な気がした。
「 …… 大丈夫。 大丈夫よ。 一人で悩まないで。 みんないる、みんなもいるから。 何かあっても、みんな協力して助けてくれるから」
「!」
「あたし達の事も、チョットは頼って … 一人で抱え込まないで … 」
豹馬の中の不安が、霧散した。 分かってたはずなのに、仲間の存在を忘れていた様な気がする。 改めて言われて思い出した。
「 …… ん」
気持ちの落ち着いた豹馬は、しばらくそのまま、ちずるの好きにさせていた。
「気付かんかったばい … 」
「確かに、未知の部分がある物ですからね。 そう思うのも無理有りません」
「けど、これで一件落着 … やな」
「ですね」
トレーニングルームの外でコッソリ覗いていた仲間は、二人の様子を見守っていた。
* 忍の言い訳 *
腕用のトレーニングやらなくなったら、どうなるかな〜と。
ダイエットのリバウンドじゃないけど、また拒絶反応出るかも知れないという不安、有ると思うんだよね。
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