「昔、自分のやっている事を理解して貰えませんでした」
ある日のリビングルーム。 金太と知恵の話がキッカケだった。
「家では父が話を分かってくれたので、余り感じませんでしたが、外に出ると … 同世代はもとより、大人でもチンプンカンプンだという事で」
「だろうなぁ … 小介はおつむの出来が違うからな」
まだ10才に満たない少年が、アメリカの大学に留学する程の頭脳を持っている。 大人でさえ難解な理論や数式をスラスラと解き、理解するのだ。
しかし、大半の人間は同じコトを理解できるだけの頭脳を持っているはずもなく … 同世代からは 『訳の分からない事を言うヤツ』 、大人からは 『生意気な子供』 もしくは 『天才児』 と認識されていた。
話を分かってくれるのは、大学の教授や助教授、助手、博士と言ったランクの人達。
「まぁ、それでも、やっぱり実年齢は子供ですから、どこか子供扱いされるんですよね。 それが悔しくて 『早く大人になりたい』 と思ったモノです」
天才児にも人知れぬ悩みがあったのだ。
「大人はな〜、自分の都合が悪くなるとすぐに 『子供のくせに』 とか 『生意気だ』 、 『子供は大人の言う事を聞いていればいいんだ』 とか言って誤魔化したりするから」
「ワイも 『自分が大人やったら、こないなヤツ、コテンパンや!』 とか思うたの1度や2度やないで」
豹馬と十三も、結構苦い体験をしているようだ。 それが、一時期グレる原因の1つになっていたのかも知れない。
「で、今でも、そう思ってんのか?」
豹馬が小介に問いかける。
今まで、一緒にいてそう言った類の言葉を聞いた事がなかったからだ。
「ん〜、微妙 … ですね。 前よりは思わなくなったかも知れません。 “子供の特権” といモノを知りましたしね(笑)」
金太や知恵と付き合うようになったからだろうか?
対等に見られようとして 『肉体的にはどうしようもなくても、精神的に大人になりたい』と子供っぽいモノから背を向けていたが、金太と知恵に引っかき回されつつ、子供っぽいモノに目が行くようになったらしい。
「大人になったら大人になったで、 『子供の頃は良かった』 ってなるのよね。 だから、子供の時にしかできない事をしておかないとソンよね」
「どんなに頑張っても、いずれ大人になるとです。 無理して背伸びせんで良か」
「でもでもでも、納得できない!」
「お父ちゃんは子供だと思って馬鹿にして、1人の人間だと思ってないんだよ!」
金太と知恵は豹馬達の話を無視して憤慨している。 よっぽどなコトがあったのか … ?
「そう言えば、何があったの、そんなに怒って?」
「2人の話がキッカケじゃったね。 ウッカリ忘れるトコだったばい」
そう、2人が 「大人になりたい!」 と言いだしたのが始まりだった。
「とうちゃんってば、オイラ達の刺身にはワサビいらないって、付けてくれないんだよっ!」
「「「「「 …… は?」」」」」
「そーそー。 あの緑色のこんもり山形に盛られるワサビ。 格好いいジャン」
「ワサビのない刺身なんて、格好悪い!」
「(ひそひそ) どう思う?」
「(ひそひそ) 只単に、無駄を省いただけっちゅーか … 」
「(ひそひそ) だよなぁ … 」
「(ひそひそ) 金太君達はワサビ大丈夫なんね?」
「(ひそひそ) どうかしら?」
「(ひそひそ) 僕でも、ワサビはまだ … 」
豹馬達は、呆れ返りながら金太と知恵の “大人になりたい理由” を聞いていた。
「で、お前達、ワサビ大丈夫なのか? 食べられるのか?」
「「知らない。 食べた事無いモン」」
「「「「「 …… は? (・_・;」」」」」
即答で返されたその答えに、10秒程固まる。
「(ぼそぼそ) 単なる見た目かいな」
「(ぼそぼそ) だな」
「(ぼそぼそ) 大人の真似したいお年頃ってことね」
「(ぼそぼそ) 気持ちは分かるんじゃけんど … ばってん … 」
「(ぼそぼそ) くだらないですね … 」
自分達も、1度は思ったコトなので、言い返せなかった豹馬達だった。
その後、豹馬達のアドバイスで、1度ワサビが金太と知恵の刺身皿にのった。
が、喜んでワサビを食べた2人が大騒ぎして、 “ワサビは大人になってから” に納得したという。
* 忍の言い訳 *
誰でも1度はそんな事有りそうな … 。
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