「え? 木兵衛さんがか?」
「うん。 何だか、一気に老け込んだ様になっちゃってね。 アタイ達も困ってるんだ」
朝食が済んで、リビングでお茶を飲みつつくつろいでいた時である。
金太と知恵が、 「ここの所、父ちゃんが元気なくて … 」 と言ってきたのである。
「そういえば … 今日の給仕は、百江おばさんが一人でしてくれましたね」
「そうですのぉ。 いつもは、木兵衛しゃんも一緒にやっちょるのに」
「余り気にしてなかったわ」
今朝の食堂の様子を思い出してみると、木兵衛の姿を見ていなかった事に気が付いた。 声は … 確か奥の方から少し聞こえたのだが … 。
「何や忙しいんかと思っとったワ」
「そーそー。 ゲテモノ料理の仕込みとかな(笑)」
ごくたまにだが、一般食堂の方の助っ人もしたりで忙しくなり、木兵衛の姿を見ない事もあったので、今回も、そんな理由だろうと軽く考えていた一同だった。
「それがさ、何か 『疲れやすくなった』って言っては、ため息ついたりしててさ。 覇気がないってヤツ? オイラ、あんな父ちゃん見るの初めてだよ」
「アタイも」
今まで元気一杯で、歳も考えずにハッスルしては鎧を着込み、長刀を振り回す様な人だったから、初めての状態に金太と知恵も戸惑っているらしかった。
「一度、検査を受けてみてはどうでしょうか?」
小介の提案に、金太と知恵以外が、皆、一斉に深く頷く。
「駄目駄目。 父ちゃん医者嫌いだから。 コネクションの採用の時の健康診断でさえ嫌がってたんだよ。 あの時は、受けないと採用して貰えなかったから、仕方なく受けたけどさ」
「んでもって、 『自分だけが受けるのは不公平だ』 とか 『卑怯だ』 とか、色々言って、アタイ達にも健康診断受けさせたんだから」
「そーそー。 『イチレンタクショウ(一蓮托生)』 とか 『ウンメイキョウドウタイ(運命共同体)』 とか言って、オイラ達も巻き込んだんだ」
金太と知恵は顔を見合わせ 「「別に健康診断くらい、何ともないのにね〜」」 と頷き合っていた。
「健康診断まで嫌がるくらいの医者嫌いですか(苦笑)」
「でも、なんだかんだ言っても、コネクションでは、通常 『三ヶ月に一回は健康診断を受ける事』 ってなってて、最低でも半年に一回は健康診断を受けなきゃいけないのよ」
所員の健康診断は義務づけられているので、どんなに頑張っても半年に一度は、結局、健康診断を受ける事になるのだ。
「三ヶ月に一回〜?!」
「そんなに、しょっちゅう受けるの?」
金太と知恵の疑問ももっともである。 普通の企業などでも、通常半年に一度くらいである。
「コネクションは元々特殊機関だから。 所員が研究に没頭しすぎて、体を壊さないようにっていう考えで、そうなってるのよ」
「特に今は、キャンベル星との戦いがありますからね。 その関連で、心身ともに健康を害するおそれがありますし」
「ワイ等は、月一で受けとるで」
「下手すると、もっと間隔短くなるけどな(笑)」
戦闘での怪我などの関連で、最前線に立つバトルチームは、最も健康管理に気を付けなくてはならない。 何せ、交代する人員は居ないのだ。
「ばってん、このままじゃ … 何とか木兵衛しゃんに健康診断ば受けさせんと」
「ねぇ、オイラ達と一緒に、父ちゃんを説得してくれない?」
やはり、元気になる為には、その原因を知らなくてはいけない。 となれば、健康診断は不可欠。
しかし、自分たちだけでは、木兵衛に健康診断を受けさせるのは無理と判断した金太と知恵は、皆に頼み込んだ。
豹馬達にしても、木兵衛に倒れられでもしたら大変と、二人の頼みを快く引き受けた。
皆そろって食堂に出向き、木兵衛に声をかけようとした所、厨房から豪快な笑い声が聞こえてきた。
「「「「「「「?????」」」」」」」
紛れもなく、その豪快な笑い声は木兵衛のものである。 元気がなかったはずなのに、いつもの様な元気いっぱいの声である。
「も、木兵衛さん … ?」
豹馬がためらい気味に声をかけてみると、バタバタと木兵衛が厨房から走り出て来た。
「お、バトルチームの皆さんじぁありやせんか。 どうなすったんで? あ、食事の量が足りやせんでしたか? いやぁ、やっぱり食べ盛りは違うねぇ! よっしゃ、また何か作りやすぜ」
と腕まくりで厨房へ戻ろうとする。
「あ、いや、そうじゃねぇんだ。 飯は十分食ったよ」
豹馬は慌てて訂正した。 いくら食べ盛りとは言っても、満腹まで食べた後に、また食べるのは流石にキツイ。
「あ、あのな、ワイ等、木兵衛はんが元気ない聞いたんでな。 どないしたんやろ思うて」
また木兵衛が、勢いで勘違いせぬよう、十三が豹馬に続いて木兵衛に言った。
「イヤ、面目ねぇ(*^^*) でも、もう大丈夫ですぜ! この通り、元気ひゃくぱぁせんとでさぁ!!」
再び豪快に笑うと、 「じゃ、次の仕込みがあるんで(^o^)/」 と行ってしまった。
「 …… 何処が元気じゃねぇって?」
「ホンマ、 『元気ひゃくぱぁせんと』 やったな … 」
「200%でも、おかしくない勢いでしたね」
いつも通りの木兵衛のパワフルさに、呆気にとられた一同だった。
「どうしたんだろ、父ちゃん? ヒットポイント10くらいだったのに … 」
「一気にヒットポイント全回復だね。 何かアイテムでも使ったのかな?」
「ゲームじゃあるめぇし … 」
金太と知恵も、木兵衛が元気になったのは嬉しいが、元気具合の差の激しさに驚き、不思議がっていた。
「おんや、どうしたんだね?」
皆が立ちつくしていると百江がやってきた。
「あ、母ちゃん。 父ちゃん、どうしたの? 何か、一気に元気になっちゃったけど … ?」
「ああ、アレね。 元々何ともないんだよ」
「「「「「「「?????」」」」」」」
百江の言葉に、全員、頭上に?マークが飛びまくる。
「気分の問題なんだよ。 この間、外出した時に、椿を見たんだと。 そしたらぁ、見てた椿の花がポトリと落ちたモンだから、それに感化されてね」
「「「「「「「ええーっ?!」」」」」」
たった花一輪に感化されて元気をなくしていたというのか?!
「それで、元気なくしてたと?」
「そうなんだよぉ。 偶々見てた椿が落ちたモンだから、自分と椿を重ねちゃったみたいなんだよ。 そんで、 『自分はお迎えが近いのかも』 って思いこんじゃったんだよねぇ」
聞いてみれば、何とくだらない。 一同は、しばらく言葉が出なかった。
15秒程固まったあと、やっと回復したちずるが百江に聞いてみた。
「で、おばさん。 どうして木兵衛さんは、元気を取り戻したの?」
「ああ、簡単簡単。 チョットおだててやったんだよ。 所員の人や一般食堂のコック達に協力頼んでね。 あの人は、おだてると、すぐに乗るからね。 いつまでも沈んでちゃぁ、仕事にならないしさぁ」
「おだて … 」
皆、どっと体から力が抜けた。
特に本気で心配していた金太と知恵は、床になついてしまった。
「「父ちゃんのバカ〜(ToT)」」
「ホントに気分だけだったのね … 」
ちずるはこめかみを押さえている。
ため息をつきつつ、十三が皆を代表する様に言った。
「 “病は気から” て、ホンマやな … イヤ、今回の原因は椿の木やから “病は木から” かも知れんワ」
全員(含・百江)で、ウンウンと頷いた。
数日後、バトルチームの面々と金太と知恵は、無駄な心配をさせた腹いせとばかりに、嫌がる木兵衛に精密検査を強制的に受けさせるのだった(笑)
* 忍の言い訳 *
やっぱり、何でも気分でしょう。
気分一つで、本物の病気も回復するんですから。
だから、 “〜テラピー” ってのがあるんですよね。
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