IMPLICATIONS THE ALPINE's IMPRINT (MultiEQ)
CDA-9887Ji + KTX-100EQ インプリント機能の謎・・・
アルパイン製のヘッドユニットCDA-9887JiにはAudyssey社から技術提供を受けた「MultiEQ」機能を多少アレンジしたものを「IMPRINT」と称して搭載されている、Audyssey社のwebから得られる情報を要約すれば、このMultiEQ機能は複数の視聴箇所で測定したデーターを基に各視聴ポイントにおける評価の平均点がなるべく高くなるように補正を行うというものであり、その補正を施すのにDigital
DelayとFIRフィルターによる畳み込み演算を使用することで従来のパラメトリックEQやグラフィックEQを採用した製品では難しかった遅延や位相までを総合的に考慮した補正を行うことが可能になった点が特徴である。
ただ注意すべきはアルパインのカタログ等でアピールしているようにあたかも全てのリスニングポイントにおいて完璧な特性に補正がされるという魔法な技術な訳ではなく、高い次元における妥協点の補正セッテイングが半自動で簡単に得られるというのが現実であり、IMPRINT補正機能に対する過剰な期待は禁物なのである・・・
ALPINE CDA-9887JI + KTX-100EQにおけるインプリント機能設定の各行程について
- 【IMPRINT機能設定の準備】
- アルパイン社製のCDヘッドユニットCDA-9887Jiは別売のKTX+100EQとPCを使用することで車内の音響特性を自動で補正する機能を搭載している。 この作業を実施するには以下の機材をセットアップする必要がある。
- KTX-100EQ付属の測定用マイクロホン(堅固な三脚に固定して使用する)
- 専用アプリをインストールしたWindows-XPパソコン
- USB接続のKTX-100EQ本体(測定I/F)
- ヘッドユニットとKTX-100EQ本体を接続する付属ケーブル(ヘッドユニットの着脱式パネルを取り外して接続)
- 測定は可能な限り暗騒音の少ない場所でエンジン停止の状態で行う必要がある、一連の行程には20分〜30分ほどの時間が必要で、バッテリーが劣化している車なら充電しながら作業を実施するなどしてバッテリー上がりに十分注意を払いながら作業をしなくてはならない。 電車や自動車の交通量が多い場所では人間の耳では一見静かに感じていても、相当量の低周波域のノイズが残留していて測定結果に影響を与える可能性もある。 さらに空調もリサークル・モードに切り換えたうえで、エアコンや換気ファンなど一切の騒音を発するものは停止させるなどの配慮も必要であろう。
- 【測定行程】
- 測定のソフトを立ち上げると次のような画面になって、これから行う調整ターゲットを以下の中から選択する状態となる。
- フロント運転席側
- フロント助手席側
- フロント両席とも
- リア及びフロントの全席
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- 特定の1席を調整のターゲットに選んだ場合は、いわゆる「ピンポイント」的な調整が行われるようだが、複数の席を調整ターゲットに選んだ場合は、対象席全部を総合的に評価した妥協点に調整が行われると思って貰えばいいだろう。
- 測定は最初に接続されているスピーカーの有無と大小を判定する行程が終わるとマイクの位置を変えながら複数の測定ポイントで音響特性を測定することで、より正確に車内の伝達特性(要するにそのクルマの音におけるクセや傾向)を把握するようになっているようだ。 全部のポイントで測定を実施すると非常に時間が掛かるので途中に端折れるようにはなっているが、実際に試してみたところ最低でも2カ所は測定をしないと、かなりハズしたセッテイングとなってしまうケースが多かった。
- 以下に右ハンドル車運転席ターゲットでの測定場所の指示状況を掲載する。(5番目は右前シートの左前方を測定、画像キャプチャーもれ)
- 1箇所目測定中の画像
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- 2箇所目測定の画像
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- 3箇所目測定の画像
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- 4箇所目測定の画像
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- 6箇所目測定の画像
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- 【設定行程】
- 測定が完了するとフロント側の元特性とシミュレートされたプロセッサー出力時点の補正後の特性が画面に表示される。 この際に補正するカーブ(目標とする特性)を3種類から選べるが、この中から2つまでをヘッドユニットに記憶させることができる。
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- このとき、もし以前にインプリント設定したセッテイングが本体に記憶されていても消去されてしまう。 従って、例えばインプリント設定の1番は運転席スペシャル、2番はフロント両席ターゲットなんていう設定ができると非常に便利なのに、残念ながらこのような設定をすることは不可能であった。 以下に実際に表示された補正前の特性と各ターゲットカーブ別の補正後のシミュレート特性が表示されている画面を掲載する。
- REFERENCE:
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- (「リファレンス」というがフラットでもなんでもなくややドンシャリ傾向な印象の音で 何となく安っぽい気もする...)
- REFERENCE with MID Frequency Compensation:
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- (2kHz付近の一番耳に付きやすい帯域を意図的に?削った少々クセのある音)
- 当初何でこんな特性をターゲットにするのか理解に苦しんでいたのだが、海外の掲示板で見たMultiEQのターゲットカーブに対する質問へのAudyssey社からの回答メールにあった説明によれば、多くのホームオーディオのスピーカーで使われてるパッシブネットワークは2KHz付近にクロスオーバー周波数があり、Directivityの問題から軸外での特性にピークを生じる場合が多くこれを補正する為にこの帯域を削る特性になっているとの事らしい。 確かに殆どの民生用2wayスピーカーはL-Rアライメントではない為にクロス周波数での位相が合わないので-3dBポイントでクロスしないと正面軸上でのf特がフラットにならない、しかし軸外(上下に配置の場合斜め上または下方向)にウーハーとツイターの位相が一致するポイントがあるのでこの位置では両者から放射される音圧が打ち消すことなしに無駄なく合成されるため+3dBのピークが生じてしまう、もしこれが反射してリスナーに届けば確かにピークとして認識されるであろう事も理論としては頷ける、しかしこれはホームで響きの多い部屋で起こりがちな話であって、カーオーディオの場合スピーカー(ウーハーとツイター)間の位相もリスナーからの距離も無頓着にインストールされる場合が多く、残響成分もほとんど初期反射音のみしか聞こえない環境ということもあってMultiEQ本来の理論とは別の意味で
単に「セパレート2wayのSPだと、この辺りの帯域のレスポンスが耳につく事が多いからちょいとばかし削ってみた」という程度がこのターゲットカーブとして設定された現実なのかもしれない…
、個人的な印象としてKTX-100EQのReference系のターゲットカーブはリスナーとスピーカーの距離の割に高域端のロールオフ量が多すぎると感じる、たぶんホーム用の設定データからクルマ特有の特性とパラメーターの意味を十分理解できてない担当がコピペに近い方法で作ったんじゃないのかと想像している。
- LINEAR:
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- (やや低域側が厚く重厚ながら、そこから上では全帯域に渡って僅かにダラ下がり気味で地味ながらもスムースな周波数レスポンス)
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測定のノウハウや迷信?等
- 取り扱い説明書には非常に簡単にしかその方法を書いてなく、「プロショップに依頼しろ」と言わんばかりの不親切さ全開な訳だが、海外のネット掲示板を徘徊して得られたユーザーの感想や測定上のポイント、関連する情報などを順不同でメモっておきたい。
- (多分正しいと思われるもの)
- すくなくとも測定音の振動でビビらない程度にしっかりした三脚を使用すること
- 付属のマイクは無指向性に近いので測定時の向きはそれほどシビアではない。
- ヘッドレスト付近での測定マイクの高さはリスナーの耳穴に合わせるべき。
- (未確認なもの)
- 測定時にターゲット席のヘッドレストは、反射/吸収等の悪影響を避けるために外したほうが良いという声がある
- 付属のマイクの周波数特性はまぁまぁイケる程度ものらしい(WaveSpectra等で簡易的なRTAチェックをする程度なら十分に流用可能?)
- シート前端左右でのマイクの位置はリスナーが前傾したときの耳穴の高さに合わせるべきという意見と、ヘッドレスト側と同じ高さに統一すべきとの意見に分かれる。
- 敢えて画面で指示された場所ではなく、ほんの少しだけ運転席からその方向に寄せる程度で測定していったほうがより運転席スペシャルで良好な補正結果が得られるという声もあった。
- (何か勘違いじゃ?と思われるもの)
- まれに、どうやっても低域がスカスカになってしまいとんでもないセッテイングになってしまうという人が存在する。
- 内蔵のEQ設定がインプリント設定するときの測定結果に影響しているみたいだという人がいる。
要注意ポイント
インプリント機能が使用できる動作モード |
- フルレンジもしくはパッシブのネットワークを使用したフロントのみの2chシステム
- フルレンジもしくはパッシブのネットワークを使用したフロント&リアの4chシステム
- 上記にサブウーハー2発を加えたもの、もしくは1発の2.1chもしくは4.1chシステム
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インプリント機能が使用できない動作モード |
- 内蔵チャンネル・デバイダー機能を使用する3wayモードで構築したシステム(フロント側出力にしか補正が実施されないため)
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測定結果の解析について
- KTX-100EQに付属するソフトはセッテイング情報のインポートやエクスポートができないが、実はインプリントの測定を行いヘッドユニットにセッテイングを転送した後のPCには設定関連の情報が以下のディレクトリに残っている
- Program Files\ALPINE IMPRINT Sound Manager\Customer Results\
このフォルダー内の拡張子が「.acb」というファイルの拡張子を「.rar」に変えて解凍すると幾つかのファイルができる、これらの中身を解析すればどのような判定がなされ、いかなるパラメーターが設定されたのかが判りそうだ、とりあえず一番読み易そうな「calibResults.xml」の中身を解読することから始めているが、3wayモードではリア側出力には補正がされないということが判ってきたり、SPユニットがスモールかラージの何れと判定されたかを調べたり、各ユニットに設定されたディレイ値が判ったりした程度である。 もっと詳細まで解析できたり、情報をお持ちであればぜひ当方まで情報をお寄せ頂きたい。
インプリント実施後の印象
- 【音色について】
- 特定の1席を調整ターゲットに選んだ場合には、左右スピーカーの中間にセンター定位の音像が正確に定位するようになるのだが、僅かにでも前後左右に頭を振ると大きく特性が変化し音が全く変わってしまうのが如実に判る状態となった。 確かに平坦な特性に近づいていたのは認めるが、音色的には何かを失ってしまったのが判る
〜 例えれば出っ張りをうち消して消してるような 〜 少々痩せた音色であり聴き疲れしやすく音楽的にも楽しさを感じないものであった。つまりリスニングポイントのある一点でのみ成り立つ虚像ともいうべき特定点だけが良好な測定値となるような補正が行われ、それ以外の場所における音はむしろピンポイント補正のための悪影響だけが目立つ結果となる。 車内を反射して聞こえる音を注意して聴くと明らかに補正のために「逆特性のクセ」が付加されたのが判るので、これが違和感を強く感じる原因だと思われる。
- 一方フロントの2席を調整ターゲットに選んだ場合には音像の定位こそかなり曖昧になるものの、頭の位置を多少振っても急激な音色変化は感じにくくなり、特定の1席をターゲットにした時よりも響きが豊に感じられるようになり音色そのものの傾向までガラリと違ってきたのには少々驚ろいたが、いわゆる「ルームアコースチックの補正」を重視した設定になるようだ。 何れのターゲットを選んでも調整後はフロント左右のウーハーの位相が完璧に合うので低音が左右で打ち消したり広がったりする感じは完全に無くなった、また常にフロントの低域端の再生限界を伸ばすようなイコライジングが僅かではあるがされているようにも感じた。
- 【音像定位について】
- 運転席のみをターゲットにインプリントによる調整を実施した場合、センターに録音してある音像は左右のスピーカーを結んだ線上の中点、つまり車体の中央にあるセンターコンソール辺りにピンポイントで定位する。 従って右ハンドル車の場合ならやや左下にセンターに録音された音が定位することになる。 これは通常のタイムアライメントを使った設定によくあるステアリングを中心としたセンター定位ではないので勘違いされないように留意されたし。 このため音量バランスを右寄りにしてステアリング側に定位を引き寄せようと努力したとしても、そこから右と左では広がれる角度の限界が左右で全然違う為にかなりアンバランスな音場の広がり感となってしまう。 よって私の結論として、このIMPRINTの場合はあくまでも「普通のホームのステレオを斜めから聴いてるような感じ」の延長線上でのセッティングを目指す方が自然ということに落ち着いた。
- 【結論】
- フロントの2席を調整ターゲットに選んだ場合には明確な音像定位のセンターというものは感じられず、右端寄りの音や左端寄りの音とその他大勢(笑)のその間にある音という程度の定位感しか期待できないが、反射音と直接音の音色差が目立たないので音色的に特定席ターゲットのときよりは好ましく、運転席限定ターゲット設定のときよりも聴いてて疲れない傾向の音となった、全然Hi-Fi指向な音ではないのだがリスナーが頭の位置や姿勢に神経質にならずに済むので多人数乗車時に音楽を聴くときの事を考えると、IMPRINT機能はこの方向性で活用するのがより実用的であり有用であるように思えた。
(参考リンク)
更新日 2008.Dec.23