社会教育レポート〜よりよい教育を考えるための発表を通じて〜

 

 

今回、よりよい教育システムを考えるための発表を通して改めて感じたことは、価値観の相対性だった。これまで私は当然のように、発展途上国を除く多くの先進国では、受験戦争や中高における制服の存在などの多少の違いを除いては、どの国でもほとんど日本と同じような教育が行われているものと考えていた。しかし実際はまったく違っていた。今回の発表で調べたのは、ドイツ・アメリカ・イギリス・スウェーデン及びノルウェーの5カ国についてだけだったが、これらの国だけを見ても、実に多様な形の教育制度が存在していた。

たとえばドイツでは、日本のような単純な6・3・3(・4)制は使われていない。中学入学の段階から、職業学校への進学のコース・高校を経て専門学校へ進学するコース・大学への進学のコース・職業学校を経て上級学校に進学するコースなど、自分の進みたい道に合わせて、様々な組み合わせの進路が用意されている。充実した職業教育機関の存在、さらには中学卒業後すぐに就職した者には三年間定時制職業学校への進学が義務付けられるマイスター制度などにより、徹底した職業教育が行われている。そのため、大学進学を希望する者は、「本当に勉強がしたい」という者だけなのである。一方日本を見てみれば、職業教育のための機関は専門学校などがある程度存在はするが、あくまで傍流であり、本流は高校・大学進学である。その大学も、専門的な能力・知識を身に付けるものではなく、「このレベルの大学を卒業する学力を持っている」ということを示すだけのステイタス・シンボルになってしまっていることが多い。それが「大学に入っても何を勉強したらいいか分からない」「卒業してもどんな仕事をしたらいいのか分からない」という大学生を増やしているのだろう。

もちろん各国の社会情勢・法制度・政治・歴史などを無視して、「この国この制度を日本にも取り入れよう」などと安易に言うことはできない。しかし日本の教育改革が、内側にだけ目を向けて思考され、執り行われているのなら、それは間違っている。もっと広い視野で周囲の世界に目を向けてからこそ、「本当によい教育制度とは何か」を考えていくべきだろう。「改革」とは常に、内部から始まるではなく、外部から巨大な風穴を開け、新風を送りこむことによって始まるものだと思う。

 

と、ここまでが、今回の発表のために資料を調べる中で私の抱いた感想である。次に発表を通じて感じたことをいくつか記しておきたい。

まず一つ目の反省点は、聞き手の意見参加を促すような発表に出来なかったことである。(原因は単純に準備期間が短かったことにあるが、もちろん言い訳にはならない。)留学生に本国と日本との学校の比較から意見を聞いて生の声を発表したり、海外の学校制度の体系を分かりやすく図にしたものや実際の学校の様子をスライドで映すなどのヴィジュアル面でアピールするなど、もっと聞き手の関心をひきつける内容に仕上げられなかったことが残念である。

二つ目の反省点は、テーマの提示の仕方が失敗だったことだ。「日本の教育制度は駄目だという前提はおかしい」という指摘はもっともである。「海外にも、日本とは違った素晴らしい教育制度がある」ということを強調することに重点を置きすぎた結果だが、もちろん日本の教育制度にも素晴らしい面はあるわけで、それは否定するべきではなかった。また日本の教育における問題点をあらかじめこちらで規定してしまったことや、調査した五ヶ国の中から日本に必要と思われる教育制度を選んでもらうという形をとったことも、聞き手の自由な意見が出るのを妨げてしまったように思われる。

全体を総括すると、やはり教育制度の良し悪しには、社会・税制度・経済状況などの様々な要素が絡んでくるので、一口には言えないということである。もう少し違った視点からテーマを設定するか、あるいは、テーマをより限定した内容にすればよかったのかもしれない。それでも、教育制度に関して若干の新しい視点を得ることはできたと思う。それがこの発表における最大にして唯一の収穫だったと思う。

 

※実際の発表は、3人の班編成で、日本・ドイツ・アメリカ・イギリス・スウェーデン・ノルウェーの6カ国の教育制度を二人が分担して紹介し、もう一人が内容を総括して、聞き手に日本にもっとも必要とされる教育制度がどの国のものか意見を求める形で、行われた。