映画・演劇鑑賞記録2006
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12月31日(日)
気がつけば今年も残り僅か。今年も色々やろうとして、結局何一つ出来ずに終わってしまった気がします。とりあえず今年鑑賞した中で個人的に面白かったものは、映画では『疾走』、『ホテル・ルワンダ』、『リバティーン』、『デスノート
the last name』、『硫黄島からの手紙』。俳優としてのジョニー・デップの力量、監督としてクリント・イーストウッドの力量に感服しました。演劇で面白かったのはコクーン歌舞伎『東海道四谷怪談』、流山児事務所『無頼漢』、劇団本谷有希子『遭難、』、歌舞劇『田園に死す』、『タンゴ・冬の終わりに』といったところです。本谷有希子さんの作家としての活躍には目を見張るものがありますね。蜷川幸雄さんも古希の昨年に引き続き、今年も力のある仕事をたくさん見せてくれました。
12月23日(土)
『犬神家の一族』(監督 市川崑/原作 横溝正史)★
物凄くキャストの豪華な火曜サスペンス劇場、という感じだった。音楽も演技も演出も80年代的な古臭さというか安っぽさが漂う。
12月5日(火)
『清水邦夫と木冬社』展(会場 早稲田大学演劇博物館)☆☆☆
銀杏並木が美しい、秋の早稲田大学校舎へ。先日の「タンゴ・冬の終わりに」も鮮烈だった劇作家・清水邦夫の足跡をたどる企画展。過去の台本・パンフレット・ポスター・舞台写真などの資料が数多く展示されていた。演劇というものは、そのときその場所に居合わせなければ二度と体験できないものだ。それでも、こういった展示を見て想像力を働かせて、少しでも当時の伊吹を感じられたらと思う。
デス電所『夕景殺伐メロウ』(作・演出 竹内祐/会場 駅前劇場)☆☆☆☆
関西出身の元気な劇団。劇団鹿殺し同様、これからも頑張って欲しいと思います。当日リーフレットのイラストにも使用された「畜殺天使コロロちゃん」というネタが一番ウケた。「30分の放送時間のうち、最初の10分で「畜生を殺してやるゾナモシ」という決め台詞が出てきて、あとの20分間はひたすら動物を殺しまくる」アニメって、実際にそんなアニメがあったら、萌えか萎えか以前に速攻で放送禁止になるだろう。でもすげー観てみたいなあ。
野田地図『ロープ』(作・演出 野田秀樹/会場 シアターコクーン)☆☆☆
寺山修司の企画した市街劇の一つに「1メートル四方1時間国家」というのがある。まずどこかの街角で、ある往来の1メートル四方の範囲を選び、そこで劇を演じる。その中で演じられるのは全て虚構であり、通りすがる人々も「街頭劇」としてのパフォーマンスだととらえ、そこでどんな奇矯なことが行われたとしても、笑いながら眺める。時間とともに、その劇が演じられる範囲は、2メートル四方、10メートル四方という風に拡大していく。俳優は次第に、舗道の煉瓦を剥ぎ取ったり、たまたま止めてあった車を壊して火を放つといった過激な行動をとり始めるがりが、それは俳優にとってあくまでも劇の中で起こる「虚構」の出来事である。やがて時間とともに劇の判じられる範囲はどんどん拡大していき、日が暮れる頃には、街全体が劇の中に取り込まれてしまう。劇場で演じられる劇の中で舞台装置が破壊されたり、俳優が殺害されたりしたとしても、観客は歓声を送るだけで、誰も犯罪者として捕らえろとは言わない。街全体が劇の中に取り込まれてしまったとき、俳優の行為を観客は止めることができるのか?
野田秀樹がプロレスを題材に3年ぶり発表した新作が描いたのは、まさしくこのような世界だった。四方のロープに囲まれたリングの中では、どんなひどい暴力行為や血なまぐさいことが行われたとしても、観客はそれをあくまでもプロレスというエンターテイメントの中で行われる「虚構」として、歓声を送る。だがそのロープで囲まれた範囲が拡大し、世界全体を囲んでしまったとしても、人はその中で起こる暴力行為に対して歓声を送ることが出来るのか?虚構と現実の間で、次第に人間が感性を麻痺させていく姿を面白おかしく、恐ろしく描く。
藤原竜也、赤いタイツを履いてプロレスラーを熱演。やはり声がいい。宮沢りえ、可愛いけど声があまり出ていない。初日だったせいか、舞台も客席も少し空気が固い感じだった。
12月2日(土)
『007 カジノ・ロワイヤル』(監督 マーティン・キャンベル/原作 イアン・フレミング)★★★
若くふてぶてしく自信に満ちた新ボンドが、全く新しいドラマを魅せる。とにかくよく走る、走る、走る。肉体を駆使したアクションの連続が素晴らしい。
11月26日(日)
『エコール』(監督 ルシール・アザリロヴィック/原作 フランク・ヴェデキント「ミネハハ」)★★★★
外界から途絶された、6歳から12歳までの少女だけが暮らす森の中の寄宿舎。新たにやって来る少女は、棺桶の中に入れられて運ばれてくる。大塚英志氏が好んで評論しそうな、擬似的な死と再生を経た成長への通過儀礼の物語。作品の冒頭と結末の水中から水面に脱するイメージも、死と再生を思わせる。
毛皮族のアングラ経験劇場 コーヒー&シガレッツな軽演劇
演目D『OSOBA』(作・演出 江本純子/会場 リトルア地下)☆☆☆
11月24日(金)
『好色一代男』(監督 増村保造/原作 井原西鶴)★★★
「女こそがこの世で一番、女なしでは生きていけぬ」という主人公の主張は、増村監督の創作姿勢そのものが出ているようで面白い。日本各地の行く先々で色んな女と色恋沙汰に陥るのも、色んな女優と組んで色んな映画を撮ったことになぞらえることができるかもしれない。しかしこの「女は素晴らしいが弱い生き物→男が守って幸せにしたらなあかん」という女性崇拝主義は、裏返しの女性蔑視ともとれるので、賛否両論が分かれるところだと思う。
11月23日(木)
『復讐鬼-新日本暴行暗黒史-』(監督 若松孝二)★★★
古い因習の残るある寒村で、病気の血筋として村人から迫害されて、肩を寄せ合うように暮らしてきた兄妹。土地を奪おうとする村人達により、兄は半殺しにされ、妹は輪姦されたあげく自殺する。復讐を誓った兄は、村人を一人ずつ殺していく・・・・・・深い絶望と怒りに満たされた映画。劇中、兄の回想として何度も何度もインサートされる、輪姦される妹の「助けてぇ、お兄ちゃん!」という悲壮な叫び声が、耳に焼きついて離れない。集団の利益のために、弱者を踏みにじる社会をぶち殺すという若松監督の姿勢が色濃く出ている。
『略称 連続射殺魔』(監督 足立正生、他)★★
1968年から1969年にかけて連続ピストル射殺事件を起こした、当時19歳の永山則男。彼が見たであろう風景を半ドキュメンタリー的にたどる、映像とナレーションのみで構成された実験的な映画。タイトルクレジットもエンドクレジットもないという徹底ぶり。意欲的な試みではあるのだが、緩急のない作品なので、最後まで集中力を持続させるのがつらかった。
11月19日(日)
『タンゴ・冬の終わりに』(作 清水邦夫/演出 蜷川幸雄/会場 シアターコクーン)☆☆☆☆☆
昨年の「将門」に続く、脚本:清水邦夫×演出:蜷川幸雄×主演:堤真一のコンビによる作品。
劇団APB-Tokyo『田園に死す』(作 寺山修司/演出 高野美由紀+East10thStreet/会場 ザムザ阿佐ヶ谷)☆☆☆☆☆
寺山修司が監督した同名映画の舞台劇化。2003年にこの劇団が上演した『身毒丸』が、正直あまりにひどい出来だったので、しばらく遠ざかっていたのですが、今回は文句なしの傑作でした。基本的には映画のシナリオを忠実に再現しつつ、「映画」と「演劇」というメディアの違いをしっかりと認識して、要所要所で演劇らしい演出やシナリオをしているところが素晴らしかった。「ダメだダメだ、こんな芝居じゃ!」の罵声とともに、物語の虚構性がひっくり返される中盤シーンなどは鳥肌ものでした。劇中サーカス団の犬神サーカス団(同名バンドのことではない)の登場シーンも、嬉しくて笑いが止まらなかった。この猥雑なにぎやかさこそ、寺山さんが目指した「見世物」的な面白さだと思う。俳優陣では、マメ山田さんの面白さに脱帽。いろんな芝居でしょっちゅう見かけてはいたのですが、まさかこんなに芸達者な人だとは思っていませんでした。(この日の深夜帰宅する際、新宿駅でスーツケースを引いて歩いているマメ山田さんを見かけてかなり得した気分になりました。)あえて注文を付けるなら、「邪宗門」風の自己紹介によるラストシーンの後に改めて役者紹介するのはやめてほしいと思う。個人的には何だか白けてしまうし、二度手間じゃん時間の無駄じゃん、という感じがする。というか、「かもめ」の方に間に合わなくなりそうだったので、役者紹介の途中で退散しました。
Project Nyx 第1回公演『「かもめ」或いは寺山修司の少女論』(原作 寺山修司/構成・美術 宇野亜喜良/演出 金守珍/会場 シネマアートン下北沢)☆☆☆
阿佐ヶ谷から移動し、滑り込みセーフで開演に間に合いました。普段はミニシアターとして映画を上映しているシネマアートン下北沢での公演。開演時間も21時からと遅く、映画で言えばレイトショーですね。パンフによると、昨年アートンから発売された文:寺山修司、絵:下谷二助の絵本に広島かつらさんが感動したことにより、今回の舞台化が実現したとのこと。朗読と、映像と、歌と、簡単なお芝居でつづる、夜の、そして大人の演劇世界。演劇的な要素が色々盛り込まれているのですが、それがうまくいっている部分と空回りしている部分があるように感じました。人形遣いの操る人形で少女が運命に翻弄される様を表現したり、途中森田童子の「春爛漫」を歌ったりするのは作品のイメージに合っていたと思いますが、ラストで女優さんが突然ボンテージ姿になってロック(曲名不明)を熱唱し始めたのは、少し引いてしまいました。寺山がよく自分の作品で使った「物語の中断」を狙ったのかもしれませんが、あまりにも脈絡がなさ過ぎなきがしました。全体としては、「さあ、芝居を観るぞ」と気合を入れて観るのでは物足りないかもしれませんが、仕事帰りにジャズバーでグラス片手に一曲聞いていくような感じで、軽い気持ちで楽しめるいい作品だったと思います。実際どこかのバーで上演されたら面白いかもしれません。
11月17日(金)
『うつせみ』(監督 キム・ギドク)★★★★
予告編を観てもっとメロメロのメロドラマを想像していたら、ラストには度肝を抜かれました。やはりこの監督、ただ者じゃない。「私たちは永遠に寄り添う」というキャッチコピーの意味が明らかになるとき、人知を超えたハッピーエンドが待っている。
11月16日(木)
『疾走』(監督 SABU/原作 重松清)★★★★★
世界は残酷に満ちている。人間はすれ違い、憎しみあい、殺しあう。それでもあるとき、奇跡的に、誰かと解り合い、寄り添い合える一瞬が生まれることがある。その一瞬のために、人は自分の人生を走り続ける。「誰か一緒に生きてください」という短いキャッチコピーが、この作品の全てを表していると思う。
11月12日(土)
「24 シーズンX」鑑賞終了。「W」に匹敵する面白さでしたが、あのラストは続きが気になりすぎる!
11月8日(水)
劇団桟敷童子『海猫街』(作・演出 東憲司/会場 ベニサンピット)☆☆
絶望的な状況下で戦い、破れ、最後に一欠けらの希望を残して終わるのがいつもの桟敷童子の作品だと思うのだが、今回はラストに救いがない。そのせいかすっきりしない気分になってしまった。
新宿梁山泊『風のほこり』(作 唐十郎/演出 金守珍/会場 浅草木馬亭)☆☆☆☆
11月4日(日)
『デスノート the last name』(監督 金子修介/原作 大場つぐみ・小畑健)★★★★★
前編の松本ケンイチと戸田恵梨香の演技を見たときはどうなることかと思っていましたが、思っていたよりもずっといい出来でした。二人の存在感は、藤原竜也を食うほどです。レッド・ホット・チリペッパーズの歌で始まるオープニングもかっこよすぎる。映画オリジナルの展開も秀逸。ラストに出てくる美砂の能天気な明るさが、救いになっている。
10月21日(土)
『地下鉄(メトロ)に乗って』(原作 浅田次郎/監督 篠原哲雄)★★★
団塊世代の自己弁護をひたすら見せられているようで、楽しめなかった。
10月13日(金)
劇団本谷有希子『遭難、』(作・演出 本谷有希子/会場 青山円形劇場)☆☆☆☆
10月7日(土)
『歌舞劇 田園に死す』(原作 寺山修司「血の起源」より/台本・演出 栗田芳宏/会場 新国立劇場)☆☆☆☆☆
昨年上演された『血の起源』を発展させた歌舞劇。『田園に死す』というタイトルを使っているが、同名の歌集・映画との関連性は薄く、セリフは様々な寺山作品から引用されている。印象的なセリフは「私は自分に似合うお面を探し続けていた」(『邪宗門』)、「もう一度お前を妊娠してやりたい」(『身毒丸』)など。母親を演じる真っ赤なドレスの安寿ミラがとにかく美しく、バックコーラス&ダンサーのセーラー服の少女たちがとにかく可愛い。中国の雑技団が、劇中のサーカス団として登場し、幻想的な雰囲気を出すことに貢献している。
オリガト・プラスティコ『漂う電球』(作 ウディ・アレン/演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ/会場 本多劇場)☆☆☆
9月29日(金)
『江戸川乱歩全集 恐怖!奇形人間』(原作 江戸川乱歩/監督 石井輝男)★★★★
土方巽出演の伝説のカルト映画。ようやく観ることができました。奇形王国というより暗黒舞踏王国だな、こりゃ。波飛沫をバックに岸壁で踊る土方巽の姿は圧巻。「江戸川乱歩全集」のタイトル通り、様々な乱歩作品の要素が詰め込まれているのだが、物語の後半に突如登場する明智探偵の謎解きの中で一気に「黒蜥蜴」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」の要素が使われるは、少し詰め込みすぎの気がする。ラストの花火のシーンがあまりにも陳腐すぎて少し萎えました。
『弓』(監督 キム・ギドク)★★★★
『ダリ回顧展』(会場 上野の森美術館)☆☆☆
『東京エロ可愛フェティシズム 渋谷少女篇』(会場 渋谷青い部屋)☆☆☆☆☆
出演はぽらぽら、エンビー、アヴァンギャルド、ゾンビロリータ、母檸檬の順。
9月2日(土)
『ヨコハマメリー』(監督 中村高寛)☆☆☆☆
かつて横浜の名物だった、白塗りの元娼婦の老婆を巡る物語。劇中でも触れられていたが、「港の女・横浜ローザ」というタイトルで彼女の半生を題材にしたお芝居も作られており、私も以前TVで放映されたのを観たことがあります。中島らもの『白いメリーさん』という小説も、彼女から想を得たものではないでしょうか。
8月20日(日)
『マッチポイント』(監督 ウディ・アレン)★★★★
舞台をニューヨークからロンドンに移した、ウディ・アレン最新作。とにかくスカーレット・ヨハンソンがいい。クリスティーナ・リッチがヒロインの『僕のニューヨークライフ』と比べて、女優が美人だと格段に作品の出来が違うのというのが、この監督らしい。ストーリー展開は『重罪と軽罪』に似ている。
少年王者館『T KILL(イキル)』(作・演出 天野天街/会場 下北沢スズナリ)☆☆☆
劇団鹿殺し・路上ライブ(会場 吉祥寺駅サンロード前)
8月6日(日)
『ハチミツとクローバー』(監督 高田雅博/原作 羽海野チカ)★★★★
BATIK『SHOKU』(構成・演出・振付 黒田育世/会場 横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール)☆☆☆☆
五体倒置を想い起こさせる激しいダンス。圧倒されました。
8月5日(土)
大駱駝艦・天賦典式『虫に聞け』(振鋳・演出 麿赤児/会場 白馬村ウイング21)☆☆☆☆
毎年恒例の白馬村公演。今年で3度目の観劇。今回もてっきり野外公演だと思っていたのに、会場に行ってみたら体育館のような屋外での公演でがっかりした。ド迫力金粉ショーは相変わらずだったが、やっぱり野外で観るのとは全然迫力が違った。来年からはまたぜひ野外公演にもどしてほしいものだ。
7月22日(土)
毛皮族『脳みそぐちゃぐちゃ人間』(作・演出 江本純子/会場 本多劇場)☆☆☆☆
相変わらず筋はあってないような、エロテロ過激歌劇ショー。革命の恋愛戯曲。つまりはラブ&ピース、「愛は地球を救う」って奴です。「幻の美女」役で特別出演の横町恵子さんはやはり存在感も美しさも別格。この人一体いくつなんだろう。
7月17日(月)
reset-N『パンセ2006』(作・演出 夏井孝裕/会場 下北沢スズナリ)☆☆☆☆
以前から気にはなっていたのだが、なかなか観る機会がなかった劇団。主宰者の留学による活動休止を前に、ようやく観劇。
劇団羊のしっぽ『寺山修司という世界』(原作 寺山修司/台本構成・演出 森島朋美/会場 神楽坂シアターIWATO)★★
主宰の森島氏が20年に渡って暖めてきた寺山修司への想いを結集したと言う作品。全編が寺山作品のコラージュで、題材となっているのは、「青森県のせむし男」「毛皮のマリー」「邪宗門」「身毒丸」「阿呆船」「盲人書簡」「田園に死す」「書を捨てよ町へ出よう」など。寺山修司への思い入れは存分に感じられるのだが、それがかっちりかみ合っている部分と、空回りしてしまっている部分があったように思う。全体を貫くテーマや一貫性のようなものが感じられず、本当にただただ並列的にシーンが続いていくので、だんだんと集中力が持続できなくなってしまう。結果として上演時間は2時間15分くらいあるのだが、1時間半くらいにもっとまとめた方が良かったのでなかろうか。私自身寺山ファンなので、「あれもこれも詰め込みたい」という気持ちも痛いほどよくわかるのだが。俳優の演技や役柄が観ていて辛くなってしまう部分もあった。そういう部分も含めての1000円という低価格の料金設定なのかもしれない。と、否定的な部分ばかりを書いてしまったが、素晴らしい部分ももちろんあった。三上寛さんが映画「田園に死す」と同じ役どころで出て来て客席を野次り、「カラス」を熱唱するシーンは感動ものだし、俳優がマスゲームのように舞台上を動きながら「カム・ダウン・モーゼ」を合唱するシーンも印象的。何より驚いたのは、客電が点いて主催者が走りこんできて「ある言葉」を言うシーン。寺山演劇に慣れている私も一瞬本気で驚いたが、いっそのこともしあそこで「すいません、ここで芝居は終了します。皆さん早く逃げてください」とか言って劇終だったらすごかったのにと思う。
7月16日(日)
流山児事務所『無頼漢〜BURAIKAN〜』(原作 寺山修司/演出 流山児祥/会場 ベニサンピット)☆☆☆☆☆
「おもしろきこともなき世をおもしろく」という高杉晋作の辞世の句が似合うような傑作。過去とも未来ともわからないある時代、アジアの片隅の「オエド」という街。水野忠邦の行政改革の下、「二ノ宮金二郎政策」「ニート撲滅法」などが次々と定められ、アングラ芝居、ストリップ劇場、花火などの娯楽は風紀を乱すものとして取り壊されていく。犯罪長屋に集まったごくつぶしたちは、つまらない世の中を面白くするためにお祭り一揆を巻き起こす。悪人顔の水野忠邦が美容整形を受けて男前になった途端民衆の人気が上がり、思うままに改革を進めていく様の描き方はかなりあからさまな小泉批判になっている。革命が起こるのが貧困や飢餓のためではなく「世の中がつまらないから」という理由であるところが、非常に演劇的というか寺山的で面白い。
富士山アネット『ROMEO.』(作・演出・振付 長谷川寧/会場 新宿シアターブラッツ)☆☆
「登場人物の一人だと言ってマネキンを舞台上に載せる劇団」という話を聞いて面白そうだと思い観劇したのだが、マネキンは出てこなかった。
7月15日(土)
『いつかA列車に乗って』(監督 荒木とよひさ)★★
内田吐夢監督の『たそがれ酒場』という映画のリメイク版とか。ジャズバーを舞台にした人間模様。ジャズ好きでない人間にはちょっと鼻につくかもしれない。この映画での栗山千明は珍しく普通の女の子だった。
7月9日(日)
『ローズ・イン・タイドランド』(監督 テリー・ギリアム)★★★
ギリアムの変質者魂がこもった一作。
7月8日(土)
『あわれ彼女は娼婦』(作 ジョン・フォード/演出 蜷川幸雄/会場 シアターコクーン)☆☆
三上博史が裸で深津絵里に抱きついてるポスターが衝撃的だったのだが、実はこれ、かつてローリングストーン誌の表紙を飾ったジョン・レノンがオノ・ヨーコに裸で抱きついてる写真のパロディなのだそうだ。全然知らなかった。物語は中世のイギリス、血の繋がった肉親でありながら、恋に落ちてしまった兄と妹の物語。『籠釣瓶花街酔醒』の「花の吉原百人斬り」のような、恋に取り憑かれた挙句のクライマックスの大殺戮劇が圧巻。三上博史はこうでないと。
七月大歌舞伎『天守物語』(作 泉鏡花/演出 戌井市郎・坂東玉三郎/会場 歌舞伎座)☆☆☆
幕見席の中でもさらに一番後ろの席だったせいか、台詞が上手く聞き取れなかった。城の天守閣に棲む妖怪・魔性の女たちの物語。玉三郎の美しさを堪能。
7月2日(日)
『キャリー』(監督 ブライアン・デ・パルマ)★★★★
感動しました。今まで観ていなかったことを後悔。感動しました。
6月24日(土)
『デスノート』(監督 金子修介/原作 大場つぐみ・小畑健)★★
原作の荘厳なある意味神話的ともいえる魅力は出し切れていないような気がした。予告編からもっと大作感のある映画を期待していたのだが、普通の予算で作った感じの普通の日本映画。エキストラも含め、俳優の演技がひどい。それほど原作のキャラに容貌が似ていない藤原竜也と映画オリジナルキャラを演じる香椎由宇の演技が素晴らしかったのに対し、松山ケンイチ・細川茂樹・戸田恵梨香といった俳優は、原作のキャラに容貌はそっくりなのに演技が冴えないので、コスプレにしか見えないんだよなあ。藤原竜也演じる月(ライト)は、原作よりも情緒的だと思っていたら、最後の最後で凶悪さを見せてくれた。後編はもっともっと凶悪にして欲しい。
6月21日(水)
『間宮兄弟』(監督 森田芳光/原作 江國香織)★★
予告編から「電車男」のようなもてない兄弟に恋人ができるまでの話だと想像していたら、さえない兄弟と美人姉妹の友情の話だった。母親役の中島みゆきもほんにゃらといい味を出してました。
『雨に唄えば』(監督 スタンリー・ジョーネン)★★★
もうずっと長いこと「時計仕掛けのオレンジ」の方の「singing
in the rain」しか観たことがなかったのだが、ようやく元ネタを鑑賞。無声映画がトーキー映画に変わる時代のバックステージもの。なかなか楽しく見れました。昔はミュージカルなんて大嫌いだったのになあ。
6月18日(日)
『壁の中の秘事』(監督 若松孝二)★★
勉強部屋に閉じこもって受験勉強をしていた高校・中学時代のことを思い出した。確かにときどき気が狂いそうになることはあったよなあ。
6月17日(土)
『ヴァージニア・ウルフなんてこわくない?』(作 エドワード・オルビー/演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ/会場 シアターコクーン)☆☆☆
大竹しのぶ・段田安則演じる老夫婦と、ともさかりえ・稲垣吾郎演じる若夫婦の強烈な罵りあいのドラマ。
唐組『紙芝居の絵の町で』(作・演出 唐十郎/会場 新宿花園神社)☆☆☆
6月16日(金)
4000ヒット達成しました。まあ、地道にがんばります。
6月11日(日)
『スクラップ・ヘブン』(監督 李相日)★★★
これはいい栗山千明ですね。クールでキュート。監督、ちゃんとわかってらっしゃる。何かに似てると思ったら、このプロットってまんま「ファイトクラブ」じゃん。
5月27日(土)
『白夜の女騎士(ワルキューレ)』(作 野田秀樹/演出 蜷川幸雄/会場 シアターコクーン)☆☆☆☆
ワーグナーの「ニーベルンゲンの指輪」を下敷きに野田秀樹が執筆した、ストーヘンジ3部作の第1弾。「パンドラの鐘」の以来となる蜷川による野田作品の演出
室井亜砂二と女犬の作家展『女犬幻想』(会場 ヴァニラ画廊)☆☆
清水真理さんの人形が展示されているというので行ってきました。「女性を犬のように扱う」さまを描いた作品の展覧会。目当ての清水真理さんの人形は、普通の少女人形に犬耳と首輪をつけただけでした。手抜きだなあ。でも可愛いから良し。
『粟津潔 デザイン曼荼羅』(会場 印刷博物館P&Pギャラリー)☆☆☆
天井桟敷のポスターを描き、寺山修司の著作の表紙も何枚も手がけている粟津さんの展覧会。
劇団桟敷童子『ぱぴよん/ぬらりひょん』(作 サジキドウジ/演出 原口健太郎/会場 西新宿成子坂劇場)☆☆☆
若手中心の短編二本立て公演。1本目は「ぱぴよん」。夫を亡くし四畳半の部屋に引きこもる女性。母親はスティーブ・マックィーン主演の脱獄映画「パピヨン」を引き合いしに出し、彼女を部屋から連れ出そうとする。2本目は「ぬらりひょん」。向日葵の咲き誇る田舎町に住む少年の話。
5月22日(月)
『リバティーン』(監督 ローレンス・ダンモア)★★★★★
中世のフランスの放蕩詩人。気に入った相手なら男とでも女とでもヤり、酒を手離さず、淫猥な詩を創作する。だがそんな自由気ままに生きる姿も実は見せ掛けのもので、真の快楽は舞台の上にしか存在しないと考えている。このあたり、芝居好きの人間にはたまらない映画だと思います。
5月21日(日)
『夢二』(監督 鈴木清順)★★★
日本史に残る女たらしの一人、少女絵師竹久夢二をジュリーが演じる。数年前にマリアの心臓で観た「夢二人形」よりはるかに面白かった。
5月20日(土)
『南京の基督』(原作 芥川龍之介/監督 トニー・オウ)★★★★
富田靖子演じる少女娼婦金花が可憐で儚く、美しい。支那人形
5月19日(金)
『ニューワールド』(監督 テレンス・マリック)★★★
生の歓びを謳い上げる前半の映像美は圧巻。新世界アメリカに渡ってきた探検家ジョン・スミス大尉と、ネイティブアメリカンの娘ポカホンタスは恋に落ちる。言葉の通じない二人は、大自然の中で互いの身振りで「それは風(wind)だ」「それは空(sky)だ」と少しずつ互いの言語を学び取っていく。その二人が「愛(love)」という言葉の意味を伝えようとして行きづまる。
5月13日(土)
『Vフォー・ヴェンデッタ』(監督 ジェイムス・マクティーク)★★
ナタリー・ポートマンが好きで観に行ったのですが、これはシナリオがひどいですね。原作者が起こるのも無理はないと思う。近未来の圧政下のイギリス。政府を転覆しようと仮面のテロリストが暗躍するわけだが、彼の行動原理が「より良い社会を創るため」ではなく「復讐のため」であるので、感情移入が出来ない。
5月4日(木)
劇団、本谷有希子(アウェー)『密室彼女』(原案 乙一/脚本・演出 本谷有希子/会場 スズナリ)☆☆☆☆
「あれ、吉本菜穂子さんてこんなに若くてきれいだったっけ?」というのが、失礼かもしれないが最初の印象。「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」と「無理矢理」の主婦役ものすごく印象的で、もっとおばさんぽいイメージだったのだが、あれ、すごく可愛いじゃないですか。
劇団唐ゼミ『お化け煙突物語』(作・監修 唐十郎/演出 中野敦之/会場 新東京タワー建設予定地特設テント)☆☆☆☆
以前から観たい観たいと思っていたからゼミの公演。昨年の新宿サニーサイドシアターと新国劇での公演を当日券で観ようとして、満員御礼で挫折した苦い経験から幾ヶ月。ようやく観ることができました。ずいぶんと辺鄙なところにある会場でしたたが、苦労して観にいっただけの価値はあった。特権的肉体とまではいかないまでも、俳優たちの熱気・存在感がとにかくすごい。
5月3日(水)
劇団鹿殺し『SALOMEEEEEEE!』(脚本 丸尾丸一郎/演出 菜月チョビ/会場 タイニイアリス)☆☆☆☆
オスカー・ワイルドの冷徹で残酷な物語を、血の通ったラブストーリーとして翻案した手腕にまずは拍手。「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」からの引用か、はたまた原典のプラトンの「饗宴」からの引用か、失った半身を求める月の子の「片割れ探し」の伝説が印象的に使われる。王の娘サロメと、預言者ヨカマン。原作では互いの感情はまったく触れ合うことなく悲劇へと向かうのだが、この舞台版では互いに惹かれ合いながらも、自らの立場ゆえに結ばれない。
『天使の恍惚』(監督 若松孝二)★★★
爆弾テロを計画する過激派の内部抗争。米軍からの爆弾奪取の家庭で両目を失明した男。
『胎児が密猟するとき』(監督 若松孝二)★★★
気に入った女をアパートの一室に監禁し、自分のペットにしようとする男。映画「コレクター」と同じ筋立てだが、違うのは「コレクター」の主人公が手に入れようとしたのは蝶であるのに対して、この映画の男が求めたのは犬であったこと。籠の中の蝶はただ死んでいくだけだが、檻の中の犬はときに飼い主の手を噛むこともある。調教はじゅうぶんに終わり、女が自分に従属する存在になったと考えた男が女の戒めを解いた瞬間、男は女に惨殺される。
5月1日(月)
『荒野のダッチワイフ』(監督 大和屋笠)★
作品の構成が押井守の「紅い眼鏡」とそっくりなのですが、おそらくこちらの方が元ネタなのでしょう。
4月30日(日)
『犯された白衣』(監督 若松孝二)★★★
美少年だった若き日の唐十郎が、白衣の天使の看護婦たちを撃ち殺しまくる。
『処女ゲバゲバ』(監督 若松孝二)★★★★
「荒野を密室に見立てた」というシナリオと演出が素晴らしい。
『われに撃つ用意あり』(監督 若松孝二)★★
かつて国家と戦った全共闘世代の男たち。ヤクザと警察、双方から追われる少女のために、再び銃をもって立ち上がる。警官を撃って少女を逃がした後、新宿騒乱事件のニュース映像が流れて終わるのがいかにもこの監督らしい。
『十三人連続暴行魔』(監督:若松孝二)★
銃を持ったデブが13人の女を犯し、その後で殺す。被害者の中に婦警がいて、犯された後監禁され、さらに何度も犯された後で殺されるのだが、要するにこれがやりたかったのでしょう。13人目として襲ったのは盲目の少女で、ほんの少し心が触れ合った後、その少女だけは殺さずに逃がす。
4月29日(土)
『新宿泥棒日記』(監督 大島渚)★★★
題名はジャン・ジュネの『泥棒日記』から。紀伊国屋書店の社長や唐十郎率いる状況劇場が実名で登場したりする半ドキュメンタリー映画。モノクロ、パートカラー。
『行け行け二度目の処女』(監督 若松孝二)★★★★
ビルの屋上でフーテンに輪姦される少女と、その様子を覗いていた少年。事が終わって呆然とする少女に、少年は話し掛ける。少しずつ触れ合う心。少年もまた、かつて数人の年上の男女におもちゃにされた経験があった。そして自分をおもちゃにした連中を殺したときと同じように、少女を輪姦した連中を嬲り殺しにする。
4月26日(水)
演劇実験室万有引力『草迷宮』(原作 泉鏡花/台本 寺山修司/演出 J.A.シーザー/会場 こまばエミナース)☆☆☆
母の手毬唄の歌詞を捜し求めて旅する少年。ある夜、妖怪屋敷へと迷い込み、球体地獄の幻想を見る。基本的には寺山修司監督版の『草迷宮』を下敷きに、消えた手毬の謎を追う芸人三人組の話などが加えられている。母子愛の情念の部分は薄められ、見世物劇・音楽劇としての部分が強められている。といっても「身毒丸」ほどのおどろおどろしさはなく、あっさりしすぎていて少し物足りない。これなら「身毒丸」か「怪人フーマンチュー」の再演をやってくれたほうが嬉しい。そもそも以前は万有引力の舞台はシーザーの音楽が聞けるだけで満足という感じだったのが、私が以前ほどシーザーの音楽に魅力を感じなくなっているのかもしれない。使用されている楽曲は映画で使用されたもののアレンジが中心だった。ちなみにドラムだけ舞台上でシーザーが生演奏しているのだが、ドラムだけやってもあまり効果がないような気がする。
4月24日(月)
『女囚さそり701号』(監督 伊藤俊也)★★
4月23日(日)
『タイタス・アンドロニカス』(作 W.シェイクスピア/演出 蜷川幸雄/会場 さいたま芸術劇場)☆☆☆☆
真っ白な舞台に、血の赤が映える。俳優の中で突出して印象に残ったのは真中瞳の演技。輪姦されたあげく両手と舌を切り落とされ、森の中を彷徨う凄惨にして美しいシーンの絶望に満ちた表情。そして自分を傷つけた男たちが嬲り殺しにされるシーンで見せる狂気と狂喜に満ちた表情にぞくぞくした。
夕沈ダンス公演『アジサイ光線』(構成・演出 天野天街/会場 池袋シアターグリーン)☆☆☆☆
4月12日(水)
コクーン歌舞伎『東海道四谷怪談』(作 四世鶴屋南北/演出 串田和美/会場 シアターコクーン)☆☆☆☆☆
お化け屋敷のような驚きの仕掛け満載でサービス満点。
4月2日(日)
『アマデウス』(監督 ミア・フォアマン)★★★★
「全ての凡庸なる者たちよ、お前たちの罪を許そう」という朝日新聞の論評に引用されていた台詞が記になって鑑賞。心に染みました。私もまた凡庸なる者たちの一人。
3月18日(土)
『イリナ・イオネスコ ロマンチカ写真展』(会場 アートスペース美蕾樹)☆☆☆
演劇集団池の下『狂人教育』(作 寺山修司/演出 長野和文/会場 タイニイ・アリス)☆☆
いつもどおり、開演前から舞台上に役者がいる。白いドレスを着た三人の美しい少女と背中合わせに、少女につながれた操り糸を持った三人の黒子が座っている。黒子が糸を引くのに合わせて、少女たちは自動人形のようにお辞儀をしたり、辺りを見回したりする。女優さんたちのかわいさに惚れ惚れ。これだけでも満足だとか思っていたら、実際この幕前のシーン以上にいいシーンは出てこなかった。人形遣いと人形の支配・被支配、そして孤立を恐れる人間の個性の画一化の物語。今年は6月にAPB-Tokyo、10月に流山児事務所にも上演される予定で、計3回上演されることになる。
チェルフィッチュ『目的地』(作・演出 岡田利規/会場 Super
Deluxe)☆☆☆
MODE『唐版 俳優修行』(作 唐十郎/演出 松本修/会場 中野光座)☆☆☆
3月11日(土)
『風と共に去りぬ』(監督 ビクター・フレミング)★★★
TVでやるたびに冒頭の30分だけ見て後を見逃していたのだが、ようやく最後まで通して鑑賞。何つー自分勝手ではた迷惑な女だ。
3月7日(火)
『機動戦士ZガンダムV 星の鼓動は愛』(監督 富野由悠季)★★★★
単なる総集編にしか見えなかった2作目に対して、3作目は文句なしの傑作。カミーユ、シャア、レコア、シロッコ、ハマーンと出揃った役者が、終局に向かってひた走る。
3月5日(日)
『ホテル・ルワンダ』(監督 テリー・ジョージ)★★★★★
1994年のルワンダで、民族間の争いから100万の人間が虐殺された。そのときたった一人で避難民を救おうとしたホテルマンの実話を元にした映画。軽軽しく「感動した」とか「いい映画だった」と口にすることがはばかれるような重さを持った映画。物語の構造は二次大戦中にユダヤ人を収容所から救った一人のドイツ人を描いた映画「シンドラーのリスト」とよく似ているが、主人公の直面する問題はより切実である。シンドラーが直面したのが「自分には彼ら(ユダヤ人)を救える力がある。ならばなぜその力を使わないのか、救おうとしないのか」という命題なら、この作品の主人公が直面するのは「自分にはどう考えても彼らを助ける力はない。でも助けずにいられない。見捨てることがどうしてもできない」という、もっとぎりぎりの命題だからだ。それがもっとも象徴されるのが、主人公が自分のホテルに避難民をかくまった後、ホテルの社員に有力者・権力者の電話帳を配り、電話をかけさせるシーンでの言葉である。
「皆さんにお別れの電話をかけなさい。ただ話をする間、電話を通して相手の手を握りなさい。もしこの手を離されたら死ぬと、そう相手に知らせなさい。もし相手が自らの良心に咎め、電話を切るのを遮ろうとしたなら、その良心にすがりなさい」
今誰かの手を握っている。手を離さずにいたら、自分も道連れにされて死ぬかもしれない。でも手を離したら、その相手は確実に死ぬ。たとえ自分が英雄でなくても、勇気の欠片もない人間だったとしても、手を離したら相手が確実に死ぬとわかっていて、あなたは手を離すことができるのか。この作品の主人公は手を離さないこと選んだ。「あなたはそうできるか」と、この作品は問い掛けている。今この瞬間にも。
劇団三年物語『タフネス』(作・演出 藤本浩太郎/会場 劇場MONO)☆☆☆
ポツドール『夢の城』(脚本・演出 三浦大輔/会場 シアタートップス)☆
アパートの一室で集団を生活をする男女の群れ。そこにいっさいの言葉はない。ただ何となく起き、何となく眠り、何となく食べ、何となく排泄し、何となくセックスする。ある夜、一人の女がすすり泣き、一人の男がそれに気づく。だが男にはかけるべき言葉がない。女が自分で泣き止むまで、やはり何となく無言で見つめ続けるしかない。彼らは共に生活していながら、精神的には何もつながっていない。ただの獣の群れだ。徹底したディスコミュニケーションの世界の世界に、いやーな後味を感じた。
3月4日(土)
五反団『ふたりいる景色』(作・演出 /会場 こまばアゴラ劇場)☆☆☆☆
同棲生活を送るある男女。男、即身仏になると部屋に閉じこもり、ゴマだけを食べ続ける。
ロマンチカ『PORN』(演出・美術・衣装 林巻子/音楽監督 飴屋法水/会場 スフィアメックス)☆☆☆☆
2月18日(土)
『僕のニューヨークライフ』(監督 ウディ・アレン)★★
太目のクリスティーナ・リッチは好みのタイプではなかったのか、いまいちの出来。
『労働者M』(作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ/会場 シアターコクーン)☆☆
3軒茶屋婦人会『女中たち』(作 ジャン・ジュネ/企画・演出 3軒茶屋婦人会/会場 本多劇場)☆☆☆
チラシのお三方の美しい姿に誘われて観劇。
2月12日(日)
『ジャーヘッド』(監督 サム・メンデス)★★★
『フル・メタル・ジャケット』の前半部分が好きなら、絶対に楽しめる映画。
2月6日(月)
“JAPANESE PRINCESS”出版記念『村田兼一写真展』(会場 スパンアートギャラリー)☆☆☆☆
野鳩『僕のハートを傷つけないで!』(作・演出 水谷圭一/会場 タイニイ・アリス)☆☆
黒色綺譚カナリア派『眼だらめ』(作・演出 赤澤ムック/会場 ザムザ阿佐ヶ谷)☆☆☆☆
演劇ぶっくで大きく紹介されたりと、急成長中のカナリア派第5弾。私内部の定説で、奇数作は傑作で偶数作は失敗作と勝手に決めていたのですが、今回も当たってました。喰われた目玉が花になるという猟奇的で美しいシーンは鳥肌ものだった。人間の矜持や尊厳といったものがぶち壊された先にある、狂気にカタルシスに満ちたラスト。
1月14日(土)
『THE 有頂天ホテル』(監督 三谷幸喜)★★★
オールスターキャストの三谷幸喜監督作第三弾。大晦日の夜10時から年越しまでを2時間の尺でほぼリアルタイムで描く「24」形式の作品。全ての登場人物にそれなりに見せ場を用意して、破綻なくらすとまで描くのは見事しか言いようがない。