【再録】トラウマ洋画劇場(第二回)

…引き続き「トラウマ洋画劇場」でお楽しみください。





【再録】トラウマ洋画劇場(第二回)
「ホラー&スプラッタ編」


■血しぶき大放送


えー最近では放送コードが厳しくなったのか、それともレンタルビデオの普及のせいか、この手の血ヌラ肉ズバな映画が地上波で放送されることはずいぶん稀になってしまいました。無念です。とはいえテレ東のお昼のロードショーでは現在でもたまにこの手の映画を何かの間違いのように放送することがあり、全国のクズ映画ファンを忍び泣きさせるとも言われています。ちょっと前にも『地獄のモーテル』(79年/米)という腐れC級ホラーを何の前触れもなく放送するなど、そのチョイスのキテレツさはかなりのもので、やっぱり今どきの小学生もガッコから帰ってこういうの観てトラウマ抱えるのかしら、と何だかホンワカした気持ちになりました。


まあしかしそれはレアケースで、やはり残虐度ヒャホホーの映画はあまり放送されないのが現状。ですがかつてはそのへんもオオラカで、いろんな残虐ホラー映画が夜に昼に放送され、お子さまの心にズバズバ景気よくトラウマをこさえていたのですね。今回はそんなオッカナイ奴をいろいろと紹介いたしましょう。


■トラウマの殿堂


ではまずメジャーなとこから攻めてみましょう。まずは大ヒットした『サスペリア』(77年/伊)。いまだ多くの人がトラウマ源として挙げるトラウマ界のサラブレッド。冒頭、少女を黒ヒゲ危機一髪並みに刺し散らかしたあげく首にナワかけてぶら下げるというシーンからしてトラウマ度全開。その後も天井からウジの雨を降らせたり、有刺鉄線の海に女の子を突き落としたり、目に針さされて死んでた人が突如ゲハゲハ笑いながら襲い掛かってきたりと中身はヤンチャの限りです。残虐度もさることながら、とあるシーンでは画面にあらぬ顔が映り込んでて「幽霊が映ってる!」と騒ぎになるなどオマケ要素もバッチリ。わたくしも小学生のときにこれをTVで観てしまい、夜の尿がまんに耐える日々でした。


『サスペリア』がヨーロッパ代表なら、アメリカはどうか。となるとここはやはり『悪魔のいけにえ』(74年/米)ですね。テキサスのド田舎で、道に迷ったヒッピーたちが次々とキチガイ一家の餌食になったりならなかったり、という傑作ホラー。特に、人間の皮でつくったマスクをかぶり、電気ノコギリをブォンブォンいわせ、閉めたドアすら切り刻んで追い掛けて来る殺人鬼「レザーフェイス」は、多感なガキどもに「こんなのに追い掛けられたらどうしよう…」と妄想させるには十分過ぎるインパクト。ちゃんとしたTV放送はされていないと思いますが、ハイライトシーンが「ホラー映画大全集」みたいな番組で紹介され、その部分だけが異常なインパクトを放っておりました。


同じくアメリカで無視できないのが『ゾンビ』(78年/米・伊)。こっちは例によってノタノタ歩くおゾンビ様が徒党を組んでウーラウーラと攻めて来るという、ジワジワ来る怖さが特徴。「いくらでも湧いて来る」「やられれば自分もゾンビになる」「親しい人もゾンビになる」という切実な怖さがやはりトラウマの元に。このシリーズといえば、何かと狭い場所に篭城して迫り繰るおゾンビ様にじわじわと追いつけられてゆくというシチュエーションばかりで、その逃げ場の無い感じがまたトラウマに拍車をかけます。こういう病んだ映画を平日の昼に執拗にリピートしていたテレ東はやはりタダモノではないでしょう。


そしてスプラッタ・ムービーの極北『死霊のはらわた』(83年/米)。悪霊に取り付かれた人たちが、互いに手飛ぶ足飛ぶ首が飛ぶの大血しぶきまつり。青いゲロをまき散らしたり、両目に親指をブッスリさして目玉がトロンとまけ出たり、凄まじい白塗りのメイクの人が白眼むいてケタケタ笑いながら襲い掛かってきたりとホラー描写は元気ハツラツです。あまりの描写の激しさに「恐怖を通り越して笑いが生まれる」なんて言われた映画ですが、こんなものを子供に見せた日にゃ治るオネショも不治の病にという刺激の強さ。すさまじいトラウマ度と言えます。


■泡沫ホラーの威力


さて上に挙げたものはホラー映画のなかでも非常にメジャーな部類ですが、これがマニアしか知らないような泡沫ホラーの場合、救いがたい低予算感とハンパでない辛気くささでトラウマ度は倍増です。知名度が低くて馴染みがない分、ボケッと観ててロクでもないシーンに遭遇したときの衝撃はかなりのものがあります。


『サンゲリア』(79年/伊・米)。これはまあ『ゾンビ』の二番煎じというか、オマージュを捧げたというか、まあ平たく言うとパチもんで、南海の孤島でマッドなお医者さまが実験に狂ったあげく墓からモコモコ死人がでてきて弱った弱ったという偏頭痛止まらないホラー。映画は大した事ないですが、パツキンのお姉さんの青い瞳にギザギザの木片をメリッと突き刺すシーンをモロに描写、そのシーンだけがやたらと有名になってしまいました。他に見どころとしては、襲いくるゾンビを海に突き落とすと全く脈絡なくサメがわいてきて、本筋に関係なくゾンビ対ジョーズの対決!という珍シーンがあり、ノタノタとトロい水中プロレスを繰り広げたあげくゾンビが勝利しますが、このシーンの腑に落ちなさはまた別な意味でトラウマです。


『マニトウ』(78年/米)。これは女の人の背中に突然コブができてですね、痛ェ痛ェと弱ってるうちにドンドン肥大。手術で切ろうとすると不思議な力で邪魔されます。その瘤にはインディアンの精霊が宿っておるのだ!それが今にも産まれようとしておる!という霊媒師の予言通りそのコブが割れて中から…。というオカルトもの。とにかく女性の背中のコブから得体の知れない物が生まれる!というシチューエションが怖く、実際にコブからニョッと子供の手が生えてるシーンはトラウマ必至の気色悪さ。この精霊が病院を乗っ取ってしまう訳ですが、なぜか病院全体が氷漬けになったり、唐突にトカゲ人間が「はーいそがし、はーいそがし」という感じで徘徊していたり、挙げ句の果ては異次元空間での戦いに突入、宇宙空間をバックに精霊とそれを産まされた女性がスターウォーズばりの特撮でビームをビヨビヨ撃ち合うという尻子玉の抜ける展開がスバラでした。


■生物パニック系


さてホラー映画と言えば、ひとつのジャンルとして生物パニックものがあります。中でも昆虫/小動物ウジャラウジャラ系は生理的嫌悪感が強烈で、トラウマ源としては見逃せません。


電気の力で狂暴化した大量のミミズ/ゴカイが人を襲うという『スクワーム』(76年/米)。ゴカイが皮膚を食いやぶって身体に潜り込んだり、大量のミミズで部屋中埋め尽くされたりととにかく気色悪く、幼稚園児だったわたくしはポスター見てしばらく外に出るのも怖かった覚えが。


『吸血の群れ』(72年/米)。大量の爬虫類、両生類が人を襲うというフレコミで、幼少の頃は素直に怖ええええと思ってましたが、つい最近見直したところ、人を襲うといっても噛み付いたり毒を出したりするわけではなく、トカゲがひょこっと顔を出すとビックリした人間がキャーと叫んで勝手に死んでゆくような映画だったので詐欺に遭ったような気分でした。


『燃える昆虫軍団』(75年/米)。スポ根みたいなタイトルですがホラーです。地殻変動でできた地割れから発見された新種の虫。この虫がなんと発火能力を持っていた!というなかなか面白い映画ですが、いかんせんこの虫がゴキブリそっくりで嫌いな人には地獄のような映画でした。後半この虫の知能が発達してきて、壁に整列して人文字ならぬゴキ文字を描き人間と会話、という展開は「こち亀」のようで面白すぎますが、やはり基本的にゴキなのでバルサンを焚きたくなる衝動にかられます。


クモ系だと『巨大クモ軍団の襲撃』(77年/米)が強烈で、街中で毒グモが大量に繁殖、うじゃらうじゃらと部屋に侵入してきては人をカプカプ噛み、一夜にして街はクモの巣で真っ白になってしまうという、クモ嫌いの人は泣いてワビを入れたくなる一本。ちゃんと噛まれたあとは皮膚がジンマシン様に腫れ上がったりするのがリアルでした。


他にも数え切れないくらいのトラウマホラー映画が存在しますが、とても一回で紹介し切れるもんではありません。というわけで次も怖い系の特集ですが、今度はもっとサスペンス寄りの映画をメインに取り上げることにします。以下次回。



(2006年03月04日)