みちのく独り旅(壱)

えーちょっと休暇が出たので、じゃー旅行でも行くか。車で。という訳で愛車を駆って青森県まで足を伸ばしてきました。いや足を伸ばすとかそういうレベルではなく、ほぼ青森1周。走行距離も正味4日間で1200キロ。一日平均300キロですから結構なもんです。


で、いろいろ回ってきたんですが、せっかくの一人旅ですし、ここは何一つ遠慮することなく趣味性を発揮して独特の基準で目的地を選んでみよう。よし。とそれがいきなり恐山だったりするあたりオイラの趣味性って一体どうなんですかと運転席で1人ツッコミです。


まあ小学生の多感な時期に中岡俊哉氏の一連の著作でトラウマの何たるかを体験学習した身としましては、恐山は一度は訪れておきたいオカルト好きの総本山。ある意味あこがれの地。恐マウンテンというだけあって目指す場所は半端でない山奥ですが、くねくねの山道を気合いで走破すること小1時間。火山性の硫黄の匂いが漂うなか、恐山の本堂に到着。


えー恐山といえば1にイタコ2にイタコ、3、4も5までもみなイタコ、という口寄せ天国のイメージですが、実際に恐山にイタコが集結して営業に精を出すのは年に2回の大祭のときのみで、あとは普通にお坊さんが竹ボウキでクリンクリン掃除してたりするだけなので、門構えとかをパッと観た限りでは何てことのないフツーの寺でした。霊場アイスなんて売ってたりするし。


しかし拝観料(¥500)を払って境内に入り、本堂の脇の門を抜けるとそこは一面に広がる荒涼とした風景。積み上げられた小石。そこかしこに立つ地蔵。カラカラ回る風車の群れ。硫黄の臭い。その魔界チックな風景はさすが冥界の入り口と形容されるだけのことはあります。地面に目を近付けてみれば、積み上げられた小石の中には住所氏名が書かれたものが数多く混ざっており、つい「ナムー…」と合掌。そのへんのお堂にフラッと入ってみれば、かつて生きていた人の写真や遺品が山のようにお供えされたりしててやっぱりナムー。


一般に恐山、というと心霊スポット的な文脈で語られることが多いですが、実際は遺族が死者を供養するためにある特別な地、という印象でした。供え物のなかに玩具や絵本が沢山あったり、子供の写真が貼られていたり、というのは本気でナムーとするほかはない哀切さです。


(2001年10月31日)