その昔、わたくしが学生の頃の話。当時は四国松山の、温泉で有名な道後という街の片隅でアパート住まいをしていました。ガッコもその近所。あの有名な道後温泉本館の建物から自転車で数分のあたりが主な生活圏でした。
で、毎年お盆の頃になると、サークルボックスにダベっている仲間がヒマにまかせて「じゃ恒例の肝試しでも」と言いはじめ、近所のいわく付きスポットを皆でプルプルしながら回ったり巡ったりするわけです。松山城西側登山道、城山のふもとのM町、E大学工学部付近入口…などなど、めぼしい所は大体まわったのですが、毎回話題に登りながら絶対に誰も行きたがらなかった場所が一か所だけありました。…それが、道後にある石手寺(いしてじ)という寺であります。
四国八十八ヵ所第五十一番札所にして、道後でも名高い観光スポット。実際に石手寺を訪れた事のなかったわたくしは、なぜ皆がそこまでその寺を怖がるのかいま一つピンと来なかったのですが、その理由はのちほど昼間に訪問してみてすぐに判りました。一言でいえば、そこは寺社仏閣の域をスコーンと突き抜けた電波風味のアートあふれる宗教的ブラックホール。霊的な無気味さとかそういうのとは全く別次元の、もはや観光地とは思えない禍々しい雰囲気。たしかにこんなトコに深夜ノコノコやってくるのは御免こうむりたい。
で、今回帰省したおりにその石手寺を再訪してビスバス写真を撮ってまいりました。いくら言葉を尽くしても、ここの有無を言わせぬ雰囲気を伝えることはヒジョーに困難。つか無理。という訳で以下画像をじっくり御覧ください。なーむー。
本堂脇にはポッカリと洞窟の入り口が開いています。これはマントラ洞窟という名の、まあ一種の地獄巡りと言うか極楽巡りと言うか、言わばバーチャル霊界体験システム。狭く長い洞窟の中に様々な手製の仏像や絵画がところ狭しと並べられ、異様な雰囲気をかもし出しております。いろいろ仏教的に意味のあるものらしいんですがとにかくインパクトが激しすぎて詳細はムニャムニャ。中は薄暗いわ地蔵や仏像が並んでて無気味だわ物凄く怖いタッチの絵が貼ってあるわでとにかく恐ろしい。虚弱な児童は口から泡吹いてヒキツケ必至の暗黒仏ゾーンであります。
やっとの思いで洞窟の出口に到着。石と石の間の狭いスキマをくぐりぬけると石手寺の裏山に出ます。そこはダラダラとした坂が続いており、登ってゆくと幼稚園や墓地があるのですが、この坂の雰囲気がさらに怪しい。飾ってある、というよりは打ち捨ててあるといった感じの強い仏像やペイントが路傍に置かれてあり、それが長年の風雨にさらされて朽ちかけています。石手寺境内よりもさらにアウトサイダー・アート色が濃厚になり、「なぜこんなとこにこんなものが?」という不審さも相まって何とも言いがたい不安感が場に漂っています。
振り返ると向こうに見える山の頂上に巨大な弘法大師様の像が見えます。なんだか物凄く不安になってきました。石手寺境内に戻りましょう。
いやあ正味2時間程度の見学でしたが、あまりのテイストの濃さに物凄くグッタリしましたよ。この濃さはカレー味というか、インドやチベットのテイストが物凄く濃厚。それでいて日本の寺院のあの線香臭さも忘れてはいないという、アジアの料理を右から順番にミキサーにかけて煮こごりにしたような強力絶倫スポット。心静かにお参りする、というよりは、神社の祭りによくある見せ物小屋をそっと覗き見するような、そんな不思議な吸引力のあるお寺でした。
(2003年11月04日)