12話

えーいきなり「12話」と字面をみて何かがピンと来てしまう方はそう多くはないと思います。さらに言うと「24話」というフレーズにも反応してしまう人はディープというかマニアックというか末期でしょう。


まあそういうなれのはて以外の方には何の事やらだと思いますので一応説明すると、往年の特撮番組『ウル●ラセブ●』には、諸事情あって再放送もソフト化も一切されず、その存在を完全に封印された「幻の12話」というのがあって、現在に至るまでマニアの間では伝説となっている、というもの。まあ実際には「12話問題」が勃発する1970年までは何ら問題なく再放送されていたらしいですが、被爆者団体からの抗議を受けたため、ある日を境にそのエピソードそのものが無かったことにされてしまった…と、このあたりのいきさつは書き出すといくらでも書けてしまうのでここでは割愛。気になる方は「712」という文字列をググってみるとよいでしょう。マニアが多いだけあってディープな研究サイトがいくつか存在しています。


再放送もなし。ソフト化もなし。ということは現在観る事は完全に不可能なわけです。ただし、正規のルートでは。…どういうわけか今わたしの手元にはマニア手製のDVDが。題して「ウルト●セ●ン12話/遊星より愛をこめて」。


流出元は諸説ありますが、80年代前半からビデオにコピーされたものが裏ルートに出回り始め、その後何世代にもわたってダビングされながらマニアの間で流通し続けてているという、『リング』の呪いのビデオを地でいくような増殖っぷり。伝播の経路が口コミという実体のないものではなく、ビデオテープという媒体を伴って物質的に裏付けられているという点で、都市伝説としてもかなり興味深い物件と言えます。歳月は流れてメディアはビデオテープからDVDへ。デジタルデータとなって複製が誰にでも簡単にできるようになった今、以前にもましてこの作品のコピーは増殖し続けているのではなかろうか…と焦点のあわない目で恍惚としている場合ではありません。さっそく観てみました。


再生を開始すると、おもむろに流れる「送・放・京・東」の文字にカウントダウン。どう考えても真っ当ではない筋から流れ出て来たものであることがひしひしと感じられます。画質は一体何世代ダビングすればここまで荒れ放題になるのかと感動が止まらない呪いのビデオっぷり。中坊のときに友達の家で観た裏ビデオよりもひどい。音もピッチが揺れまくりで聞いていて脳がゆがみそうになりますが頑張って俺フィルターで補正をかけて最後まで観ました。


話はかいつまんでいうと、新型爆弾の実験に失敗して全身ケロイドだらけになられた宇宙人の方が、「新鮮な血をぉぉぉ…」とばかりに地球人のお子様の血を求めて暗躍するのですが、悪事を地球防衛軍に見破られてブチ切れたあげくにセブンに尻から真っぷたつにされて死ぬ、というもので、はっきり言って被爆者団体から抗議を受けたという事実を知らずに観た場合は何が問題なのかさっぱり判らないという鳩に豆鉄砲クラスの代物。まあそれもそのはずで、抗議の直接の原因は当時の某学習雑誌が放送後にこの宇宙人につけた「ひばくせい人」というトカゲの脳味噌が考えたようなキャッチフレーズであり、肝心の番組の内容は見事なまでに議論の外にあったと言いますから腰が抜けます。伝説の正体見たり枯れ尾花。まあ冷静に考えれば宇宙人のデザインがケロイドまみれというのは限りなく黒に近いグレーという気もしますが、劇中ケロイドのケの字も出てこないしなあ。つか、そもそも画質を抜きにしても宇宙人の姿がよく見えないよコレ。


このあたり、メディアの表現の自由と差別問題の相克が最も激しく行われていた時代の遺産という感じで、結果としては差別問題が表現の自由に打ち勝った結果の封印という図式になっていますが、負けた方が以後この作品を完全にタブー化してしまい、公の場で議論すら出来ない状態にしてしまったというのはかなり大きな禍根を後世に残した気がします。日本のマスコミにはこういうタブーが非常に多いですけれど、ただ単にタブーにすることによって非常に安易な事なかれ主義に陥っており、その結果いくつかの社会問題がメディア上で議論する事すら困難になっている状況は深刻にマズいのではないかと。まあこの12話はそうした封印作品のアイコンとして今後も裏ルートに流れ続けるのでしょう。


なお、円谷関係ではこの12話にの他も「怪奇大作戦」24話が封印されており、こちらの方は内容のヤバさもあって封印も致し方ないか、と思ったりもしますが、しかし隠されると見たくなるなるのが人情というもので…。こっちもきっと日々ビデオ(というかMPEGファイル)が増殖してるんだろうなあ…。


(2005年02月25日)