座頭市

…さてボチボチ観てます。たけしの『座頭市』。いやー実をいうと予告編が流れたときにちょっと穏やかじゃない予感がしたりしてたわけですよ。「たけしが座頭市!」(…勝新の座頭市が凄いのに、なんでリメイクを?)「座頭市がパツキン!」(ええっ!?)「コントの要素もあり!」(『みんなーやってるか!』が脳裏に浮かぶわたくし)「農民がタップダンスを!」(すげー浮いてそう…)…とまあ地雷原の前にたたずんだような問答無用の不安感が。実際に予告編の映像をみると、肝心の殺陣の部分もいま一つピリッとしてなくて、ベネチアで賞もらったとは言えホントに大丈夫なのかコレ…とたけしファンとしては心配の虫が右往左往の極みだったわけですが、思いきって観てきました。


感想1)
…面白いじゃん。なにかこう北野映画とは思えないような娯楽映画っぷり。特筆すべきは切った貼ったのチャンバラ映画としては近年にない殺陣の切れ味で、あの予告編のユルさはなんだったんだ一体。とにかく座頭市の居合い斬りが、スピード感といい編集の小気味良さといい、また観たいと思わせる気持ちの良さでブラボーでした。


感想2)
一見シンプルな勧善懲悪の映画っぽいですが、悪の方は悪として申し分ない悪っぷりであるものの、善たる座頭市は善と言うよりもむしろ善悪を超越した人斬りマシーンに近い感じで描かれており、このへんはやっぱり北野映画でした。ウエットな感傷はあるものの、そちらは脇役の大楠道代や大家由祐子にまかせて、座頭市自身は利害や怨恨、正義感とはまったく無縁の境地でズビズバ人を斬りまくります。このとにかく人を斬らずにはいられないという怪物っぷりが大変ナイスでした。


感想3)
コント部分ですが、稀代の怪作『みんなーやってるか!』と全く同じテイストで一瞬冷や汗が垂れるものの、とりあえず滑ってはいないので安心。まあ同じテイストといっても別にウンコチンコが炸裂するわけではないですが。


感想4)
最大の不安要素と思われていた例のタップダンスのシーン。これが意外と違和感がなかった。つかむしろ爽快な盛り上がりに感動すらおぼえたりして。タップの振り付けもよかったんですが、鈴木慶一のウエットさを排した音楽もまたよかった。いやあ久石譲のコテコテ糖尿音楽でなくて本当に(以下略)。


感想5)
しかしパツキンといいギャグといいタップといい、既存の座頭市のイメージを覆すのはすごく良かったとして、ラストの意外な種明かしはどうだ。いやネタバレになりますんであまり深くはいえないですが。それはちょっと壊し過ぎではないのか。まあしかし実はセリフの解釈によって二通りの意味に取れたりするので、これはみなさん劇場に行って確かめてみてください。


感想6)
とはいえ観終わったあとは妙にサワヤカな気持ちになる痛快娯楽作。その反面北野印のアートな香りもただよってて確かな満足感。どうやら大ヒットのご様子でファンとしては嬉しいかぎり。まああとはこれで安易にポコポコ続編を作らなければ言うことナシかとおもわれます。


(2003年10月18日)
座頭市
2003年 日本
監督:北野武
出演:ビートたけし 浅野忠信 大楠道代