野獣刑事

えーというわけで野獣です!刑事です!主演は緒形拳です!もうこれだけで内容の5割は判ったも同然。期待通り緒形拳の刑事が大阪を舞台に好き放題をかまします。リベートは取る、別件逮捕はする、逮捕してムショ送りにした男の情婦を寝取る、などなど権力を実に有効活用。そんな刑事が駆け出しの刑事(小林薫)と組んで若い女性の惨殺事件を担当する…という話。


と書くと、あまりのありがちさに「もうお腹いっぱいです…」と油臭いゲップのひとつも出そうですが、この映画は残りの5割が素晴らしい。実は隠れた名作です。


女性の惨殺事件と並行して描かれる、刑事の私生活。寝取った情婦(いしだあゆみ)とその息子の3人で疑似家族的な生活を送っていた所へ、刑事にパクられてムショに送られていた情婦の男(泉屋しげる)が出所してきます。泉谷はいしだあゆみのところに舞い戻るものの、緒形拳には頭が上がらない状態。緒形が突然アパートを訪ねてきたりすれば、気を使って自分は子供と外へ出る、というヘタレっぷり。でも子供は色々面白いこと(万引きとか)を教えてくれる泉谷になついている。いしだは緒形に結婚の意志をほのめかすが、緒形はそれに応えず曖昧な関係をつづける…。果ては、いしだと泉谷はシャブに溺れ、泉谷は中毒のあげく錯乱。緒形は結婚をエサにいしだを言い含め、おとり捜査に差し出すも、失敗していしだを死なせてしまう…。


と、このどうしようもない人間たちのダメさ加減を真正面から描いてて、それが痛くもあり悲しくもあります。ダメな男女が、お互いを喰い合ってどんどんダメになってゆくその姿。背景は大阪の下町のスラムのような街並。小ギレイな街、小ギレイな恋愛、小ギレイなヒーロー、そんな上っ面を求めても、所詮はこれが今の日本なんだよ!と、この映画は観客に生臭い現実を突き付けます。切れば血膿の出るような、そんな日本映画。


主演の3人がどれも素晴らしいですね。悪どい生きざまの果てに、隠しもっていた人間味と弱さをさらけだす緒形拳。ダメな男にズルズル引きずられ、どんどん不幸になっていくのに、どうしても男と離れられないいしだあゆみ。シャブに手を出し、壮絶に発狂する泉谷しげる。特に泉谷は川俣軍司もかくやという迫真のシャブ中演技が壮絶でした。このシーンの白昼の悪夢みたいな描写は物凄い説得力です。


(2002年08月08日)
野獣刑事
1982年 日本
監督:工藤栄一
出演:緒形拳  いしだあゆみ 泉谷しげる