この映画、高校生のころだかにTVでやってるの観て「なんだかワケ判らんが凄い。あとエロいし」と感動してすぐさま原作買ってきて読んだんですが、内容が映画で観たのと全く違っておりアイスコーヒーだと思って一気飲みしたら実はめんつゆだった時のような驚きを覚えました。
まあ逆に言えば映画の方は原作のストーリーを全く無視したブチ切れたシロモノだったわけで、特に主演の松田優作のイカレ具合は当時としても「ほえぇ」と口アングリするしかスベの無い凄まじさ。真っ青な顔とうつろな目は幽霊のようですし、長身を持て余すように猫背でヒッコヒッコ歩くさまはまるで死神。クラシックを大音量で鳴らしながらこめかみに銃を当ててウットリしてみたり、牧師のように手を組んで「人を殺す事は神を超えることだ」とかなんとか真顔で語ってみたり、無人のコンサートホールで物凄く唐突に
「ア!」
と天を指差しつつ叫んでみたりと往年の前衛劇のようなシーンがつるべ打ちなんですが、こうやって文章にしてみるとなんだかケツがムズムズします。ムズムズというか、イタい。
しかしこのイタいハズのシーンに物凄く吸引力があるんですよ。やはりそれは松田優作という存在感のなせる業、演技の凄みとしか言い様がない。あの死んだ魚みたいな目で凝視されながらピストル突き付けられ、
「リップヴァンウインクルって知ってますぅ?」
なんて凄まれた日にゃ涅槃のジャイアント馬場も尿モレですよ。
とまあ一歩間違えれば痛いナルシズムに堕ちそうな映画なんですが(いや実際ナルシズムの香りはプンプンですけど)、なお人の目をクギヅケにして放さないという役者汁垂れまくりの一本。役作りとして松田優作は8キロ減量し、奥歯を4本抜いて頬をこけさせ、さらに自分の長身が役のイメージに合わないとして足の骨を5センチ削ろうとしたというから凄いとか感心するとかを通り越して引きます。しかしその結果として狂気はヤバいくらい体現され、村川透の前衛的な演出と相まってラジカルなハードボイルドの傑作となりました。ラストシーンの鮮烈さとテーマ曲の渋さは今もって健在です。
余談ですが最近はすっかり大仰な台詞業が板についた鹿賀丈史。ここでは狂犬みたいなチンピラをビガーなアフロ頭で熱演しておられました。若い!でもそのギラギラさ加減が魅力であります。
(2000年09月28日)