ベルベット・ゴールドマイン

えーっと録りためていた『ベルベット・ゴールドマイン』観ました。実はグラム・ロック御三家(デビッド・ボウイ、T-REX、ロキシー・ミュージック)好きなもんで。悪かったな!キワモノ好きですよどうせ!…いやそれはいいのですが、グラム・ロックというムーブメントの勃興と凋落を描く映画のはずが、いきなりUFOが飛んできて19世紀のロンドンに赤ん坊のオスカー・ワイルドを産み落とし去って行く、というトンカツにブリキでも挟んだような出だしで「ひょっとして俺は今違う映画を観てるんじゃないのか?」と不安になりました。


内容はどう考えてもデビッド・ボウイがモデルのロック・スター、ブライアン(ジョナサン・リース=メイヤーズ)が、成り上がったその極みで狂言殺人を起こして人気急降下の果てに失踪。その後10年経って彼がどうなったかを、元グラム小僧だったというしょっぱい過去を持つ雑誌記者(クリスチャン・ベール)が、自らの舌噛んで死にたくなるようなイタい思い出と戦いながら追って行くというお話。当時の関係者の証言によって、ブライアンというトリックスターの実像が浮かび上がってくるという筋立てです。


ブライアンに絡むのが、これまたイギー・ポップがモデルとしか思えないカート(ユアン・マクレガー)。いやあ凄いですぜユアン。ステージでケツメド全開にするわチンコ晒すわその状態で爆竹みたいに踊り狂うわ、屋上から全裸で放尿をかますわ、果てはブライアンと恋(?)に落ちてドアップで特濃チューをキメるなど、別な映画で「アナキンよ」なんて真顔で言ってる人と同一人物とはとても思えません。凄い役者根性です。漢です。


まあこんな場面が多いのも、当時のグラム・ロックには「セクシュアリティの革命」という目的が根底にあったからで、その表現者とシンパが当時のモラルによっていかに叩かれていたか、ということをこの映画は語ります。雑誌記者自身も、勢いあまってブライアンの写真をみながら部屋で自家発電に励んでいた所を両親に見つかって手ひどく痛罵される、という考えただけで腸が捻転するような痛恨の経験の果てに家出してしまうのでした。まあこのくらいモラルのキビしい時代にこういうことをやることはそれだけで社会への反逆であったわけですね。


それだけに「グラム=露悪趣味」となってしまうのは必然でして、この映画も美青年同士がチューをして云々というお耽美方面を押さえつつ、オゲレツな部分を一切隠さないところが「判ってるなあ」と思いました。


ところで劇中はグラム・ロックの数々が映画を彩るわけですが、肝心のデビッド・ボウイの曲が全く流れないのは、なんというか仏作って魂入れずというか達磨作って目玉を入れずというか、凄く大きなピースがいっこハマってないように感じたんですが、やっぱりこれボウイ本人が使用許可を出さなかったらしい。まあそりゃそうだろう。しかしそれは、ゲイとかバイとかの下世話な部分のためではなく、(※以下ネタバレですので空白部分をドラッグしてお読み下さい)狂言殺人を起こしてグラム・ロックを終わらせたブライアンが、失踪後に顔と名前を変え、体制に組するロック・スター(なんだそれ!)として芸能界にに復帰しミーハー人気をかっさらっていた…という結末のためではないでしょうか。これは80年代に入ってから一躍ポップ界のスーパースターになってしまい、70年代のアナーキーさを忘れてしまったデビッド・ボウイへの、っていうか同様の全てのロック・アーティストへの揶揄…ではないかとも思われます。


…と、なかなか面白く観たんですが、最後の方になるともう話がトラクターが通ったあとの田んぼのようにグダグダになってて、気がついたらエンド・クレジットが始まってたという有り様でションボリ。ボウイの曲が使えなかった点も含め、惜しい仕上がりであります。


(2004年04月20日)
ベルベット・ゴールドマイン
Velvet Goldmine
1998年 イギリス
監督:トッド・ヘインズ
出演:ジョナサン・リス=メイヤーズ ユアン・マクレガー