すて猫トラちゃん

えーケーブルTVを見てるとごくタマに凄いレア映像(例:『GAME KING 高橋名人vs毛利名人』など)にぶちあたることがありまして、こういうとき「ケーブルに加入しといて良かった…」と洗い物の手を止めたまま焦点の遠いまなざしでウットリングなわけですが、今日はチャンネルNECOにて『すて猫トラちゃん』というアニメーションに遭遇。アニメと言っても最近の特定購買層だけをターゲットにした搾取アニメとは違います。1947年制作。昭和で言うと22年だ。すごいな。この戦後間もない頃に作られた純日本製アニメーション映画です。


このころのアニメーションといえば、アメリカで初の長編アニメーション映画『白雪姫』が制作されたのが1938年、あの「トムとジェリー」の制作スタートが1940年ということで、すでに時代は黎明期をとうの昔にすぎて発展期に突入しつつあったという感じでしょうかね。それとほぼ同時期、日本のアニメーションがどういう水準にあったのか、ということを教えてくれるのがこの『すて猫トラちゃん』であります。


いや、凄いっす。日本にこんな名作が埋もれておったのか!と眼からゾロゾロ落ちるウロコ。唸りましたね。まず1秒=24コマのフルアニメーションであること。これは手塚治虫以前のアニメですのでまあ当然なんですが、この滑らかな動きは思わず制作年代が入れ替わって見えるほど。で、そのフルスペックを活かし切って描かれる動画がまた素晴らしい。タイトル通り子猫が主役の映画ですが、この子猫の動きがものすごくしなやかで、エロティックなほどなまめかしく、なおかつ仕草が細かい。捨て猫の身の上をはかなんでトラちゃんが地べたに寝転がって歌うシーンの仕草の細やかさ、かわいらしさといったらそれはそれはもう…。痺れます。しかもご丁寧に歌とリップシンクまでしてやがる!スゲエ!アニメーターの手作業の気迫、執念みたいなものすら感じます。命削って作ったんだろうなあ…と思って観てたらキャラの周りをカメラが180度回り込む!マジで目頭が熱くなってきましたよ。



チャンネルNECOのページから思わず無断借用
キャラデザに日本製としてのオリジナリティを感じる


で、このトラちゃんが三毛猫の母子家庭にひろわれて、そこのミケちゃんと一緒に迷子になってしまい、いろいろ冒険をしながら無事に家にたどりつき、なかなか打ち解けられなかった三毛子猫たちとも仲良くなってメデタシメデタシ。クリスマスツリーの下であたたかな夜を過ごすのであった。とあまりの無垢さにまた熱くなる目頭。そして時代背景を考えると、世間には戦地で父をなくした母子家庭があふれ、また空襲で家族をなくした戦災孤児があふれていたはずで、ならばこの映画の物語は当時の世相をかわいらしい猫に仮託して描いたものとも取れるわけでさらに目頭ヒートアップ。


演出の政岡憲三という方は日本のアニメーションの草分け的存在で、このほかにも『くもとちゅうりっぷ』という凄い傑作があるらしいんですが、しかしどうやったら観られるんだこれ。こういう昔の傑作が半ば埋もれたまま忘れ去られてゆくのはいかにも惜しい。つか大損失だ!ここ数年のDVDバブルに乗じてぜひ復刻していただきたいものであります。


(2003年12月28日)
すて猫トラちゃん
1947年 日本
演出:政岡憲三