『日本沈没』とか『ノストラダムスの大予言』とか、一時期は日本でも今のハリウッド並みにパニック映画が量産されていた時期があった!という恥ずかしい事実の動かぬ証拠がこの映画ですね。アフリカかどこかのテロリストに乗っ取られてしまった大型タンカー。言う通りにしないと東京湾のドまん中でタンカーごと自爆するぜ!と鼻息荒いテロリスト。えー別にタンカーが一隻爆発したって大したことないじゃん、とか思いますがそこはそれタンカーなのでナマ原油君が満載。それが東京湾のまん中で爆発するとどうなるか、まあ熱やら酸欠やら二次災害やらで東京全体がガイアナ人民寺院みたいに死人を敷き詰めた状態になるんだぜ、という解説が教習所のビデオみたいな淡々としたナレーションで語られます。じゃー犯人の要求は、というと九州のコンビナートを一つ爆破しろという。一体どうしろと。というわけで日本の当局が取った奇策とは、劇映画用に撮ってあったコンビナート爆破の特撮映像をライブ映像と言い張って生放送!という『カプリコン・1』方式(こっちの方が先でしたが)。
というわけで、虚々実々の駆け引きで盛り上がるサスペンス!…と思いきや、肝心の映像が一目で特撮とバレる哀愁の仕上がりでなんともむず痒い気持ちに。しかも騙されるテロリスト。このへん、まごころと優しさで観るのがコツです。まあ結局ひょんな事からニセ映像のカラクリがばれ、テロリストの皆様はアシュラマン怒りのような形相で怒髪天。ここにきてやっと持ち直すサスペンス。別な意味で手に汗を握ります。
男ばかりのタンカー内、しかも男くささ絶頂の70年代ですから俳優もそれっぽいのが揃っています。まず主人公が藤岡弘。起き抜けにデッキでジョギング、その後汗だくのまま食堂で朝食取ったりしてとにかくフェロモン過多。食堂のオヤジに日本で一番厨房が似合う男・下川辰平。機関室のクルーに宍戸錠。そして船長にお約束の丹波哲郎。もう今はこんな男臭い映画は作れんよなあ…と思わず遠い目になりますが、わりと扱いがゾンザイで宍戸錠など機関室でくやしげな顔をしてじっとしたままで出番終了。もったいないオバケを召還したくなる衝動にかられます。そういやテロリストの一味になぜか日本人が一人混じっていて、だれかと思ったら水谷豊でしたよ。クレジット見てなきゃわかんないよコレ、とか思ってたら最後に『マトリックス』ばりのワイヤーアクションで串刺しになって死にました。
けっこう面白い映画なんですけど、すごくいい俳優さんをつかっているのにイマイチその魅力を引き出し切れていない感じで、マジ勿体無いですね。あとやはり特撮シーンがもっと良ければ…とかつい思ってしまいますが、だからと言ってもしCGで作っちゃったりしても余計ガッカリするんだろうなあ。きっと。
(2002年03月10日)