これ最初に観たのは20年ちかく前のゴールデン洋画劇場で放送したときでしたかね。その時は何かの発作のようにゲハゲハ笑った気がしますけど、今回久しぶりに観たらばピクリとも笑えなくてどうしたんだ一体。そんなに俺の魂は薄汚れてしまったのか!と浜省の歌のように嘆いてしまいますが、思うにやはりこれは当時の広川太一郎大先生のアドリブ吹き替えが如何にすばらしかったか、ということでしょうね。基本的にたっる〜い間の映画なんですが広川大先生の間断なきマシンガントークが炸裂した結果テンポが良くなってしまった、という素晴らしき吹き替えの奇跡。
ちなみに数年前仕事で広川大先生のアテレコ音声を編集する機会がありましたが、ほぼ全てのセリフにアドリブのギャグや駄洒落が入っており、キチンと台本通りに喋った台詞が何一つ無かったのには熱い感動を覚えた反面ちょっと来いや広川とか思いました。
しかしその広川魂が注入されていない原語版は、間の悪さばかりがひたすら目立ち、これは一体笑うべきなのか怒るべきなのか悩みの尽きない悲しみの仕上がりとなっていました。内容はTV業界の内幕モノ。監督/主演のマイケル・ホイが演じるのは売れない3流タレント。テレビ局の専属となっているものの、鳴かず飛ばずで飼い殺しの状態となっております。ちなみにこのTV局、MTVという局名で若干クスッと笑ってしまいますが正式名称はマウスTVでした。ちなみにライバル局はTVキャット。どうですかみなさん。これでピクリとも笑えなくなったとは、葬式か何かで酔っぱらった親戚のおっちゃんに「お前もええ大人なんじゃけん、そろそろ身ィ固めな」と説教されたときのような気分です。
このマイケル(長男)、他局でやっと芽が出かけますが、例の専属契約が邪魔になって掴んだチャンスも風前のともしび。自局の飼い殺し政策に業を煮やしたマイケルはついに強行作戦を計画。なんとか編成部長のオフィスに忍び込んで契約書を灰にしようと企むのですが…というお話。これに発明家のリッキー・ホイ(三男)とマジシャンのサミュエル・ホイ(四男)がからみます。サミュエルは相変わらずの男前っぷりで主題歌も担当。そしてリッキーは持ち前のキャラクターを活かした味わい深いヘナチョコっぷりで、ビートルズにおけるリンゴ・スターやずうとるびにおける山田隆夫のような独特の存在感で頑張ります。
まあ最初に言ったとおりわたくしの薄汚れスコープで観るとどうしてもにがーく笑う他はない映画ですが、70年代のモラルのゆるい香港映画だけあって、劇中小動物や身体の不自由な方をひどい目にあわせる描写が連発されており、こんにちの目で観るとスリル満点です。スリル満点といえば、事あるごとにアナログシンセ1台で作ったような「ピヨヨヨヨ」「ピルルル」「ビヨビヨ」という腰骨が強烈に砕ける効果音が鳴り響いて手に汗を握ります。このように音響面でクリエイティビティが炸裂しているかと思えば、とある有名映画のテーマ曲をヌケヌケと無断借用。もはやわたくしにできるのはどうかワーナーとかユニバーサルの偉い人がこの映画を観ませんようにと祈る事ぐらいです。
なお、邦題にもなった「インベーダー作戦」とは、TV局内を逃げ回るマイケルが宇宙人風のコスチュームを着て生放送中の番組に乱入し難を逃れるというだけのシロモノで、これには当時小学生だったわたくしも豆鉄砲をくらったハトのような気持ちになりました。
(2002年02月15日)