「あーありがちなタイトルだなあ」などと侮るあなたは10点減点。なぜならこの映画、事故で指を失ったボクサーが金属製の義指を装着してリングにあがるというステキに画期的なシロモノだからです。まさに正真正銘の「鉄拳」。看板に偽りナシ。この律儀な写実主義には横光利一も布団で金縛りです。
主人公の大和武士は手のつけられない暴れん坊(下半身も)でしたが、ある日菅原文太に拾われボクサーとなります。破竹の勢いで成長し、向かうところ敵ナシの状態になるも、ちょっと調子こいたおかげで車で事故り、おおケガをした上に失踪。指をなくした上に松葉杖なしでは歩行できない体となり、日々近所の雑貨屋を松葉杖で襲撃しては品物を奪う日々。松葉杖なしでは動けないとはいえ元ボクサーなので腕っぷしだけはやたら強く、とっちめてやりたくとも障害者を正面切ってボコにするのは罪悪感が、というある意味アンタッチャブルな状態に、やっとのことで彼を探し当てた文太兄貴も頭を抱えます。
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はげしく落胆する文太兄貴
文字通り肩が落ちてる
しかしここで無気味な敵が登場。どうも自警団みたいなコトをやってる人たちなんですが、全員学生服に革靴、リーダーは白い詰め襟という70年代の池上僚一の漫画に出てくるようないでたちで、ルンペンのかたがたとか、ヤンキーのかたがたとか、車椅子のかたがたを追い掛けまわしては手加減なくボコにして御満悦。まあヤンキーあたりは判らなくもないんですが、敢えて車椅子の人を襲うのがこのかたがたの無気味なところで、まあ自分たちの街にこういう人はいてほしくないんだよ、というちょっと度の過ぎた「クリーンまちづくり宣言」に観ている方はイヤーな気持ちにさせられます。
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「死んで、生まれ変われ」
って言われてもなあ…
一方ああいうデーハな行いを日々繰り返している大和ですから、まあ当然のごとくこのかたがたの次のターゲットにロックド・オン。愛犬とマッタリしているところを取り囲まれます。御挨拶の革靴カカト落とし(痛そう!)のあと、身体障害者を大勢が取り囲んでボコにするという地上波での放送が危ぶまれるスリル満点のシーンが続きます。主人公は命からがら逃げ出しますが、愛犬は捕まって首根っこをボッキリ折られます。この時点でこの映画、福祉団体はおろか動物愛護団体までも敵に回しました。もうこわいものナシです。
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身体の不自由な人に親切にしない主義
やさぐれていた大和もさすがにここで一念発起。欠けた指のかわりに金属製の義指を付け、文太兄貴と山にこもって凄まじいリハビリを開始します。ここの一連のシーン、実に躍動感たっぷりで観ているほうの闘争本能をビスバス刺激します。いや月明かりでシャドウボクシングをする文太兄貴のカッコいい事といったらありませんよ。無駄に血が騒ぎます。学校行事で血の気の余りまくった中学生に鑑賞させたら全校規模の大乱闘に発展しそうな高揚感。じっとしててもアドレナリンが大量分泌です。
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鉄拳(そのまんま)
血の滲むようなリハビリの甲斐あって、リングへのカムバックが決定した大和。しかし試合のその日、彼等に義指を紹介した恩人が自警団の餌食になります。静かに怒りを燃やす文太兄貴。ここから先は未見の方の為に伏せておきますが、結末でこれ以上は望めないほどにスカッとさせてくれることは保証しときますぜ。このへん、前作『どついたるねん』にも似た、ヒネリが利きつつもやたらと爽快感のあるラスト。
しかし、最後に大和武士がなぜかザルそばを満載した単車に乗って現れるんですけど、いったいなんでソバなんか積んでんでしょう?不思議ですが…あっそーか、出前中のソバ屋さんの単車を強奪したんですねきっと!!とこの映画を初めて観てから7年後の今やっと気が付きました。自分の7年越しのバカンぶりにちょっとうらぶれた気分が止まりません。
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ラストは超燃えだ!!
ラストシーン、ズタボロになった文太兄貴と大和が仲良くそのソバをすすります。でもそのソバ、もうグデグデにのびきってて、砂とかかぶってジャリジャリしてそうなんですけど、あれは絶対勝者の味がするハズだ、と見る度に思わされるのでした。
(2000年)