歌ふ狸御殿

というわけでいきなりカッ飛んだタイトル。素晴らしい。タヌキの御殿で歌ふとあればこりゃー観ないわけには行くまい。戦前の日本には『鴛鴦歌合戦』(監督:マキノ雅広/1939年)という現代にも通用するオペレッタ時代劇の大傑作がありましたが、その系譜に連なる作品であります。そしてタイトルに「狸御殿」とあるだけにファンタジー風味。つーか昔話風味?とにかく丸マゲ結ったおねいちゃん方が歌って踊って恋をして、時々腹鼓をポコン(タヌキなので)という、いやあ戦中にもこういう無垢で粋な映画があったんだなあと目からウロコごっそりの1本。


娘ダヌキのお黒(高山廣子)はあのカチカチ山のタヌキの娘ですが、父はウサギに焼かれた火傷が元で他界。継母といじわるな姉(草笛美子)にコキ使われ、虐められております。森の音楽会にも行かせてもらえず、涙をこらえてパシリに甘んじる日々。ところが切られそうになった古木を助けたことから、古木の精の魔法で美しい姫君に変身。狸御殿で行われる狸まつりに繰り出し、そこで若いタヌキの殿様(宮城千賀子)に出会って恋に落ちたり落ちなかったり。というお話を歌と踊りで綴ります。


…っていうかこれってまんま『シンデレラ』じゃん!まあ製作時期の社会情勢の微妙さを考えれば、こうして時代劇に翻案されたのも納得できてしまうのが悲しいところです。


時計の鐘が12時を打つと魔法が解けて元の貧しい姿に、という設定もちゃんと翻案されてて、暁の鐘(お寺の)が7回打たれると艶やかな姫の姿が一瞬にしてモンペ姿に、というのもナイス。しかしタダの翻案ではなく、若さまといい仲になったお黒にイジワル姉が嫉妬、お黒を刺客に襲わせているうちに自分はお黒に化けて速効で結婚しようとするなど、タヌキならではの特殊能力を活かした展開もあったりとか。まあ最後は本物のお黒が若さまと結ばれてメデタシメデタシで、意地悪な継母を祝言に呼んで親孝行。どんなに悪い継母でも親は親、やっぱり敬わなくちゃいけないんだ、というモラルが垣間見えるあたり、やっぱり戦中日本の映画だなあと感無量です。


音楽はそれなりに時代がかってて、男性の歌唱など直立不動の東海林太郎を彷佛とさせますが、やはり基本は明るく楽しく愉快なミュージカル。近年、インド映画のオペレッタが一躍脚光を浴びましたけど、かつてはるか昔に日本でも同じことをやっていたという事実は憶えておきたいものです。


(2002年11月19日)
歌ふ狸御殿
1942年 日本
演出:木村 恵吾
出演:高山廣子 宮城千賀子 草笛美子