白昼の死角

小さい頃テレビでちらっと観たんですが、あの岸田森がラララとほがらかに歌いながら灯油ををかぶって焼死、歌声が断末魔の絶叫に変わる、という強烈なオープニングのせいかそれ以降のシーンを思い出そうとすると頭が割れるよに痛くなります。今回久しぶりに観たら岸田森は天才学生実業家という役でしたが、スダレ頭に学生服を着た岸田森はもはやこの世のものとは思われませんでしたよ。


この岸田森の学友が夏木勲(現:夏八木勲)でこの映画の主人公です。岸田との仕事は失敗に終わったけど、俺様はもっとビッグなことをしでかしてやるぜメーン!と、同じく仲間の中尾彬らとともに野望をたくましくします。こいつらも学生服です。中尾彬と学生服。時空が歪んでいます。


この夏木一味が法の死角を突き、悪知恵フル回転で企業からシャレにならない額の金をむしり取ります。さすがに死角なので警察も手が出せず大弱り、それを脇目に夏木は札束かかえてウハウハ詐欺のかぎりを尽くすという経済犯罪映画。はっきり言ってやってる事は極悪非道以外の何物でもないんですが、騙される皆様が佐藤慶とか成田美樹夫とか、もっぱら時代劇で「越後屋、そちもワルよの」とか言ってる人なので観ているほうもあまり罪悪感なく「夏木頑張れ!」と大手を振って応援できるのがミソですね。絶妙のキャスティングと言えます。


村川透監督の演出は徹底したハードボイルドタッチで実に好調。丘みつ子が「私、妊娠してるんです!」と言い切った次のカットでいきなり股間から血を流して大流産、次のカットで陸橋からうつろな顔でヒモなしバンジー。といった比類なきスピード感。かと思えば濡れ場になると不審なまでに濃厚な長回しになったりと、緩急使い分けた演出で2時間半を全く飽きさせません。


検察庁もキワドイところまで夏木を追い詰めますが、千葉真一演ずる異様に顔の濃いヤクザの手引きもあり、結局彼は法の死角を突きっぱなしで国外へ逃亡しワッハッハです。このように全編悪の花が咲きっぱなしの映画にもかかわらず後味は妙に爽快。ピカレスクロマンの隠れた傑作と言えます。丹波哲郎が出てるので大作感もバッチリ。あと日本映画を代表するバイプレーヤーが多数出演するなか、一人だけノーグルーヴィな棒読みでさらされてる人がいるので誰かと思ったら角川春樹でしたよ。


他に見どころとしては、過去に夏木に関わった人物(彼が手を下した訳ではありませんが、全員死んでいます)が突如幻想シーンに登場、全員暗黒舞踏のような白塗りで演技の火花を好き勝手に散らしまくるというシーンが必見です。中尾彬は良く判らない真っ赤なドレスを風になびかせながらあの顔でこちらに迫ってきますし、岸田森に至っては何の脈絡もなく野球のユニフォームを着て投球モーションを見せるのでわたくしは吹き荒れるナゼ?の嵐に包まれるのでした。


(2000年07月31日)
白昼の死角
1976年 日本
監督:村川透
出演:夏木勲 中尾彬 丘みつこ 山本陽子