でました、モンティ・パイソン。今やすっかり大御所の監督、テリー・ギリアムを輩出したことでも知られる伝説のインテリギャグ集団です。もともとはTV畑の人達ですが、別名義で『バンデットQ』『ワンダとダイヤと優しい奴ら』など、映画方面にも業績があります。この映画は彼等がモンティ・パイソン名義で作った一大バカ絵巻、アホのパノラマです。しかし侮ってはいけません。めくるめくアホの中にも強力な毒と鋭い批評性を秘めているのが彼等の作品です。さすが、メンバーのほとんどがケンブリッジとかオックスフォードを出ているだけのことはありますが、見てくれは「大英帝国だよ!全員集合!」てな感じですので納得できるまでにはやや努力が必要です。
まさに「人生の意味」という原題通り、人間の誕生から死までを追って生きることの意味を問うという非常に哲学的思索にあふれた作品なのですが、パッと見にはそんなインテリジェンスを微塵も感じさせないところがスバラですね。映画はまず本編ではなく、前座の短編映画から始まります。『クリムゾン/老人は荒野を目指す』と題されたこの小品、過酷な労働条件で搾取され続ける会計事務所の老人たちがついに一斉蜂起、ビルを乗っ取って若僧どもを追いだすと、何故か突然ビルが帆船の様に大地をただよい始め、老人たちは経済の海を漂う海賊と化してビルを手当たり次第に襲撃して回りますが、最後は地球が丸いと思い込んでいたせいでうっかり世界のはしっこから落っこちてしまい完という、一体脳のどの部位で考えればこんなアホな話を思いつくのか真剣に悩んでしまう怪作でした。しかしそこはそれモンティ・パイソン、ただ無駄に短編映画を冒頭に持って来たわけではございません。が、その訳はこれから観る方のために伏せておくことに致しましょう。
さてテリー・ギリアムによる気合いの入ったタイトル・アニメのあと、ようやく本編の開始です。以後、「出産」「成長と教育」「中年」などなど、人生が節目節目で区切られて章分けされ、そのテーマごとにショートコント(ファンは「スケッチ」と呼ぶとか…)が何本か用意されているという形式です。いずれのテーマもきっつい毒とアホな笑いに満ちあふれておりますが、何といっても凄まじいのは「出産の神秘/第三世界編」でしょう。「第三世界編」とい言い切ったそばから片田舎の工場町の風景が出てきて「ヨークシャー」とテロップが入ったりしますから愉快です。そんな田舎の子沢山の一家。子沢山といってもこまかいのが50人ぐらい居たりしますから半端ではありません。が、お父さんは失業してしまい、生活に困った挙句、余りまくっている子供たちを科学実験用に売ろうとします。
「恨むならカトリック教会を恨め。我々もコンドーム禁止には困ってるんだ」
「ペッサリーじゃダメなの?」
「信者増加率No1の維持のためだ」
というあんまりな問答のあと、お父さんは突然高らかに歌い始めます。
「全ての精子は神聖なり
全ての精子は偉大なり
精子を無駄にすることあれば
主の怒りやあらん」
この気のふれた歌を、お父さんだけならまだしも、山ほどいる子供たちも一緒になってほがらかに合唱するのですから口アングリです。しかも、
「異教徒どもには不毛の地に
射精したくばさせておけ
主は必ず罰をば下されん
精子が二度と見つからぬよう」
などというアグレッシブな歌詞を、歯の生え代わる年頃の女の子にソロで歌わせるという荒業をも見せてくれます。歌はこの上なく盛り上がり、子供たちは外に繰り出して「全ての精子は…」を連発しながら歌い踊り、『アニー』や『オリバー!』もかくやという大ミュージカルシーンへと発展してゆきます。ボケッと聴いてると、
「ヒンズー、タオ、モルモンは
所かまわず射精する
しかし我らが主は
自らのザーメンを助くるものを助く」
と、一部地域では非常に差し障りのあるフレーズもあったりしますので油断なりません。やがて歌は街中に広がり、最後には花火があがるわ、ドラゴンの山車が出るわで街中大盛り上がりのうちに歌はフィニッシュ。そしてその直後に
「というわけで、君たちとはお別れだ」
とお父さんが冷たく言い放ち、子供たちはしょんぼり「全ての精子は…」と歌いながらドナドナのように売られてゆくという、涙なくしては見られないオチ。しかもその光景をプロテスタント教徒が見てカトリックの前時代性を批判しまくり、普通どころかイボつきコンドームまでも使える喜びに思いを馳せるという徹底ぶり。
全編この調子で、一歩間違えれば政治問題にも発展しかねない危険なネタが繰り広げられ、見るものに強烈な印象を与えます。かと思えば突然何の脈絡もなく「映画の中間地点」というテロップが出て、息抜きに「魚探しゲーム」などというガイキチなゲームが突如始まったりというナンセンスさ。こうした批評性とアホらしさの共存がモンティ・パイソンの真骨頂と言えましょう。この危険さには日本の配給会社も二の足を踏んだのか、カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞したにもかかわらず劇場での公開は見送られたといいます。幸いビデオは最近再販されたようですので、是非ご覧になって頂きたい。エンド・クレジットの最後まで目が放せませんから。
(1998年)