阪本順治の『顔』を観ました。今さらですが。


今年のいろいろな映画賞を総ナメにした映画で、とっくに公開は済んでいた映画なんですが映画賞効果でアンコール上映。まことに正しい商売根性のお陰でこうして劇場で観る事ができました。ありがたやありがたや。


ちなみにこのアンコール上映を行った札幌の某映画館。ゲーセンとボーリング場と映画館がイッショクタになった一見ライトな感じの劇場ですが、ゴジラとかクレヨンしんちゃんとかを上映するかと思えば時々発狂したようなチョイスでカルト映画を唐突に上映するので個人的にお気に入りです。過去にダリオ・アルジェント特集、ブルース・リー回顧上映、『発狂する唇』、ラス・メイヤーのカルト中のカルト『ワイルド・パーティ』などを上映した実績アリ。札幌でシベ2を上映するのはこの劇場しか無いのではないか、とか思っていますよ。


えー話がズレました。


この『顔』という映画、期待通りの傑作でした。ひきこもりの冴えない中年女が、肉親を殺し、その逃亡の過程で徐々に社会性を身に付け、一人の女としてのたくましさを身に付けてゆくという…。藤山直美という強烈なキャラクターと、阪本順治の骨太な演出ががっぷり四つに組み合い、おかしみと悲しみが綯い交ぜになった忘れ難い味をかもしだしております。


…と、ここまでは阪本ファンとしては予想の範囲内。予想を上回って良かったのは大楠道代演じる場末のバーのママさんで…。この人手首にためらい傷があったりしてそうとうヘヴィな人生を送ってこられた御様子ですが、それだけにスネに傷もつ人々への思いやりが深い。その優しさが泣かせます。途中、母親に見捨てられた子供を寝かし付けるシーンがあったりしましたが、そのシーンの優しくて悲しいことと言ったらもう…。その反面、身を切るような寂しさにさらされてるシーンもあったりして、終盤に藤山直美が去ってゆき、独り彼女が取り残されるシーンが悲しくて悲しくて仕方がないのです。


この大楠道代という人、鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』では腐りかけた水蜜桃をチュパチュパむさぼり食うというシーンで異常なインパクトを炸裂させてまして、けっこうエキセントリックな女優さんだと思ってましたが、こういうどこにでもいるような人物をここまで哀切に演じられる人だったとはオドロキでした。


この人といい主演の藤山直美といい、そういえばこないだのビョークといい、ちょっと前ならクリスティーナ・リッチといい、最近は女性の演技に例えようの無い凄みを感じることが多くなりました。気のせいかどうか。


(2001年02月05日)

2000年 日本
監督:阪本順治
出演:藤山直美 豊川悦司 國村隼 大楠道代