えーやっとこさ観てきました『イノセンス』。なんかこう予告映像観ている限りではどんな話なのかピンと来る物がなく「あーまた電脳化された登場人物が自己と他己のはざまで己の存在について禅問答合戦の果てに色々撃ったり撃たれたり出たり消えたり」とか思って、やっぱり攻殻機動隊というイレモノの中でやってる以上は同じコトの繰り返しに成らざるを得ないのかしら、しかも話題のビジュアルも予告映像を観ている限りではセルとCGの質感の違いが気になって果たして大丈夫なのかコレ。しかも主人公が犬をかかえたゴツいオヤジであまりに色気レスときた。…と心配に次ぐ心配に次ぐ心配だったわけで、まああんまり期待せずに劇場に入ったわけですね。
で、感想。
感想1)
予想は少し当たっていました。極度に電脳化された人間の意識が、自と他の境界を見失って慢性的なアイデンティティ不全に陥っているなか、繰り広げられる禅問答の応酬。というあたりは前作と全く同じノリだったわけですが、向いている方向は全く違います。前作においては意識がネットの海に向かって開いてゆくのに対し、今回は己の肉体に向かって閉じてゆく全く逆の方向性。切り口の違いに「…そうきたか…」とBOSSおじさんの顔で感心です。
感想2)
と、判ったようなことをしたり顔で書いてみたくなるのが押井守の映画の副作用。ってか、一本の映画としては詰め込まれた情報量が絵、話、台詞のいずれをとっても半端ではない。とても一回の鑑賞で舐め尽くせるものではありません。あと数回は納得ゆくまで観たおしたい、と思わせる情報の圧縮っぷり。一回観たぐらいじゃわたくし程度の処理能力では判ったフリで誤摩化すほかはありません。特に台詞は論語とか聖書とか哲学書からの引用に次ぐ引用で、なんだか判ったような判らないような、取りすがるハシから煙幕投げつけられて道に迷いそうになるのを野生のカンだけで必死に追いかけている感じです。
感想3)
ただ、驚いたことに今回はそのへんの難しいハナシをすっ飛ばしてもオッケー!という意外な親切設計が炸裂。銃撃戦を中心としたアクションが要所要所ではじけ飛び、特にクライマックスのアレの大量襲撃や、そこへ颯爽とあんなかたちで現れるあのお方など、燃える要素満載。ジョン・ウー風銃の突きつけ合いもあったりしておもわずニヤリ。そういえばハトも飛んでいました。あと可笑しかったのが成田美樹夫ソックリのヤクザの若頭。見た目だけかと思ったら喋りもソックリでニヤリニヤリ。
感想4)
このように作家性と娯楽性がバッチリ両立していておおブラボー。いやあええもん観た。いまや日本のアニメはここまで先鋭化されているのですどうですかみなさん!…と胸を張って紹介したいところですが、しかしこれ前作である『攻殻機動隊』を観ていないことにはなんのことだかサッパリという部分が余りにも多く、その説明もほとんどナシ。しかも宣伝材料をパッと見ただけでは続編である旨がまるで判らないという、まるで京都の老舗のような一見さんのお断りっぷり。とにかく「アニメだから」という理由だけで何も考えずに入ってきたとおぼしき親子連れが、上映後はムジナに馬糞でも食わされたかのようなキョトンづらで退散してゆくのが大変不憫でした。おそらくガキの心には数々の素晴らしいトラウマがねじ込まれたことでしょう。こういう映画があっても別にいいとは思いますけど、間口を広げたなら広げたなりのフォローはあってしかるべきじゃないかと思ったり思わなかったり。
感想5)
最後にひとこと。ビジュアルはその緻密さにおいてもの凄いコトになってるので一見の価値あり。これは大画面で見といた方がよろしいかと。
(2004年04月17日)