北斗の拳

えータダでさえ夢見がちな少年時代を全盛期の少年ジャンプと過ごした身としましては、「北斗の拳」がハリウッドで実写映画化!と聞けば期待のあまり全身の経絡秘孔がピクピクするのも無理からぬことであろう…とか思うわけですが、TVでちょっと流れた映像は、パッと観た感じ漫画の世界観を無難に再現してるように見えつつじんわりにじむ香ばしいZ級感。ビッコンビッコン警報を発するわたくしの水子センサー。というわけで、少年のころの夢がデストロイされそうな予感に公開当時は慎んで敬遠させて頂いていたのですが、最近になって某方面から

「あれはヤバいよ…」

という熱いタレコミを頂いたのでおそるおそる観てみることにしました。


亜米利加で制作されたとはいえ、資本は日本のVシネ筋らしいので画面全体には隠しようのない低予算感が。主演のはずの男はケンシロウと呼ぶには余りにもカリスマに欠けたタダの筋肉自慢ですし、可憐な美少女のはずのリンはプアーな小娘。ちゃんとバットも出てきますが原作との共通点は「男」「若い」「生意気」ぐらいしかなく、もはや北斗神拳という単語がでてこなければ何の映画かサッパリ判らない独自の脚色が光っています。そういや冒頭にケンシロウの父・リュウケン役であのマルコム・マクダウェルが出てきてオオッと思わせますが、冒頭の5分ですぐさま死ぬので推定拘束時間は3時間ぐらいとみた。まあ『時計じかけのオレンジ』ファンとしてはトホホとうなだれるしかありませんが、この人『カリギュラ』みたいなゲテモノにも出てるしなあ。こういうのが好きなのか。実は。


さて北斗の拳といえばおなじみのスーパーバイオレンスな暴力描写。しょてから殴った男のアゴが90度ヨコ向きになったりするのでにがーく笑かしてくれます。ケンシロウも

「お前はすでに死んでいる…」

なんてキメ台詞を英語で喋ってくれるのでナイスですが、肝心の北斗神拳の描写が擬音にすると「ホトホトホトト」といった肩凝りに効きそうなシロモノなので脱力のあまり瞳孔が全開に。こんなん北斗神拳ちがうわー!という叫びも空しく画面では吹き荒れる砂嵐。観客の心象風景を的確に表しています。


ストーリーはコミックスでも初期に描かれていた、ケンシロウ、ユリア、シンの3角関係が軸になっております。ユリアを演じるのは鷲尾いさ子。セリフが全編英語ですがケンシロウの名を呼ぶときも「ケンシーロゥ」と怪しい英語風のアクセントになっているのが御愛嬌。シン役の人は割と原作に近いイメージの人ですが、ケンシロウと同様面構えが迫力に不自由していて悲しいです。


シンといえば南斗聖拳。コミックスでは相手にボッコボッコ指で穴を開けるような拳法だったと記憶しておりますが、映画ではシンが殴った敵は全身から血を吹き出して死ぬということになっており、映画版独自の設定なのかしらと思う反面、もしやコイツら北斗神拳と南斗聖拳の区別すらついてないのではとあらぬ疑念が頭をよぎります。


まあ最後は漫画の通りケンシロウがシンを倒して劇終ですが、全体的に予算、まごころ、技術力の全てが欠けた3無い映画というほかはなく、逆にあまりのひどさに笑いが生まれる…かと言うとそうでもないという言葉の真の意味での駄作。わたくしはうっかり原語版で観てしまいましたが、日本語吹き替え版はケンシロウをアニメ版と同じ神谷明先生が吹き替えていたとの由。こちらを観ていれば、もしかしたら何か珍妙な面白さがあったのかも知れません。知れませんがしかし。


(2001年10月19日)
北斗の拳
Fist Of The North Star
1995年 日本・アメリカ
監督:トニー・ランデル
出演:ゲイリー・ダニエルズ コスタス・マンディラー 鷲尾いさ子