ガンドレス

えー最初にお断りして置きますが、今回観たこのビデオ、ウルトラセブン12話並みにイリーガルなルートから流出してきたことは想像に難くなく、このビデオの存在が製作元に知れた日にはコワイ人から内容証明がビスバス郵送されて来ないとも限りませんので、用心のため画像はパスさせて頂きます。まあこの作品については、どうしても画像を見て頂かなくてはその凄まじさが伝わりにくいと思いますが、検索エンジンで探せばそのものズバリ見たいトコロがバッチリ見える熱い画像 がアップされておりますのでそちらを参考にして下さい。あと入手ルートやビデオ複製についてのお問い合わせには一切お答えできません。当然だ。


まあなにゆえこのビデオがそれほど問題視されるのか、ここに来ておられる方はおおかたその理由を御存じでしょうが念のため解説しておきましょう。某有名漫画家がブレインとして参加したこのアニメ映画は、99年3月の公開を目指して製作が進められているハズでした。が、どうも雲行きが怪しい。公開日は迫っているのに、初号試写すら行われない。ようやく組まれた試写の日程もどんどん先延ばしにされるばかりでしたが、まあ日本のアニメ業界の慣例として製作の遅れは日常茶飯事なので、プロデューサー氏の「絶対間に合います。大丈夫」というアッパーな発言に配給会社もうっかり油断してしまったと見えます。いやここで配給会社の人がちょっとでも進行具合をチェックしていればこんな悲劇は起こらずに済んだものを…。とまあ過去を悔やんでも面白いだけなので止めましょう。


ところがこれがポルポト派もビックリの対人地雷でした。公開二日前にしてようやく配給会社の人が見せられたそれは、音声ズレズレ、動きガクガク、色も満足に塗られていないという未完成という名の壮絶なアバンギャルド作品だったのです。


このときの配給会社の人の驚きは如何ばかりだったか、想像するだに泣けてしまうフリして笑いが止まりませんが、この公開二日前に行われたスタッフ向け試写会では会場が騒然となり、出演した声優さんの怒号が見事な声優ボイスで乱れ飛んだとも伝えられます。


真に青くなったのは配給会社の人です。これを知らん顔して上映するのは全身にハチミツを塗りたくって蟻塚に突進するぐらい無謀な行為といえます。さりとて上映2日前では興行予定を変更する訳にもいきません。最終的に配給会社が取った策とは、未完成ということを白状したうえで公開し、希望者には前売券の払い戻しを行い、それでも観たいと言うマニアックな方には後日完成版のビデオを送付するという前代未聞のシロモノだったのです。


この完成版のビデオはのちに無事送付され、商品としてのビデオ版も市場に出回りつつあります。製作者サイドにしてみれば劇場でかかった未完成版はまさに

恥辱の黙示録

でしかない訳で、封印されるのも当然。あのアバンギャルド炸裂のバージョンを目にする事ができたのは、当時噂を聞いて劇場に駆け付けた一部の人だけ…でした。


わたくしがこの事態を知ったのは上映終了から1週間後の事。すでにネット上には

「俺も観た」
「俺も」
「ヤバいよこれ」
「一生に一度観られるかどうか」

などと噂がトマホークのように飛び交い、ついにはそれ専門のサイトまで立ち上がる始末。もう永久に観られない、と思うと無性に観たくなるのが人情でして、ちくしょーあの時知っていれば何をおいても駆け付けたものを…と悔やんでみましたが後の祭り。未完成版という性質からこのバージョンが商品として世に出されることは金輪際無さげですので、劇場版は上映終了と同時に伝説と化してしまった感があります。


その、封印されたはずの劇場版がなぜ今わたくしの手元にあるのか…。こういう事があるから人脈ってえのはバカにできません。やはり持つべきものは盟友とアコムのカード。お礼にシベ超のビデオを渡して借りたそのビデオ、早速観てみました。


レンタルビデオなどでお馴染みの「このビデオを無断で複製することは…」という警告文や、他のビデオの予告といったお約束映像が全く出てこず、いきなり開巻から激しく打ち寄せる波頭と東●の三角マークが登場。しかも何世代にも渡ってダビングされたものらしく、画質が往年の裏ビデオのように極悪。この強烈なアングラ臭に、思わず中学生のころ友達がオヤジのタンスから盗んできた裏ビデオのことを思い出してしまい、妙な興奮を覚えましたがそのわたくしも来年は三十路です。


本編が始まります。内容は隊員が女の子ばかりのロボット私設警察の話らしく、今どきのマニア向けアニメの趣が強いのですが、作画や動画の激しいガタガタさ加減はまるで昭和40年代から時空を超えて来たかのようです。動画の中割りも極端に少なく、動きも気まずいを通り越して異様。登場人物に至ってはカットごとに毎回顔が変化するので、キャラクターの区別すらキチンとできません。恐ろしいのはこれらのシークエンスが比較的完成型に近いのではと思われることで、初手からこの調子では未完成部分はどんな壮絶な事になっているのやらと歪んだ期待は暴発寸前です。さらに言えば、爆発音やセリフが映像からちょっとズレるだけでこれほどまでに間抜けな空間を演出できるのか、という点にはわたくし仕事柄深い感銘すら覚えました。


散々イヤな予感をまき散らしたあと、ようやくタイトル。脇にチョコンと書かれている「映倫」の文字が悲しいです。映倫もたまには毛とかマラとかだけじゃなくこうした暴挙にもチェックを入れて欲しいものであります。


話はテロリストと主人公たちの攻防、人間関係を軸に進んでゆきますが、画面の余りのいびつさに目がクギヅケになるので話を追う気が全く起こりません。瞬間移動を起こすタバコの煙、お好み焼き屋のカウンターでいきなりビチビチ痙攣を始めたあげく、腕を焼けた鉄板の上に乗せて会話する女の子、ラーメンのドンブリから無限に出続けるナルトなど、「世界のミステリーゾーン」のような光景が繰り広げられ、観るものを映像の亜空間にいざないます。


まあしかしここまでは比較的マトモなのです(書いてて頭痛がしてきますが)。この映画が真の爆発力を発揮するのはカウンターが30分を過ぎた頃から。初めは短いカットでしか使われていないので気が付きにくいですが、突然止め絵でも堂々と使われ始めて観るものの心臓は激しくこむら返りを起こします。

「い、色が…」

スゲー!色が塗られてない!
い、いや塗られてはいるんですが、単色でのベタ塗り!


つまり、人間の顔が目から髪から口から全部肌色一色で塗りつぶされていたり、コスチュームが紫色一色だったり、メカが水色一色だったりと、カンシャクを起こした幼児のぬりえのような世界がこともあろうに商業映画で繰り広げられているのです。これはもう出来がどうとか、クオリティがどうとかの問題ではありません。いくら事前に断わりを入れているとは言え、これを公開して金を取るのはアリなんですか!と声を大にして叫ぶ観客をよそにベタ絵は大増殖。さらに色が輪郭線をはみだしてアメーバのようにうごめいているのを見るに至っては「つらかったね」「たいへんだったね」とマザーテレサのように語りかけたくなります。


話も中盤を過ぎ、映像はさらにヤバさを増してまいります。スタッフの苦しい努力もいよいよ息切れを起こしている御様子。涙なくしては観られません。動画の中割りも極端に少なくなり、ギクシャクを通り越して瞬間移動の域に達しています。この物理法則を超越した動きはあの『マトリックス』をも先取りしていた、と言えなくもないと言うか、言えません。さらに、ピクリともしないミサイルの絵に「バシュー」という効果音を当てて飛んでいると言い張る手法には熱い省エネ魂すら感じました。あとカットが変わるたびに登場人物の髪の色が変わるのは心底カンベンして欲しいです。手ェ抜くのにもそれなりのやりかたがあるもんでしょうに…。ねえ。


以後、この動画クオリティを維持したまま話はラストまで爆走します。終盤、安い『バーチャルウォーズ』みたいなCG空間を裸の男女が乱舞しながら大ゲンカするという大弱りシーンで観客が精も根も尽き果てたころ、ようやくラストシーンへ。ああ、ようやく終わった…とホッとするのも束の間、スタッフロールを見れば何か異様に不自然な空白があったりするので気まずさが映画が終わってもなお持続します。そりゃだれも好きこのんでこんな出来の作品に名前を乗せたりしないよなあ…。


これまで数々の映画を「水子映画」と銘打って紹介してきましたけれども、言葉本来の意味で「水子映画」と呼べるのは真にこの一本だけ、という気がします。かの有名なアニメ映画のセリフを借りるならば、

「腐ってやがる…。早すぎたんだ」

なんか余りにピッタリ過ぎて、シャレになってませんね。まあDVD版に特典映像として劇場版を収録、なんて気の狂った事態が起きないかぎりこの映像は幻として封印されることでしょう。このようなかたちとは言え、それを目撃できたことはまことに僥倖と言わねばなりますまい。何がどう作用すればこんな事態になってしまうのか。誰も止めることはできなかったのか。映画製作に潜む魔物、みたいなものを目撃させて頂いたよな気がします。


追記:
その後、『ガンドレス』のDVDが発売されましたが、何と映像特典として劇場公開された未完成版を収録との由。いやあマジで出すとは思いませんでした。『ガンドレス』の商品価値は、もはやこの未完成版をめぐる騒動にしかない、ということを制作者サイドが認めてしまったも同然で、やっぱりイカれた事態と言わざるを得ません。なお、のちにCSにて完成版も鑑賞しましたが、ハッキリいって未完成版と印象が全く同じで涙が止まりませんでした。合掌。


(2000年)
ガンドレス
Gundress
1999年 日本
監督:谷田部勝義
出演:石塚理恵 渡辺久美子 岡村明美