わたくしにしては随分長いこと映画館に行ってなかったのですが、やっとヒマができたのでいそいそと行って参りました。今年はサマームービーの当たり年で、話題作が毎週のごとく封切られております。ここで世間様に遅れをとっては映画通のコケンに関わる!と妙な義務感に駆られて観てきたのが『A.I.』。
期待作、問題作にありがちな賛否両論をかなり耳にしていたので、過剰な期待も斜に構えた姿勢もなく、わりとニュートラルなスタンスで観られたと思います。で、結論から言うと…。
そんなに悪くなかったです。悪くはなかったんですが、しかしこのサマームービー期待の超大作とは思えない辛気くささはどうだ。楽しーい、面白ーいと愉快になれるシーンがいっこもないのはある意味凄い。マスコット的に出てきて、トコトコ歩きで可愛げを振りまくかと思われたテディ・ベアも、スイッチ入って開口一番
「俺をクマと呼ぶんじゃねえ」
とドスの効いた声で凄むので実はココ笑っていいトコですかと思いましたが、客席は水を打ったように静まり返っていました。
…なんかこう予告では「真実の愛がウンヌン」とか言ってそこはかとないハートウォーム路線を臭わせていましたが、実際の映画はハートウォームには程遠い冷ややかさ。こりゃいったい何故?と思うにやっぱりスピルバーグはキューブリックを相当意識しているんだと思います。こういう冷ややかなタッチ、感情移入を許さない冷酷な演出。これはとりも直さずキューブリックの作風そのものです。さらに言えばルージュ・シティの造型は『時計仕掛けのオレンジ』を彷佛とさせますし、ラスト近くに至ってはあの映画にソックリだし…。なんだか観ているうちにキューブリック作品のパロディを観ているような気分になりましたよ。
結果的に、この映画はスピルバーグの作品でありながら、同時にキューブリックの味もするという、どっちつかずの作品になってしまいました。そして残念ながら、どちらの魅力も100%出し切れているとは言えず、何か煮え切らなさを感じさせます。
…でも、十分考えさせられる内容の映画ではありましたよ。そういった意味で悪くはなかったと思っておりますわ。ハイ。
(2001年07月21日)