NEW LOST RAMBLERS


 ■ NEW LOST RAMBLERS

  2008年8月1日(金)


Peter, Paul & Mary 『In The Wind』

ピーター・ポール&マリー 『イン・ザ・ウィンド』

Warner Bros / ワーナー・ミュージック・ジャパン WPCR-75414


 
曲目
In The Wind 01. Very Last Day
02. Hush-A-Bye
03. Long Chain On
04. Rocky Road
05. Tell It On The Mountain
06. Polly Von
07. Stewball
08. All My Trials
09. Don't Think Twice, It's All Right
10. Freight Train
11. Quit Your Low Down Ways
12. Blowin' In The Wind

 ♪1978年のとある日、全米の新聞・雑誌等がこぞってピーター・ポール&マリー(以下PP&Mと略)の復活コンサートを絶賛した。賞賛記事の伏線は、その少し前に発売されたPP&Mのリユニオン・アルバムにあった。西海岸でフォーク・ファンの心を捉えた作品を提供したゴールド・カースル・レコードから発売されたこの盤は、昔からのファンから温かく迎えられてベスト・セラーを記録した。こんな経緯から復活ライヴ・ショウが開催された。
 時は流れ、1985年7月下旬、ニューヨークで再びリユニオン・コンサートが催された。今度は“25周年記念公演”と銘打たれた本格的なコンサートだった。嬉しいことにPP&Mはこの日を契機に完全復活を高らかに宣言した。この日依頼、PP&Mは年に数回のライヴを行なっている。
 PP&Mは1960年代のフォーク・リヴァイヴァルの真っ只中、東海岸ニューヨーク・グリニッチ・ヴィレッジのフォーク・シーンから誕生した。仕掛け人はボブ・ディランザ・バンドオデッタジャニス・ジョプリンなど、数々のスターを手掛けて成功を収めたアルバート・グロスマンという男だった。ご存知のようにPP&Mは男2人、女1人からなるモダン・フォーク・コーラス・グループ。メンバーはピーター・ヤロウポール・ストゥーキー、紅一点のマリー・トラヴァーズだった。
 誕生話に面白い逸話が残っているので、まずこれを紹介しておこう。マネージャー役のアルバートは、50年代中盤「おやすみアイリーン」のヒットで一躍、アメリカン・ポップスの主役に踊り出たザ・ウィーヴァーズと、その後「トム・ドゥーリー」のヒットでスターの座を射止めたキングストン・トリオをイメージして、“フォーク・コーラスは金になる”と実感、男女混声グループの結成を思いつく。
 すでにグリニッチ・ヴィレッジの「コーヒー・ハウス」で高い評価を得ていたピーター・ヤロウマリー・トラヴァーズをメンバーにするアイデアは出来上がっていたが、肝心のもう1人の男性歌手には手がかりがなかった。そこでアルバートは、ボブ・ディランの師匠格にあたるフォーク・ブルース歌手、デイヴ・ヴァン・ロンクに白羽の矢を立てた。アルバートの唐突な誘いに、デイヴは直ぐ「ノー」と答える。次に声をかけたのが、ランブリング・ジャック・エリオットと共に、ウディ・ガスリー信奉者だったローガン・イングリッシュだった。こちらも「冗談じゃないよ」と断られてしまう。そこでメンバーとして急浮上したのが、マリーと仲が良かったポール・ストゥーキーだった。コメディアン、司会者、歌手として「コーヒー・ハウス」の人気者だったポールは、「やってみたい」と直ぐ返事をくれた。こうしてPP&Mは誕生した。アルバートは、自信ありげにこのフォーク・コーラス・トリオをワーナー・ブラザーズにプレゼン、めでたく1962年4月のデビューした。 
 本作品は、PP&Mの第3作目(アナログ盤発売は、1966年)に当たる。LP収録のボブ・ディラン・カヴァー「風に吹かれて」は、60年代フォーク・ブームの中でシングル発売され、大ヒットを記録した。この頃のディランはまだ無名に近い存在で、このPP&Mヴァージョンの「風に吹かれて」のお陰で、やっと名が知られることになる。
  このフォーク・トリオの大きな特徴は華麗なハーモニー・コーラスと、心地よいアコースティック・ギターのサウンドだった。スリー・フィンガー・ギターと呼ばれた温もりのギター音は、60年代の若者たちに絶賛された。もうひとつこのトリオの特徴は、社会性を帯びたメッセージ・ソング(トピカル・ソング)を積極的に取り入れた点だった。
 リーダー格のピーター・ヤロウは、1938年5月生まれ。生粋のニューヨーカー。フォークの父と呼ばれたウディ・ガスリー、社会派フォーク歌手として君臨したピート・シーガーなどに触発されて歌手となったようだ。高校時代からギター弾き語りで唄っていたという。55年、コーネル大学医学部に入学。が、学問よりフォークに夢中となってしまった。グリニッジ・ヴィレッジの「コーヒー・ハウス」で唄うようになり、ピート・シーガーの後継者と騒がれたこともあった。
 マリー・トラヴァーズは、ニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジ育ち。生まれはケンタッキー。2歳の頃に都会に引越ししたという。マリーの自宅の地下室では、モダン・フォークの先駆的グループ、ジ・オールマナック・シンガーズ(ウディ・ガスリー、ピート・シーガー、リー・ヘイズ、その他)の練習場所と化していたようだ。そんな関係からマリーは少女時代からニューヨーク・フォーク・シーンと深く関わっていた。やがてニューヨークの演劇学校に入学。ところが女優になる目的から外れて、フォーク・ソングに夢中となってしまう。小さい頃の体験がものをいったようで、マリーはフォーク・リヴァイヴァルの中心地であり、発信地でもあったグリニッチ・ヴィレッジの名門コーヒー・ハウスのいくつかの舞台に立つようになる。1961年、ポール・ストゥーキーと出会い、一緒にステージをこなすようになった。
 ポール・ストゥーキーは、1937年メリーランド生まれ。そうそうマリーは、1936年生まれ。後にグループを結成する3人は、同期生といった感じで、ピーター・ポール&マリーの長続きした理由は、案外こんなところにあったかもしれない。ポールは高校時代に若き日のボブ・ディランのようにロックンロールに夢中だった。ミシガン大学に入った頃には、カントリーも大好きになる。卒業後カメラ店に勤めるが、歌手への夢は捨てきれず、ニューヨークに向かう。そこで観たのが、ランブリング・ジャック・エリオットデイヴ・ヴァン・ロンクのステージだった。いうまでもなくこの2人が、初期ポールのフォーク・アイドルだった。60年、フォーク歌手としてプロの道に入り、コーヒー・ハウスで生計を立てるようになる。
 PP&Mのヒット曲をあげると枚挙にいとまがない。「パフ」「レモン・トゥリー」「天使のハンマー」「500マイルも離れて」「虹と共に消えた恋」「ア・ソーリン」「花はどこへいったの」などなど・・・。本作品はPP&Mのサード・アルバム(1963年発売)。収録曲「風にふかれて」「くよくよするなよ」などは、無名時代のディラン・カヴァー曲で、敢えていわせていただくと、このPP&Mヴァージョンがヒットしたお陰で、ディラン人気に火がついたといってもいい。

 
01. Very Last Day
 歯切れの良いアコースティック・ギターをバックに、フォーク・ミュージックにポップス・テイストを混ぜたセンスで展開するお洒落なデュオが聴きどころ。ピーターポールが古いフォーク・ソングを題材としてアレンジしたものだ。
02. Hush-A-Bye
 こちらも昔から伝わる子守唄をピーターがアレンジしたもの。マリーのレイジーなヴォーカルが哀愁を誘う。PP&Mでのマリーの存在がくっきり浮かんでくる作品。
03. Long Chain On
 素材が面白い。本作はアーカンソーのトラッド歌手、ジミー・ドリフトウッド(代表作は「ニューオリンズの戦い」)の作品カヴァー。ポールのブルーノートを効かせたブルース・ギターが印象的だ。
04. Rocky Road
 これぞPP&Mのハーモニーが楽しめるトラック。ピーターポール、マネージャーのアルバート・グロスマン作となっているが、こちらも唄い継がれてきたフォーク・ソングのアレンジ。若きディランが尊敬したトラッド歌手、ポール・クレイトンの十八番ソングとしても有名。
05. Tell It On The Mountain
 古くから唄われてきたゴスペル・ソングに触発された作品。軽快なフォーク・ビートに乗って、ワン&オンリーの素晴らしいハーモニーが楽しめる。
06. Polly Von
 数あるモダン・フォーク録音の中で、トップ・クラスに入る完成度の高い作品。イントロのアコースティック・ギター、ピーターの切ないヴォーカル、これを高める美しいハーモニー・コーラス、どれもこれも素晴らしい!
07. Stewball
 本作もトラッドのカヴァー。ここでもピーターの哀愁あふれるヴォーカルが冴え渡る。都会派ブルーグラスで名を馳せたジョン・ヘラルド&グリーンブライア・ボーイズのヴァンガード録音も高い評価を受けたことがある。
08. All My Trials
 かなりのフォーク・ファンだったら直ぐ判る有名曲。“フォークの女王”という異名を取ったジョーン・バエズのヒット曲としても広く知られている。
09. Don't Think Twice, It's All Right
 ヤング・ボブ・ディランが書き下ろした作品カヴァー。ここでの聴きどころは、軽快なフィンガー・ピッキング・ギター。ピーターポールの絶妙な掛け合い、ポールのセンスあふれるリード・ヴォーカルなど、もうファンを釘付けにした録音。シングル盤は、全米9位に輝いた。
10. Freight Train
 ここでのフィンガー・ピッキング・ギターも、「Don't Think Twice,It's All Right」と同様にあの時代の若者を魅了した。ソースは、ピート・シーガー家のお手伝いさんで、女性黒人ブルース歌手としても知られたエリザベス・コットンのフォークウェイズ録音。
11. Quit Your Low Down Ways
 ボブ・ディランのデモ・テープを聴いて感激した3人、即座にカヴァーしたのが、本作品だ。ロック・テイストが漂うワイルドさがたまらない。
12. Blowin' In The Wind
 誰でも唄ったフォークの名曲カヴァー。初期ディランの代表作。PP&Mのカヴァー・シングル盤は、全米2位に食い込み、アルバム売り上げが全米ナンバーワンに輝いたのは、この大ヒット曲を収録したお陰だったといわれている。PP&Mのお陰で有名となったディランはそのお礼にと、本作の米オリジナル・ビニール盤に珍しく解説を寄稿している。

(1990年 / 2008年7月加筆)



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